107 秘密

「それにしても、お前はつくづく運がいいな。奴があんだけ傾いてなければ……」


 助からなかったかもしれない。爆弾が地震のせいで斜めになっていたお陰で爆発の影響範囲も傾いており、わずかに角度を調整するだけで一希を安全圏内におさめることができたのだ。


 一歩間違えればどうなっていたか。それを思い、二人はしばし口をつぐんだ。


「先生」


「ああ」


「こんな時にあれなんですけど……」


「ん?」


「ちょっとお聞きしたいことがあって」


「何だ?」


「お父様のことです」


 一瞬揺れた視線に、新藤の動揺が見て取れた。


「お父様は……隆之介さんは、先生の本当のお父様ですか? その、生物学的なといいますか……」


 新藤は軽く息をつき、観念したようにこぼした。


「驚いたな、先回りされるとは」


 新藤はきっと思い至らないだろう。一希がなぜ先回りできたのか。


「実は、近々その話をと思ってたところでな」


 そう言って、スリッパを履いた両足をもぞもぞと擦り合わせる。一希は手を伸ばし、新藤の膝をそっと押さえた。動きが止まる。


「何となく気にはなってたんです。先生、夏でも靴下を脱がない人だなあって」


 一つ屋根の下に二年半。しかし、半裸は目撃しても、裸足はだしは見たことがない。


 新藤はただ、壁を見つめていた。


「でも、先生は混血だって話を聞いたので……」


 新藤流のができる。もう二度と見られないかと思っていた。


「奴らの話は鵜呑うのみにするなと言ったろ」


「はい。あくまで、綾乃あやのさんたちご兄弟がそう信じてらっしゃるだけだったんですね」


「俺だって信じてたんだ」


「えっ?」


「親父は本当の親父で、俺は混血なんだと思ってた」


「でも……」


 つい、新藤のスリッパに目をやる。


「三日月があるんなら間違いようがない。そう思ってんだろ?」


「……ないんですか?」


「ないんだ」


 新藤は長い長いため息を漏らした。


「でも、隠してたのは確かだ。年越し目がけて押しかけるって言ったろ。その時にお前に見せるつもりだった。俺の足をな」


 新藤が靴下で隠していた、三日月以外の何か。それは一体……。

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