第4章 命賭す者
87 カルサ
桜のつぼみが
合格の喜びとは裏腹に、一希には気がかりなことがあった。新藤のもとで修業を始めてからこの春で二年になる。
元はといえば、一希が通っていた技術訓練校の指導内容を代わりに教えてくれるという話だった。学校のカリキュラムは中級までを含むが、卒業生は通常まず初級を受ける。一希が初級を受けることは結局なかったわけだが、初めての受験であった中級に合格した時点で追い出されなかったのは、一希がいずれは上級を目指すと言っていたからだろう。しかし、当初目標として語っていたレベルに一希は到達してしまった。
現時点で自分の稼ぎが生活に足りるとは言い難いが、とことん切り詰めれば一人でやっていけなくはない。お世話になりましたと自分から切り出して出て行くのが
今の暮らしは一体いつまで続くのか。いつまで新藤の弟子でいさせてもらえるのか。一希はその問いに激しく動揺するあまり、敢えて気付かぬふりをし続けた。
* * * * * *
六月上旬の週末、二人は再び檜垣家を訪れた。目的は、カイトの八歳の誕生日祝い。
皆でケーキを食べ始めた頃に電話が鳴り、その後処理士二人が揃って十五分ほど姿を消したことが一希は気になっていた。別室で仕事の話をしていたとしか考えられない。
会がお開きになって車に乗り込むなり、一希は待ちきれずに尋ねた。
「さっきの電話……何かあったんですか?」
「カルサが出た。明日とりあえずモノを見てくる」
(カルサ……)
空中投下型の中でも特に巨大な爆弾で、当然ながら破壊力も強い。それだけならまだしも、投下時に爆発せず不発弾化した場合にも将来的な殺傷に貢献できるよう、安全化しにくい複雑な内部構造が採用されている。その複雑さの度合いによって七つの等級に分けられていることが、学校の教本にも記されていた。
「檜垣さんと……」
「ああ」
一口にカルサといっても等級によって処理の難度はさまざまだが、新藤と檜垣が一緒に呼ばれたとなると、およそ楽観はできない。居間に戻ってからは二人とも何食わぬ顔で会話に合流していたが……。
「檜垣さんはもしかして、ご家族には伏せてらっしゃるんですか? その、具体的に何の仕事を受けてるのかっていう辺りは」
「家族は知らない方が幸せだからな。ま、
確かに、処理の手順や危険性について詳しく知っていたら、そうそう平気な顔をして夫を送り出すことなどできないだろう。
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