93 兄弟
座卓に載せて知らん顔をしていると、夕方帰宅した新藤が早速封を切った。台所でお茶を入れている一希に、新藤が告げる。
「来月一周忌だとさ」
「あ、もう……そんなに経つんですね」
と言いながら、一希はもちろんこの日が迫っていることを重々承知していた。
「一応、法要と墓参りをするらしい。ま、俺は行く気はないが」
「……いいんですか?」
「お前はもし行きたければ好きにしろ。ったく、電話一本で済む話をちまちま書きやがって」
そう言いながら
「何かおかしいか?」
「あ、いえ……面白いですね、兄弟って」
「そうか、お前は一人っ子だったな。というかまあ、俺もだが」
「私は
「悪かったな、正真正銘じゃなくて」
新藤は手紙を折り畳み、封筒の中にしまう。
「本当は……」
「ん?」
「本当は、兄がいたはずなんですけど」
新藤の眉が寄る。
「……はず?」
「父の死亡を届け出た時に、初めて父の
新藤はしばしその情報の消化に努めていた。
「つまり腹違いの兄貴ってわけか」
「はい。で……『男子』の後ろに、ちっちゃな米印が」
新藤が「やっぱりな」という顔になる。一希の父の名にも付いているこの米印。三日月を彫り込まれた純血のスムは、縁戚戸録上で必ず米印を付される。つまり相手の女性もスムだったということだ。ようやく時代は変わり、血の三日月とともにこの米印も廃止されようとしている。
「役場の人にも聞いてみたんですけど、要するに未婚のまま命名せずに出生通知だけ出して、母と結婚する前に他の誰かの籍に移してるってことなんです」
「その兄貴の母親の行方は?」
「わかりません。話題になったこともないし」
「どこに移されたかってのは……」
「転出先や転出の時期は父本人以外には教えてもらえないんですって。それに、母親にあたる人については記録自体がないそうですから、聞ける相手ももういなくて」
「探そうにも、名前も年齢もわからん、か」
新藤は腕を組み、壁を
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