僕は『最強だった前世の力』をママのお腹に置き忘れてきたある意味最強な男~このひよこ何?え?精霊?皆見えないの?とりまパン屑でもやっとけば懐くかな?~
第1話『〝最強だった前世の力〟は、どこへいったのか?』
第1話『〝最強だった前世の力〟は、どこへいったのか?』
多分けっこう昔に、アーサー・ペンドラゴンという男がいた。
名もなき村に生まれ、身の
しかし、事が起こったのは初夜。
そこで重い腰――
二人の力は
そうして、ブリタニアは復興への道を歩み始める――。
二人は全てを成し遂げ力尽きてしまったが、間違いなく歴史に名を刻んだであろう大英雄だ。
その偉大なるアーサー・ペンドラゴン。
僕のことである。
この危険と隣り合わせの世界に息づく者は、三つの《
僕とマーリンは力を使い果たし息絶える寸前、ヒト族だけが稀に持つ《
――再び
かくして僕は生まれ変わった。
でも、これはちょっと不味いかもしれない。
待って待って、ちょっとどころじゃなくとんでもなく不味いかもしれない。
だってさ、まさかこんなことになるなんてさ、普通思わないじゃん。
まさか、僕の力が――
ああああああああああああああああああああああ――――…………
*** ***
長い、長い年月の
暗闇の中で、ふらふらと漂う
それが自分という存在であり、隣に並ぶのは彼女なのだと、どこか漠然と認識していた。そっと手を伸ばすと、パシッと叩かれそっぽを向かれる。だけどずっと側にいてくれる。ああ、やっぱり彼女だな、と心に安心を覚えたくらいだった。
ある時を
片割れが離れていくことは恐怖であったが、何となくこのままでもいいような気もしていた。きっとまた、会えるはずだと。それからはふらふらと漂うことはなくなった。自分の居場所を見つけたように、ただ一点だけを目指して飛んだ。
そして、随分と久しぶりに『温もり』というものに触れた。
その場所でぬくぬくと育ち、星は惑星へと、惑星は受精卵へと、受精卵は
触覚が発達して、暖かい
視覚が発達して、仄かな光が差し暗闇から解放された。
聴覚が発達して、外部の音が聞こえるようになった。
自分は何者なのか、どこから来たのか。深く思考し自問できるほどまでに精神が成熟していない。けれど、離ればなれになった片割れが自分にとっての大切な人で、早く会いたいという
だから、無意識のうちに手を伸ばしていた。
どこか遠くの夜空、彼女がいるであろうその場所に。
『あっ』
『どどどどうした、ユダ!? 魔法医師を呼ぶか!? 産まれるのか!?』
『ううん、落ち着いてあなた。またこの子が蹴ったの。それだけよ』
『なっ、なんだ。そうか。ふぅ……この子の誕生が、待ち遠しいな』
『ふふ、そうですね。元気に生まれてきて下さいね――アーチャ』
外部から届く音の刺激。
自分の名は〝アーチャ〟なのらしい。ヴァーユ
悪くないな、と思う反面、何だか彼女に笑われそうな気がしてこそばゆかった。
母親の名はユダ・ヴァーユ。父親の名はガラン・ヴァーユ。
近辺に
どこか暖かく優しい時間は、あっという間に過ぎ。
僕は僕を思い出した。
僕はかつてアーサーという男だった。片割れは、僕の妻だった彼女はマーリン。彼女がかねてより予期していた〈
その結果誕生したのがアーチャ・ヴァーユなのだと、その全てを思い出したのは生まれる翌日。それまでは夢のようなあやふやだった記憶の
よかったよかった。
そう安心していたのも
それは赤子らしく〝泣く〟ことだった。いわゆる
「…………(え、ちょ、ええ、なんか恥ずっ)」
「はぁ、はぁ……ぇ? あなた、嘘でしょう……?」
「う、そだろ……おい、おいっ! どうしてこの子は泣かない!? 答えろルーシー! 病気なのか!? 死産なのか!? 何なんだ!」
だってさ。産まれてすぐさま肺呼吸に切り替わり、ルーシーと呼ばれる魔法医師の女性に抱かれたその瞬間には取り戻していたのだ――
ぎゅうぎゅうに締められながら母親の
命は大切にしようって、めちゃくちゃ思ったね。
産まれて間もない身でありながら、穴があったら埋まりたい気分だ。
いや、今し
「嘘だ、嘘だろ!! そんな、そんなことがあってたまるか!!」
「み、巫女爵様、お気を確かに! でもどうして、事前の検査ではむしろ異常を見つける方が難しいくらいの健康体だったはずです! こうして見ても異常なんて――いや、あれ? ま、待ってください。ま、まままままさか……っ?」
「どうしたのですかルーシー! 私の子に、アーチャに何か異常が!?」
そんなこんなで泣くことをためらっていると、何やら外部が騒がしいことに気がついた。なんだか罪悪感が湧いてくる。あー、えー、おはようパパ、ママ?
普通の赤子であれば明暗を認識する程度なのだろうけれど、アーサーの記憶を持ち十分な成熟が為されている僕は別だ。あまり怪しまれないように眼球だけきょろきょろと動かし、ここが窓付きの小屋ような場所だと把握する。
うーん。もしかしてこれ、随分と文明が進んでる感じ?
天井から始まり壁や床と部屋全体に見たこともない近未来的な機器がたくさん置かれており、特殊な〈魔道具〉でも使ってるのか妙な結界が張られている。
おそらく出産のためだけに金をかけて造られた、特別な場所なのだろう。
――ん。あれ、今ふわふわした……そう、
「そんな……〈
「……ぇ。あ、あなた、それってどういう、え、つまり――」
「ま、まさか! この子は《ウェポン》を持たないで生まれてきたのか!?」
「っ、そんな……!」
各々がショックを受けたように息を呑む。
僕も衝撃を受けて、さっき見た
「だ、だぅ……?」
(な、何だって……?)
今、彼らはなんて言った?
三つ葉の
誰しもが必ず三つ持って生まれてくるはずの《ウェポン》が、ないっ!?
僕は慌てて自分の身体を観察する。
赤子らしく
――やっぱり、ない、ない、ないないないないないないぃいっっ!?
どういえばいいか、本来あるべきものを失った感覚、自分じゃなくなったような果てしない
恐らく、失ったのは《ウェポン》だけじゃない。マーリンには遠く及ばないが常人の域を
「――ぁう、ぁあぁうあ、あぁああ……」
(そ、んな、馬鹿な、なんで、いったいどこに……)
「あら?」
僕はひどく
無意識のうちに漏れた声が遅ればせながらの産声だと思ったのか、その場にいた面々が
「お、奥様! これは! これはぁぁああぁあ!!」
「おぉおお、我が息子よ! よかった! よかったぞぉおおぉおお!!」
どうやら背中に《ウェポン》が記されていない問題は、一度
けれど僕はそんなことを気にしている場合じゃない。
どこかにあるはずだ――と、
首が
「うふふ、よかったわ。お
目を見開く。それはそれは美しい女性だった。
マーリンとは違った方向の可愛らしさを持つ幼げな顔、透き通るような金髪は立てばそれこそ足元にまで届くのではというほど長く
そして、ハッと気づいた。たらりと汗が流れる。
ゆっくり、ゆっくりと視線を下にずらしていく。
女神とも表せる
下へ、下へ……そして。
――見た。見てしまった。
――その子供を産んだ後とは思えない、
――見たのだ、
〝最強だった前世の力〟は、どこへいったのか?
その、答えは――。
「あ、だぶだ」
(あ、なるほどママのお腹の中だ)
かつては慣れ親しんだ自分の力だからか、なんとなくわかる。
その力は七色の輝きとして、僕の瞳に映った。
ああ、もう……これは。
認めなければ、ならないだろう。
マーリンの話では、転生体である
かてて加えて、
「だぶぅううううううううううううううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――っっ!?」
(なぁああああああんでだよぉぉおぉおおおぉおおぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――っっ!?)
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