第3話 軍人、町を目指す
「ところでこの星に人間はいるのか?」
星まるごとベースとしてゲーム化した以上確実に存在するとは思うが、既に何百年も経ち、人類が絶滅している可能性もある。
「探索いたします」
シヴィはそう言うと、空高く浮き上がる。
高く、高く、浮き上がってあっという間に見えなくなってしまった。
シヴィには遠視レンズが組み込まれており、100キロ先まで見渡せる。
「北の方角に町のような場所を発見しました。距離は約60キロメートル、人影のようなものも見えます」
「少し遠いが、歩けない事もないか……08のステルス機能は生きてるか?」
「問題ありません」
「では起動してくれ」
08に搭載されたステルス機能は周りの風景と完全に同化し、触れなければわからない程精巧だ。
人がいるとして、見つかったら面倒なことになりそうだからな。
すぐに08は透明になり、見えなくなってしまった。
ついでにシヴィ自身も、である。
こんな球体がふわふわ浮いていたら、騒ぎになるかもしれないからな。
シヴィとは感覚を共有しているので、念話で話すことが可能。
『じゃあ町に向かうか』
『了解』
俺の思考にシヴィは答えた。
軽くストレッチして、走り始めると、一気に景色が流れていく。
とんでもない速さだ。身体もとても軽い。疲労もほとんど感じない。
『アレクセイ、時速40キロは出ていますよ』
『自動車並みだな。まだ軽く走ってるだけなんだが』
魔素おそるべし。本当に人体に危険はないんだろうな……
だがこれなら二時間も走れば着きそうである。
走り始めて一時間、ようやく建物が見えてきた。
『ここからは少しゆっくり行くか。あまり早く走るのを見られてもな……む』
『どうかしましたか? アレクセイ』
『何か声が聞こえた。美女の悲鳴ようだったが』
『美女かどうかはともかくとして、女性の声は聞こえましたね』
『この手のゲームで悲鳴が聞こえたら、モンスターに襲われている美女が助けを求めてると相場が決まってるんだよ!』
『……妙に具体的ですね』
異星でのバカンスを楽しむなら美女の一人や二人とは仲良くなっておきたいところだ。
ゲームっぽい世界をベースにしているようだし、胸元をがばっと開けてムチムチの太ももを覗かせた、セクシーな美女とかもきっといるに違いない。
助けたお礼にキスの一つもしてくれるような可愛い子ちゃんならなおよし。
ぐふふ、テンションあがってきたぜ。
『くそぅしんぼうたまらん。行くぞシヴィ!』
『あぁもう、はしゃぎすぎですアレクセイ』
声の方に方向転換し、駆け出すとシヴィは渋々ついてくる。
しばらく走っていると、一人の女性が先刻の小人……確かゴブリンに囲まれていた。
後ろ姿しか見えないが腰まで伸ばした美しい金髪、どう見ても美女である。
「邪魔だ!」
即座に飛び込んだ俺は、女性を取り囲んでいたゴブリンに勢いのまま飛び蹴りを喰らわせた。
「ギ――!?」
ゴブリンは小さく呻き声を上げ、真横一直線にすっ飛んでいく。
そのまま岩石に当たったと思うと、深くめり込んでしまった。
岩の隙間からはミンチになったゴブリンが消えていくのが見え、頭の中にゴブリンを倒したとメッセージが流れた。
……レベルアップって怖い。次からは手加減しよう。
「ギィィ!?」「ギャッギャッ!」
ゴブリンたちはそれを見るや、一目散に逃げていった。
賢明な判断だ。俺も無為な殺しはしたくなかったし。
「あ、あの! 助けていただいてありがとうございますっ!」
後ろから鈴のような声が聞こえてくる。
おっとそうだった。可愛い子ちゃんを忘れていたぜ。
俺はそそくさと髪の毛を整えると、颯爽と振り向いた。
「無事だったかい? お嬢さん」
だが俺の目の前にいたのは、美女というにはあまりに幼い少女だった。
身長は130くらい。可愛らしいが幼い顔立ちで、歳は14、5くらいである。
長いスカートで質素な衣服の、田舎の村娘といった様相だ。
加えて身体も細く、胸もない。
色気のいの字もない、爪楊枝のような細っこい少女だった。
つまり、まぁなんというか……子供である。
うーん、残念ながら完全に守備範囲外だな。
俺は22から28くらいまでの成熟した女性がタイプなのだ。
あからさまにがっかりする俺を見て、シヴィはくすくすと笑っている。
機械の癖に感情豊かな奴である。
だが少女はそんな事を気にする様子もなく、目をキラキラさせて俺の手を取ってきた。
「私っ、リルムと言います! このたびは命を救っていただいて、なんとお礼を言っていいか……」
「あー、うん。そうか。よかったね。それじゃ」
悪いが子供に興味はない。
適当に切り上げて立ち去ろうとしたが、リルムと名乗った少女は俺の手を放さない。
「あの! お礼をさせてください! ぜひ!」
「気にしないでくれ。礼を言われたくて助けたわけじゃない」
「そう言わず!」
俺はリルムの相手をせず、すたすたと歩いていく。
だがリルムは諦めず、俺に話しかけてくる。
「あなたは命の恩人です! 私に出来る事なら何でもやりますから! ね!」
「あーもうしつこいぞ。ついてくるんじゃねぇ」
あまりのしつこさに振り払うと、リルムはようやくついてこなくなった。
全く自分勝手だな。これだから子供は嫌いなんだ。
にしてもついてこないな……少し不安になってこっそり振り返ると、リルムは目に涙をいっぱい溜めて俺を見ていた。
『あーあ。泣ーかした。泣-かした。子供相手に大人げないですねー』
シヴィが楽しそうに囃し立てる。
ったくこのクソAIめ。くだらない機能ばかりつけやがって、帰ったらメカニックに苦情を言ってやる。
だがリルムを置いていきたいのは山々だが、よく考えたらここに置いていったらまたモンスターに襲われるかもしれない。そうなったらちょっと寝覚めが悪い。
俺はため息を吐くと、リルムをちらりと見て言った。
「はぁ……仕方ないな。ついてこいよ」
「本当ですかっ!」
「ただし、町までだからな。送るだけだぞ」
「はいっ!」
わかっているのかいないのか、リルムは小走りで俺についてくるのだった。
異星の冒険者~宇宙兵器で世界最強~ 謙虚なサークル @kenkyo
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