15 もういい
「そこの二箱の中身は好きに使っていいぞ」
布袋が描く円の外側に、プラスチックの箱が二つ。その中にはあらゆる道具が詰め込まれている。
「あの、本物だと思って、とおっしゃいましたよね?」
「ああ、そうだ」
「本物だったら、遠隔抜きを試みて、万一途中で信管割れとか、やっぱり抜けないとかで、
「そうだな」
「本当なら屋外で、風向きを確認して、半径一キロとかを立ち入り禁止にして、土嚢の周りにも防護壁を……」
「立ち入り禁止措置は済んでるという前提だ。環境、気象条件も今日のところは整っていると仮定していいぞ」
「……あの、この状態からってことですか?」
「どういう意味だ?」
「仕掛けがもう組み立ての途中、のようにも見えるんですけど」
先ほどの二つの箱の中の部品は一見バラバラだが、二つ三つがすでに組み合わされているものや、中途半端に引っかかっているものもある。
「つまり?」
「えっと、たしか教本では、まず部品を一つひとつ確認するっていう手順が……」
「必要な手順だと思うんなら実行したらどうだ?」
「はい、じゃあ念のため。あの、手袋をお借りしても……」
箱の中には見当たらない。
「どんなやつだ?」
摩擦と破片の両方に耐えるものがあれば一種類で済む。
「Bの……四十を」
「四十は今切らしてる」
「じゃあ、三十台のどれかで……、あとベチレジンをいただけますか?」
「なるほど。コーティングして代用するってことだな」
「はい。まあ、時間はかかっちゃいますけど……」
「あ、四十あったわ。これ使っていいぞ」
新藤の足元の段ボール箱から取り出された手袋をはめると、初めての感触に胸が高鳴った。しかし。
「あの、ちょっと気になることが……」
「何だ?」
一希は右手に滑車、左手にワイヤーを持ち、新藤に見せる。
「どうかしたか?」
「これ、確か大陸またぎの組み合わせで使うのは避けることになってたかと……」
与えられた滑車とワイヤーの中には生産地が一致する組み合わせがなかった。これも教本での自習レベルの知識で、確信はない。新藤は後ろの棚から別の滑車のケースを取ってきた。
「これでいいか?」
「あ、ありがとうございます。あと……」
「何だ、まだ何か文句があるのか?」
「この信管って、抜いた後は廃棄ですか? それとも、何かこう、将来のための資料とかに……」
「抜きのセットアップと何の関係がある?」
「ワイヤーの長さがちょっと足りなさそうなので、傷とか破損が生じてもいいなら上から吊るのをやめて、抜けたまま落としてしまう手もあるかなと……」
新藤の肩がすっと下りた。
「もういい」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってください。すみません、今始めますから……」
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