104 光明
揺れがしだいに遠のき、おそるおそる目を開けると、一希はオレンジ色と迷彩色に囲まれていた。一希を覆うようにうずくまっていた男たちが再び散っていく。
「大丈夫か?」
「先生……早く逃げて……」
「
(えっ?)
その言葉に、目が覚めた。
(先生、読んでくれてたんだ……)
本人に届いてすらいないのかもしれないと思いながら、それでも書くのをやめることはできなかった。一希にとってそれは、紛れもなく
穴の中は
新藤が爆弾を
不発弾の爆発には本来、前触れなどない。しかし何かの記事でインタビューに答え、「爆弾の声が聞こえた」と言った処理士がいた。時が迫っているのが感じられた、と。
外部からの刺激を受けてしまったそのデトンは実際、十五分後に爆発したという。幸い、急遽爆破処理に切り替えて作業員も退避済みだったが、人為爆破を待たずに爆発が起きた事例だ。
その時、
「限界だな」
と新藤の声。返事は聞こえないが、軍員たちが手を止めたのが感じられた。新藤は一希を見下ろし、皆に宣言した。
「こいつを生き埋めにして、他は全員退避だ」
軍員たちの沈黙の一方で、一希は安堵した。
(先生……それでこそ先生……みんな早く逃げて……)
地上の沼田に新藤が告げる。
「次揺れたらもうアウトだぞ」
その言葉に沼田も覚悟を決めたらしい。
「わかりました。急ぎましょう」
「例のやつ、頼む」
「了解」
一希は、再び遠のきそうになる意識の隅で、
「そこ、掘ってくれ」
という新藤の声を捉えた。どういう意味だろうとぼんやり考えている間に、新藤が一希の周りをぐるりと回る。靴の先で線を引いたらしく、土埃が巻き上がった。
「深さ五十センチ。
新藤は
一希ははっと息を呑んだ。
ボールペンで描かれたらしき、傾いた円筒形と、両脇から伸びる二本の直線。ザンピードとその想定爆風域だろう。周りにはこの穴と地上部分の模式図。余白と裏面には、何度か消しては書き直された数式がびっしり。
不意に、処理士としての一希の脳がおぼろげに回転し始める。
(爆風域……転向……?)
避難範囲をずらすなどの目的で、爆破の影響範囲を人為的に調整する手法だ。といっても、こんな急を要する状況で行うことなど、考えてもみなかった。いや、まず無理だと思うのが普通だ。
しかし、できるかもしれない。先生なら。
このザンピードは、先ほどの余震でたまたま大きく傾いている。通常なら一トンもの爆弾の向きや角度を変えるにはクレーンを使うが、角度をわずかに変える程度なら人海戦術でも何とかなるだろう。あとは計算の正確さと作業スピードの問題だ。
新藤が手書きの図を見ながら慎重に指示を出す。軍員らが掛け声とともにザンピードに力を加える気配。そうこうしている間に爆発しないという保証はない。この場にいる誰もが命懸けだ。
「よし、そこだ」
「はい」
「土嚢!」
「了解」
「防護壁、終わったのか?」
と、穴の上に向かって叫ぶ新藤。
「あと少しです!」
と返事が降ってくる。
「避難は?」
「南東側八百メートル、完了!」
そんなやりとりの
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