初夏とセーラー服

 神社脇の急勾配、まだ少し春霞の色が残る青空の下、ブレーキもかけず両足を伸ばして、新緑の匂いで肺を満たして、まだ遠く微かな夏の気配を耳元で鳴らしながら、錆びた自転車で思いきり切り裂けば──記憶の中の私ではない誰かのセーラー服が靡いて、その拍子に捲れ上がって後ろにはためいた真っ赤なタイが、ああ、これが、この頸動脈から翔び立つ血液だったのならば、どんなに気持ちが良くて、どんなに素敵な夏が訪れたことでしょう、って。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る