カタリ、マヨイ

軽見 歩

カタリ・迷う

 僕はカタリィ・ノヴェル、世界中の物語を救う使命がある詠み人さ。人の心の中にある物語を見通して小説にする事ができる、その物語を必要としている人のもとに届けるのが僕のお仕事・・・


「なんだけど・・・、どこだろうココ?」


 僕は夜の山の中を地図を片手に眺めて途方に暮れていた


「方向オンチってよく言われるけど、これは無いんじゃないかな? 山の地図って凄いよ、線だらけで! この黒い線が道?青いのが川だよね? この茶色い年輪みたいな線は何!? 訳わかんないんだけど・・・・。あ!そうか!年輪だ!」


 僕は直ぐに林の中に入って切株を探した


「切り株の年輪を見ればどちらが北かわかるはず! さあどこだ!ないか切り株!? あ~あ!鋸持ってくればよかったぁ~ッッ!」


 切り株を探したが暗くてよく分からず、もう諦めた。僅か3分程の出来事


「うう、もう見つからないし切り株は諦めよう。さて元の道に戻ろ・・・」


 元の道に戻ろうと後ろを振り返ると道は見えず全く違う景色が見え、前に向き直しても別の景色に思えた


「なに?幻覚!? え、え!僕ぜんぜん方向感覚が分からなくなっちゃたんだけど!! どうしようぅ!」


 途方に暮れ、空を見上げたが木々の隙間から辛うじて星空が見える程度だった


「はは・・・、北極星も見えないや・・・・。誰か助けてぇ~!!」


 助けを呼んでも誰も答えるはずもなく、虚しくただ声が虚しく響くだけだった


「ああもうダメだ…、きっと死ぬんだ僕。知ってるぞ、良くあるもん、異世界に転生して無敵能力を得て女の子たちとキャッハウフフの楽しい来世が待ってるんだ・・・」


 それでも頑張って森をトボトボと歩きながら、つぶやいていた


「でもそれって楽しいのか? ああゆう生き方って相当神経図太くないと務まらないよね? 見るのと実際に生きるのとじゃ別物だよね。やっぱ死にたくなぁい!! あ!」


 しかし前方に明かりの様な物を見つけカタリは走る


「明かり?人が居るんだ! わぁい! きっと探してた目的の人だ! だって他に住んでる人が居る訳ないもん、こんな山の中!」


 カタリは走った、目的の建物に近づき、その外観が怪しげな廃墟の様だとしても気にしなかった


「うんしょっと、雑草が多いな」


 その廃墟の入口が背の伸びた雑草に塞がれていようとも気にしなかった、…気にしないようにしていた


「お邪魔しまぁす!」


 そしてその廃墟に入るとそこは喫茶店だった


「いらっしゃいませ。と言いたいところですがもう営業時間外なのです、せっかくこの様な場所まで来てくださったと言うのに申し訳ありません」


「時間切れっ!?」


 喫茶店のマスターらしき人の言葉を聞いてカタリは膝を着いて絶望した


「そんなぁ・・・、せっかくたどり着いたのに・・・・・。って、喫茶店の営業時間とか関係ないよね、目的のの人には会えたんだから! やったぞ!」


「あの、お客様?」


 急に元気になったカタリにマスターは戸惑った


「すみません!実は店の方ではなく貴方に用が・・・、って鳥だぁ!?」


「はい、フクロウですから。名前はごろすけと言います、以後お見知りおきを」


 やっと目的に人物を見つけたと思ったら人ではなかった、喋るフクロウだった


「でもトリじゃない!?」


「えっと、おっしゃる意味が分からないのですが?」


「すみません! 知り合いにフクロウの様な鳥が居まして」


 僕はそのフクロウのような謎のトリによって世界中の物語を救うという使命を帯びてここまでやって来たのだ。トリに理由聞いても答えてくれないけどね。知り合いに相談したら・・・


 ”まあ、鳥に話し掛けるても答えてくれないなんて可愛い悩みですね! 大丈夫! 他人に動物に話し掛けて寂しさを紛らわす悲しい人と思われても気にしないでください! 私はアナタの味方ですよ!”


 ・・・なんて笑顔で言われた。というか笑顔しか見た事ないんだけど予算の都合で笑顔の一枚絵しか無いのでは無いのだろうか、あのAIは? …なんだろう、他人事でもないような気がする


「ほう、それはそれは興味深いですね。私はフクロウの様ではなく、間違いなくフクロウですよ」


 カタリはマスターに話し掛けられ正気に戻った


「あ、はいわかりました、ハハ…。じゃあちょっと僕の左目を見てください」


「はぁ? かまいませんが」


 そう、僕の左目には詠目ヨメという力が有る。この能力で人の・・・、この場合はフクロウだけど、ともかく、この能力で心に隠された物語を小説にして誰かに届けられるはずだ


「パラパラパラ」


「よし!もういいですよ。ご協力ありがとうございました!」

 

「はは! 何もない場所から紙を出すとは見事な手品ですね。私の目でも見破れませんでしたよ」


「ハハハ…、正直じっと見つめられて怖かったです」


「慣れない内はそうでしょう、都会育ちでは猛禽類の目をじっと見つめる機会はないでしょうし」


「それじゃあ僕は仕事が終わったので失礼します! もう遅いですし」


「はい、お気をつけてお帰り下さい。またの来店をお待ちしております」


 こうしてカタリはフクロウの小説を手に入れ、必要とする人の元に向かっていったのだった。・・・・しかし


「あ! 8番目と9番目の小説をお忘れですよお客さん! よく見れば4番目も!」


 全ては無理だった




END

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 カタリ、マヨイ 軽見 歩 @karumi

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