トキメキ☆サモリリック
さも☆りん
第1話 プロローグ
重い鉄の扉を開けると陽の光の眩しさに眼がくらんだ。右手を額の前にかざして陽の光を遮りながら空を見上げる。突き抜けるような青い空。夏がそこまでやってきている。湿り気を帯びた地面からムワッと草の匂いが香ってくる。私はうきうきした気持ちになって裸足のまま駆け出した。50メートルくらい全力で駈けた私は突然この気持ちを声に出して表現したくなる。両手を頬に当て力いっぱい叫んだ。
「うおぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
私の叫び声に呼応するかのように周りの木々がガサガサとその葉を鳴らす。背後から足音がした。
「君の声帯すっごい性能だね。それ、どこ製?」
振り向くと金色に輝く長髪をポニーテールに束ねた女の子が眼に入る。歳は、たぶん私と同じくらい。16歳かそこらだろう。白いTシャツに水色のジーンズを履いた彼女は眩しそうに私を見つめる。
「私の声帯は大陸から輸入してもらったの。天然ものよ。」
私は自慢げにふふんと鼻を鳴らしながら答えた。だって大陸性の臓器を持っている人間なんてそうはいないのだ。私は彼女の緑色の瞳を見つめながら質問する。
「貴女はだあれ?ここで何してるの?」
「私はユメ。今から学校に行くところ。」
彼女はそう答えてから、肩から掛けたカバンを開け、赤いスカーフを取りだした。
「ここを真っ直ぐ行くと川があるでしょう?その向こうにある学校に通ってるの。」
赤いスカーフを慣れた手つきで首に巻くと彼女は私をじっと見ながら口を開いた。
「貴女はだれ?学校には通ってないの?」
「私はルル。8番街に住んでるんだ。学校には通ってないよ。だって、心が死んでしまうもの。」
ユメは私の言葉を聞くと首を傾げながら言う。
「8番街って私まだ行ったことないな。何があるの?」
「特に珍しいものは無いよ。他の街と同じだよ。」
「なんだ。つまんないのね。」
ユメはジーンズのポケットに手を入れ、懐中時計をとりだすと時間を確認した。金鎖のついたユメの時計は彼女の陶器のような白い手の中でキラキラと輝いている。私は、あまりにも美しいその手がうらやましくなってしまう。
「ねぇ、貴女の手、とっても綺麗ね。」
私の言葉を聞いたユメは眼を細めてニンマリと笑う。緑色の瞳が不思議な輝きを帯びる。
「欲しい?」
「お金ならあるわ。」
「これはね、2番街のあるお店で手に入れたの。養殖だけどね。私が買った時にはまだ同じようなものが残ってたはずだからそこへ行けば帰るはずよ。」
ユメは右手の人差し指を顎に当てて、少し何か考えているようだった。懐中時計をポケットに戻すと、ニッコリと笑った。
「そこまで案内してあげるわ。」
「でも、貴女、学校あるんでしょ?」
「大丈夫。学校なんて行かなくたって死にはしないわ。ついて来て。」
彼女はクルリと体の向きを変えると、スタスタと歩き出した。私は遅れないように彼女の後を追う。あんな美しい手を手に入れられたらパパはなんて言ってくれるだろう。
トキメキ☆サモリリック さも☆りん @samorin28
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