362話 太子集結
「雫?」
「……淼?」
「びびびびびびびび」
三者三様の反応を受けながら、自分の変化を確認する。
最初に感じたのは目の変化だ。伯位でも
特に目が悪いと思ったことはない。雲から水溜まりを見つけるは出来るし、山の木々に隠れた沢を確認することもできる。
でも今は明らかに違う。
焱さんの膝に付いている土とか
鑫さんの左肩に擦り傷があるとか
桀さんの喉がずっと震えたままだとか
免の服の繊維とか
正直、どうでもいいものまでハッキリ見えるようになってしまった。
次いで感じたのが自分の
何だか分からない。経験したことのないモヤモヤしたものが僕の中をグルグルしている。混ざりそうで混ざり合わない海水と淡水が滞留しているようだ。
これがうまく混ざり合わされば、潟のように塩湖になるのだろうけど、僕の場合はうまくいかない。
本体の涙湧泉と先代さまの媛ヶ浦は離れていて、二つが合わさることはない。そのせいでモヤモヤしているのだろう。でも気分が悪いわけではない。戦える。
免は垚さんの喉を踏みつけたままだ。垚さんの目蓋が震えているのが見えた。
大丈夫だ、生きてる。
人差し指を立てて垚さんの口元に狙いをつけた。
「……『水球』」
指を少し下げて、垚さんの口内に直接水球を送り込んだ。免が動く前に水球を操って強引に嚥下させた。
垚さんの目がカッと開いて免の足を掴んだ。免は舌打ちしながら、反対の足で垚さんの顔を蹴る。垚さんは顔を傷つけられながらも免の足を離さない。
それどころか、鞭を取り出して免の腰に絡ませている。垚さんが免を押さえ付けている今がチャンスだ。
「鑫さん! お願いします! 『
「え? ……あ、分かったわ!」
免に向かって特大水球を投げた。投げながら鑫さんに声をかけ、合成理術を託した。
鑫さんの後ろでは桀さんが焱さんを治療中だ。桀さんの薬は効果抜群だ。焱さんの背中の傷がどんどん修復されていくところまで見えてしまった。
鑫さんは細い指から素早く爪をはがして免に向かって投げた。一瞬、ギョッとしたけど多分付爪だ。
鑫さんの方が免までの距離が近い。爪が僕の水球に追い付くと同時に鑫さんが理術を唱える。
「『
足場が揺れた。
水蒸気爆発と比べ物にならない威力だ。勿論、水球か特大水球かの違いはあるとは思う。
免は後方に吹き飛ばされ、水蒸気で見えなくなった。更に免が攻撃用に待機させていた石柱が砕け散っていた。
「垚さん!」
「そそそそそそそ某が参ります!」
焱さんの治療を終えた桀さんの動きが速かった。垚さんは倒れていたのが幸いして、吹き飛ばされることはなかった。
「淼、ちょっと来て」
「鑫さん!」
鑫さんに駆け寄った。その後ろでは焱さんが弓を拾っている。
「鑫さん、もう一度……」
「その前に淼。貴方の状態を何とかしてあげるわ」
「僕の状態?」
「頭がすげぇ色してるぞ。目がチカチカする」
焱さんが僕の頭を指差しながらやってきた。
「すげぇ色って?」
「白とか青とかコロコロ変わってるぞ」
思わず頭を押さえる。
「大丈夫。ほとんどは緑よ。でも……どうやったか知らないけど、金属類を取り入れたでしょ。それが落ち着かないと気持ち悪いはずよ」
鑫さんは僕の腕を取って聞き取れない言葉で詠唱を始めた。鑫さんが詠唱を省略しないなんて珍しい。
そう思っていたら、あっという間に自分の中からモヤモヤしたものがなくなっていった。
「どう?」
「なんか……左側が重いです」
「だろうな。この頭じゃな」
焱さんが僕の頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「ごめんなさい。取り除いてあげようとおもったら、片側に集まって……何故かしら。純水のはずなのに」
「大丈夫です。行けます」
左側は重いけど、スッキリはした。そして相変わらず視界は最良好。
その目で状況を確認する。桀さんが垚さんの上半身を支えながら起こしていた。その奥で免が一斉に魂を取り込んでいるのが見えた。
時間が経てば経つほど免を倒すのが難しくなる。
「焱さん、鑫さん。免は熟成した魂を理力に変えて取り込んでます。中途半端な攻撃は効かないし、効いても時を戻されたら意味がない。一撃で倒さないと」
二人は僕の話を黙って聞いて頷いてくれた。
「それでもう一度、鑫さんにいまの合成理術をお願いしたいです」
「えぇ。良いわ」
「それで……塩基性の金属を爆発させると、確か水素が発生するんですよね?」
先生の化学術の授業で、そう習ったはずだ。鑫さんは小刻みに二、三度頷いた。
「それでそこに焱さんが火球を打ち込んだら、三属性合成理術が出来ませんか?」
「……」
「……」
厳密にいえば、三属性合成理とはいえないかもしれない。通常の合成理術の副産物を活かした三属性目の攻撃だ。
「ででででででしたら某が予めええええ焱の火球と合成しておきましょう」
「うまく行けば四属性合成か。そこまでいかなくても二属性ずつ二回の攻撃になるな」
桀さんが垚さんを肩に担いで戻ってきた。垚さんは荷物みたいに抱えられている。意識はあるみたいだ。
「ちょっとぉ……あたしの立場は? あたしの出番はないわけ?」
「垚さんは、少し休んでいてください。
垚さんは僕から目を逸らした。
「四太子が働いてるのに……こんなとこ息子に見せられないわよ。森、下ろしてちょうだい」
「断ります」
珍しく吃りもせずに桀さんが拒絶した。それだけ意志が固いのだろう。
「免が立ち上がりました。準備をお願いします」
「よく見えるな、雫」
鑫さんが槍を地面に突き刺して、両手を擦り始めた。付爪はもう使えないらしい。持っていないのかもしれない。
手の平に集まった金属を練って一塊にまとめた。僕に視線を合わせ黙って頷く。
水と金の合成理術は水が先だ。僕の理術が早すぎれば免に消され、遅ければ無意味だ。
「免の帽子の上を狙います。良いですか?」
「……頑張るわ」
少し間があった。鑫さんには免の姿がよく見えていないのか?
「やっぱりあたしの出番みたいね」
「垚さん、見えるんですか?」
「土の上にいる者は見えなくたってどこにいるか分かるのよ……『
久しぶりに
「ふふん。
「あそこを狙えば良いのね」
「上から狙った方が良いな」
「でででででは某の風と雫の雲で宙へ上がりましょう」
「……誰も誉めないのね」
垚さんは冗談を言う気力が出てきたらしい。
僕の雲に鑫さんが、桀さんの葉に焱さんが乗った。桀さんは垚さんを抱えたままだから実質三人乗りだ。
「どうした、雫。行けるか?」
「ん……うん、大丈夫」
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