第6話 今後の方針


「で、これからどこ行くんだ?街か?村か?」


 握手を交わした後、礼路は意気揚々とネイシャに話しかける。

 ネイシャが仲間になってくれたことがとても嬉しく、ついつい口調も早口になってしまっている。


「はいはい、ちゃんと考えてあげるから待ちなさい……まったく、仕方ない聖拳だわ」


 対するネイシャは相変わらず素っ気ない。

 しかし先程までの嫌そうな雰囲気は感じられず、嫌味を言いながらも笑みを浮かべている。

 その様子が、また礼路を嬉しくさせていた。


「そうね……正体を明かさず、多くの勇者を見れる場所。屋敷に戻ることも出来ないから、ある程度の資金も必要ね……」

「そ、そうだな。確かに今後生活するなら、金も必要だもんな!」

「ちょっと、近くでそんな大きな声出さないでくれる?」

「あ、ごめんごめん……ははっ」


 軽く注意されたが、それすら今の礼路には心地よかった。思わず頬を緩め、だらしない表情をしてしまう。

 突然の異世界に戸惑う事ばかりであったが、今ばかりはこれらかの旅に楽しみを抑えきれないでいた。


「……よし、決めたわ。王都に行きましょう」


 そんな礼路を完全に無視し、ネイシャは真剣な表情でそう言った。

 礼路はお花畑になりかけていた頭を再起動させ、ネイシャの方を見る。


「王都……王様がいる大きな街か?」

「えぇ、そんなところよ。あそこで適当なギルドに加入して、クエストを受注していくの。そうすればお金も手に入るし、王都にいる勇者たちを間近で見れるわ」

「すげぇ、確かにそれなら上手く隠れながら真の勇者探しが出来るな!」


 ネイシャの考えに、礼路は素直に賛同する。

 もしこの森のように、全く人がいない場所に居ても、肝心な勇者探しが出来ない。ならばいっそ、人が多い都市に住みながら、勇者と会う機会が多い仕事をするのがベストだろう。


「まさか自分が探してる聖拳が、ギルドでクエスト受注してるなんて思わないだろうしな」

「そういうことよ。まぁクエストには魔物退治とかあるけど、アンタなら多少は問題ないでしょ。私もいるし」

「おぉ、なんとも心強い……ていうか、ちょっと待ってくれ」


 手の平をネイシャの前に出し、礼路は彼女を静止する。

 当たり前のように聞いていたが、とんでもないことをことに気付いたのだ。


「なぁ、今まで普通に聞いていたんだが……ネイシャは魔法が使えるのか?」

「はぁ?何よ今更。勇者じゃなくてもある程度修練すれば、簡単な魔法くらい覚えられるわよ」

「ま、マジか。すげぇ、俺の世界じゃ魔法なんて、絵本の中にしか出てこない代物だったんだ」

「へぇ、随分不便な世界ですこと。その絵本だと、どうやって魔法を使っているのかしら?」


 さすが異世界、勇者に魔王とくれば、魔法だってセットで付いてくる。そう思い、礼路はその目を輝かせる。

 色んな漫画やゲームで見た、あらゆる奇跡を起こす魔法。

 それが実際に存在することを知り、礼路は改めて異世界のファンタジーさを実感していた。


「まぁ、物語によるんだが……大体はマジックポイント的な体の中の何かを使って、呪文とか唱えて発動させるのがほとんどだな」

「……ふーん。まぁマジックポイントなんてふざけた名前を魔力に置き換えれば、大体は合ってるわね」

「お、そうなのか」


 もっと複雑な話になるかと礼路は覚悟していたが、案外自分のゲーム知識も通用するのだと安堵する。

 世界は違えど、何かを消費して生産するシステムは同じなようであった。


「魔力ってのは、体の中にあるのか?」

「まぁ、基本的にはそうね。場合によっては魔導書に宿っていたり、場所そのものに在ったりするけど」

「ち、因みに俺も使えたり……」

「さぁ?私は体の中まで見ることはできないし、いっそ解体してみましょうか?」


 ニヤリと笑ってネイシャは軽口を叩く。

 礼路は適当に愛想笑いをして軽く流しながら、こんな冗談も言えるんだなとネイシャを見て思っていた。

 

「ネイシャはどんな魔法が出来るんだ?」

「一応、基本的なところは抑えているけれど……そうね、得意なのは転移魔法かしら」

「転移?」


 てっきり炎やら水やら、定番チックなモノを言ってくるかと礼路は思っていた。

 礼路は転移と聞いてどのような魔法なのか想像してみるが、イマイチ具体例が想像できない。目を細めてやや上を見続けているが、実際は何も見ておらず思考に集中するばかりである。

 ネイシャはそんな礼路を見るとローブの中に手を引っ込め、ゴソゴソと何かを探し始めた。


「まぁ聞いても分からないようですし、実際に体験させてあげましょう」

「え、マジかよ!?」

「マジもなにも、転移無しでこの森から王都に行こうとしたら何日もかかってしまうわ。不本意ですけど、貴方のために使ってあげましょう。えぇ本当に」


 ハァとため息をつきながら嫌味を言うネイシャであるが、その声色は明るく演技であることは丸分かりだ。

 むしろ、自分の得意分野を見せれることに喜びを感じてるような、そんな気さえした。


「で、どうやって転移するんだ大先生!」

「ふん、教える時だけそんなに媚を売ったって無駄よ?はぁ、こんな男に自分の努力の結晶を見せないといけないなんて、本当に不幸だわ」


 ちょっと、口元にやけてるのバレバレなんですけど。

 もしかしてこのネイシャという少女、ちょいとばかしチョロめなのでは?

 礼路はそんなことを思いながらネイシャを見て、彼女の将来が少し心配になった。


「見なさい、コレが私の努力の結晶……ミーティア・シリーズよ!」

「おぉ!これがお前……の……?」


 ペカーッと擬音が聞こえそうな程の勢いで、自信満々にネイシャはローブから水晶玉を三つ取り出した。

 その手に三つ納まるほどの小さい水晶は、木漏れ日の光を受けて輝いており、氷の中からもその美しさが見て取れた。


「……」

「……」


 そう、氷漬けなのだ。

 ミーティア・シリーズと呼ばれた水晶玉は、ネイシャの手の中でガッチガチの氷状態であり、とても何かを出来る状態ではなかった。


 そう言えば武器凍らせたとか勇者が言っていたなぁと思いながら、礼路はチラリとネイシャを見る。

 わなわなと震えながら、伏せている顔を赤くしていくネイシャ。彼女を見て、礼路も小刻みに震えだす。


「……ッ!」

「ッ!?」


 沈黙が暫く続いた後、羞恥のゲージがマックスになったネイシャは、いきなりガバッと顔を上げた。

 礼路も驚きながらネイシャを見る。そこには顔を真っ赤にさせ、涙さえ浮かべている美少女が一人。


「さっさと砕きなさいッ!」

「ハイただいまァッ!」


 羞恥の爆発とほぼ同タイミングで、礼路は水晶玉へと駆けだした。

 怒号からの震衣発動まで、5秒もかからなかったという。

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