四度目
忍は貴方を待っていた。
貴方が来ることを知っていた。
当然だ。
開いてしまえば忍がいることが当たり前、開かれれば貴方が来たことを意味するのも、此処に来るに限らず当たり前。
忍はお代を貴方に求める気はさらさらないらしい、手招きをする。
「これが最後。或いは、過去に戻って二週目、三週目。」
忍の姿は以前と違ってはっきりしている。
けれども貴方は忍の顔を見ることは出来ない。
此処を照らす光が全て消えているのだから。
「あくむはそうもくにつけ きちむはほうおうとなれ。」
悪し夢を退け、良き夢へ。
貴方の眠りを忍は望んだ。
ぽたり、と血が忍の頬をつたって落ちていく。
「もう、景色さえ見えやしないけれど。」
忍は貴方に近付いた。
「今すぐ唱えて。お願い。あんたを眠らせる前に。」
その手に刃があることを貴方はこれを読んで知った。
けれど、抵抗する術がこの物語には無い。
貴方は此処で忍の行動を知らず、結末を迎えることを拒むだろうか。
忍はまた一歩貴方に迫った。
貴方はまだ、閉じることをしない。
忍の持つ、忍刀が貴方の首を狙っていることを、貴方はたった今気付いた。
貴方は、忍に腕を掴まれる。
「いろはにほへとちりぬるをわかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑいもせす。」
忍がそう唱えた。
もう一度、もう一度。
「呪詛返しなんて意味を成さない。少なくとも、今は。」
雷が鳴り始める。
天候を貴方は今知った。
「どうしてまだ止めないの?現実じゃ死なないってわかってるから?」
忍が貴方の首に刃を添えた。
首に刃が掠めるような感触を、読んで知る。
「そう、さよなら。ずっと呪文、唱えて、貴方を最初から狙ってた。」
貴方の首は、地面に転がっている。
忍は指を見上げて一礼した。
「此処まで物語を進めてくれて、ありがとさん。おかげで任務、達成したよ。」
ずっと呪文 影宮 @yagami_kagemiya
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