40 貧血
それから一週間後。一希は全身の重だるさとともに目を覚ました。目の前の大机で新藤が何か書き物をしている。一希ははっと身を起こしかけたが視界がぼやけ、思わず
「起きたか?」
「あ、先生、すみません私……」
「気分はどうだ?」
「あ、何とか、大丈夫です。あの、私……寝ちゃってました?」
「そのようだな」
穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。負の記憶が一気に
今日、夕食を終えた後のことだった。
「冴島、手空いてるか?」
「あ、はい」
「これ、車に積むの手伝ってくれ」
新藤が指し示したのは、玄関脇の台車に積み上げられたプラスチックケース十数個分のストロッカ。解体処理済みの部品だ。
「……はい」
一瞬の
「嫌なら別に構わんぞ」
「いえ、まさか……」
慌ててケースの一つに手をかける。結構な重さだ。持ち上げる前にしばし呼吸を整える。
「どうした、具合でも悪いのか?」
「いえ、大丈夫です」
よっこらしょと持ち上げ、新藤の後について外に出ると、車は目の前に
一つ載せ、戻ってまた一つ持ち上げる。……おかしい。これぐらいで汗をかくような気温じゃないのに。
何とか二つ目を荷台に上げて額を拭った瞬間、視界がぼやけ、暗くなってパチパチと火花が散った。「おい!」と、新藤の緊迫した声。
気が付いたら一希はソファーに横たわっており、驚いて立ち上がろうとするのを新藤に止められた。しばらく横になってろと言われ、そのまま横になっているうちに眠ってしまったらしい。
もともと調子が悪かったところに、最近出前が続いていたのが申し訳なくて、昨晩は
それに加えて今日はたまっていた洗濯。そこへきて夕食後に新藤が部品運びを手伝えるかと言い出したのだ。本音を言えば早く横になりたかったが、先生の方がずっと忙しいし疲れているはずなのに、と思うと、できませんとはとても言えなかった。
どれぐらい眠っていたのか定かでないが、ケースは全て新藤が片付けたようだ。
「何なんだ? 貧血か?」
「……かもしれません」
「何か持病でもあるんなら今のうちに言っといてくれ」
「大丈夫です」
「お前の大丈夫は聞き飽きた。ここで隠したって、どうせ試験の時には健康診断でバレるぞ」
「いえ、病気ってわけじゃないので……」
「じゃ何なんだ?」
「今日はちょっと調子が……」
「お前はちょっと調子が悪いと気を失うのか?」
「気を失ったのは初めてです」
「明日にでも病院に行ってこい」
「あ、その必要はないと思いま……」
「全く急なことで原因不明なのか、慢性のものなのかじゃえらい違いだ。医者に聞いてはっきりさせておけ。予測が立つんならまだいいが、いつ意識を失うかわかりませんなんて奴に爆弾を任せられると思うか?」
まずい、このままでは完全に病気扱いだ。
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