第三夜 “橙ning風 串かつ”
此処、居酒屋 橙ningは、ある田舎街の中の、繁華街からも離れた、ある小さな辻にひっそりと佇んでいるお店である。
今夜は、この店で、久しぶりにオリジナルメニューである “串かつ” をいただく。
“メタボリック症候群” という言葉とその影響が語られ始めてから、いわゆる “揚げ物” への風当たりがすっかり強くなった。たまに見るテレビのCMでも、“脂肪がつきにくい” だの、“胃で脂肪を吸収する”だのと、今じゃすっかり“
かく云う僕も、とっくにそういうお年頃なわけだけど、世の騒ぎに巻き込まれて “脂抜き” なんていう過剰反応をすることで “揚げ物” 本来の美味しさまで忘れることはしたくないと思っている。
元来、我が家は “揚げ物” 好きの家だった。その季節の野菜を天ぷらにし、エビフライ、コロッケ、カキフライ、ヒレカツ… と、勢いよく油のはねる音をこだませて勢いよく食卓に上がる。
特に、お客が食卓に着く時のメインのメニューは “鍋料理” か “揚げ物” と決まっていた。お客とともに「乾杯!」と言っている頃に、たいがい、お袋は食卓に着いていなかった。揚げ物の第2便を台所でやっているからだ。
お袋は常々こう言っていた。
「あたたかいものはあたたかいうちに」
その精神は、お客のみならず、家族に対しても徹底して反映させた。
例えば、僕が外出先から家に電話すると「何時頃帰るの?」とお袋が聞いてくる。「そんなん、わかんないよ。いいじゃん何時でも!」と答えると「今夜はカツだからよ!こっちだって準備があるの!」と怒り声で返ってくる。なにも、こちらがリクエストしたわけでもないのになぜにそんなに怒られなければならないのか… と思うけど、とにかく、理屈抜きでそういう人、だった(笑)
此処の串かつは、なんといってもネタが4種類とシンプルで、しかも分厚い。揚げ方がふわっとしていて、ほおばると、口の中に卵の風味が拡がった後、ネタ同士の味わいが幾重にも重なって舌を歓ばす。おそらく、甘すぎない中濃のソースが風味の違うネタとネタのつなぎ役になっているのだと思う。
お店であるから当然のことであるけど、厨房で油がはねる音が鳴り止まないうちにカウンターに皿が出される。みずみずしい黄金色の衣を見て思い出すのは、“キャベジン”、ではなく、「あたたかいものはあたたかいうちに」というお袋の怒り顔である(笑)
どんな飲み物にも合う串かつだけど、今宵は、柚子酒をいただく。
初めて飲んだときは「これが、本当に日本酒?」という驚きを隠せなかったし、そのすっきりした甘みに見事にはまった。いくら飲んでも飲み飽きないので、なんでもそうなのだけど、この酒は特に、“飲みすぎ注意”である(笑)
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【居酒屋 橙ningの“串かつ”レシピ】
<材料:15本分>
・とりのササミ・・・・300グラム
・ねぎ(白い部分)・・2本
・玉ねぎ・・・・・・・3個
・ピーマン・・・・・・5~6個
・パン粉
・卵・・・・・・・・・2個くらい
・塩・コショウ
・串
・油
<つくりかた>
1.とりのササミは、3センチくらいに切る(白いスジを取れば食べやすい)。
2.ねぎは、2センチくらいに切る。
3.玉ねぎは、くし型に切る。
4.ピーマンは1個を4~5枚に切る。
5.串に、たまねぎ、鶏肉、ねぎ、鶏肉、ピーマン等、適当に刺す。
6.並べて、塩コショウを表裏に振り、しばらく味をなじませる。
7.器に卵を割り入れ、混ぜて、それに串かつをつける。
8.パン粉をまぶす。
9.油でからりと揚げる(ささみなのであまり長く揚げなくてもよい)。
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【居酒屋 橙ningで流れていたBGM】
「あの日に帰りたい」荒井由実
https://www.youtube.com/watch?v=2qJnqZenIFY
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