第二夜 “のっぺ”
此処、居酒屋 橙ningは、ある田舎街の中の、繁華街からも離れた、ある小さな辻にひっそりと佇んでいるお店である。
此処で出される肴は、どれも“マスターの味”が色濃く出されている。それは、お店として当然の個性ではあるけれど、敢えて、そう評するのは、“最大公約数”と言われるような大衆が望む味を追求することなく、“マスターが美味しいと思う味”だけで出されるところからだ。
よって、それを口にする客からすれば “味が濃すぎる” と思う客もいれば、“物足りない” と思う客も存在する。
しかし、このマスターは、お店のポリシーを内外に強くアピールすることをしない代わりに、客に出す肴の味に妥協しない。否、そもそも“妥協”とか“媚びる・媚びない”といった言葉や雰囲気も店内には漂っていない。口に合わないのであれば、次回からそれを注文しなければよいし、口に合ったのならまた頼めばよい。ただそれだけの話、という風な感じなのだ。
特に、今夜、注文した肴 “のっぺ” は、新潟県の郷土料理で、それこそ100の家庭があれば、100通りのレシピと味が存在する料理だ。前回紹介した料理の“はりはり漬け”もそうだけど、「一番美味しいと思っているのは、その人が自分の家で長年いただいてきたものであって、私が出す料理は二番目か三番目に美味しいと思ってくれればいい」とマスターは日頃からそう言っている。
酒は、石本酒造の「
今夜は、まさに、“純新潟県メニュー”だ。
お祭や正月などの催し物に出される… という点では同じでも、そもそも“のっぺい汁”と(新潟県の)“のっぺ”とは異なる。のっぺい汁はごま油で炒めたり片栗粉でとろみをつけたりするけど、のっぺは純粋な煮物であり里芋の自然のとろみでいただく。
調理したあとの“冷ましたのっぺ”を好む人もいれば、“あったかいのっぺ”を好む人もいる。僕は、後者の方で、御飯と一緒にいただくときはのっぺを口の中にかき込んで、酒の肴のときは箸で適当につまみながらいただき、時々、汁をすする。口の中にかき込んで
さて、「越乃寒梅」。
“新潟の酒”の代名詞、幻の酒、いろいろな言われ方をする超有名な日本酒。ひと頃は、需要が供給を大きく上回って、巷のスーパーの店頭で売られていたりする値段が下手をすると定価の4倍くらいにまで跳ね上がってしまっていたこともあった。当時、“一升瓶をストレス無く定価で買う”となると、新潟県内でもそうたやすくなくて、僕が知っている酒屋さんでも数軒に限られていた。親戚に贈答品として送ったりすると、親戚先では、「空瓶でいいからくれ」と知人に懇願されたそうだ。
料理屋さんなどでは、空瓶であってもカウンターに置いておくだけで宣伝になり、中には、中身は別の酒にして“ぼったくる”お店すらあったと聞いている。
今では、その希少価値の役は、国産の高級ウイスキーが務めることになって、越乃寒梅のみならず、他の有名な日本酒もストレスなく酒屋さんで定価で購入できるようになった。
どんな希少な酒であっても、紙パックで売られている大衆酒であっても、それは好みの問題だと思うけど、僕はどんな料理や肴にもよく合う“端麗辛口”の越乃寒梅は好きだ。
今夜は、箸でつついているうちに時折、現れる銀杏を楽しみながら白ラベルの冷酒をいただく。
ソーダ水じゃないし、小さなグラス越しに見えるのは貨物船ではなく、のっぺが盛り付けられた小鉢だけど、ユーミンの昔の曲の行間に適当に何かを想いながら、ちびり、また、ちびりといただく。
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【居酒屋 橙ningの“のっぺ”レシピ】
<材料:4人分>
・里芋・・・・4個
・にんじん・・中1本
・ごぼう・・・1/2本
・鶏肉・・・・100g
・竹の子・・・100g
・こんにゃく・1/2個
・干し椎茸・・2個
・銀杏・・・・8個
<調味料>
・酒(大さじ2杯)
・白出汁(大さじ3杯)
・醤油(大さじ2杯)
・干し椎茸の戻し汁
<つくりかた>
1.干し椎茸を水で戻しておく(戻し汁は煮汁で使う)。
2.材料を5mm×5cmくらいのひょうし切りにする(食べやすい好みの大きさでよい)。
3.材料と調味料を合わせて柔らかくなるまで煮る(15分くらい)
*里芋と銀杏は煮崩れしやすいので後から入れる。
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【居酒屋 橙ningで流れていたBGM】
「海を見ていた午後」荒井由実
https://www.youtube.com/watch?v=r3GneH_wCm8
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