第十一話 冒険者ギルドへ

 俺達は役所の人の話通りに梓馬あずまを歩くと、周囲の家々より明らかに大きい施設に辿り着いた。

「ここか……」

 俺はその大きな二枚扉を見、期待と不安に胸を膨らませながら大扉を押し開けた。

「ワハハハハ!」

「今日はの飲むぞぉ!」

 冒険者ギルドに併設されている酒場が大繁盛の大騒ぎ状態だった。

「貴方達昼間っから飲んだくれてー!依頼はしないの?」

 俺が呆然としていると、冒険者ギルド側から、一人の女性が両手を腰において、飲んだくれている冒険者らしき風体の男達をしかけている。

「まぁそう言うなよ理奈りなちゃん。今日は国の王都から第三王女様が見聞を広めにいらっしゃる、言わば祭日だ。こんな日は飲んで第三王女様の叡智の成長を祝わなければ!」

 冒険者風の男は、それっぽいことを言って、理奈と呼ばれた女性の言葉を意に返さず飲み続ける。

「まったくもぅ。貴方達はそう言って飲む口実作っているだけでしょう!」

「まぁ……そうとも言うかな!」

 男達の悪びれない態度に、理奈と呼ばれた女性はあきれたように冒険者ギルド側のカウンターへと戻っていった。

「なんだか騒がしいところだね」

 俺がそう言うと、雪と灰の二人も呆れたように、でも知っていたように苦笑いをしている。

「冒険者というのは何かにつけて飲みたがるのです。力自慢のごろつきが多いですからね。中には真面まともな人もいますが、冬洞様が挙げられた他の仕事と大差はあまり無いかも知れません。ここも雪様を連れて行きたくは無かったのですが、ここでするのは冒険者登録が終われば依頼の発注や達成報告、換金や情報収集などを行う以外はあまり立ち寄りませんから、妥協点……です」

 少々納得しきれていないような灰や、箱入りを拒否する雪が苦い顔をする中、俺は意を決して冒険者ギルドのカウンターに向かう。周囲の酒飲みや普通に依頼を確認している冒険者は、見ない顔である俺たちのことを好奇の目で見つめている。俺達はそのことを気にしないようにし、理奈と呼ばれていた女性のカウンターへ着いた。すると理奈と呼ばれた女性は先ほどまでの呆れ顔を正し、礼儀正しい顔で受付を行ってくれた。

「いらっしゃいませ、梓馬の冒険者ギルドの受付をしています。理奈です。こちらの冒険者ギルドは初めてですか?」

「は、はい。えっと、冒険者登録をお願いしたいのですが……」

「冒険者登録ですね。では、軽い認定試験のようなものがございますが、よろしいでしょうか?よろしければ場所を移動しましょう。こちらです」

 理奈さんに連れられ、俺達は冒険者ギルドの裏へ向かった。そこには、少し広い訓練場らしき場所についた。

「ここが認定試験の会場……」

 俺が緊張のこもった声で言うと、理奈さんはクスッと笑った。

「安心してください、ここでは単に模擬戦を行ってもらうだけです」

「模擬戦、ですか」

 俺はそのことを聞いた上で、もう一度模擬戦会場を見渡す。屋外であるその場所は、なんの障害物の無いただの小広いだけの広場であった。

「あなたの武器によって、ある程度は変えますが、基本的にはこの広場内だけで戦闘を行ってもらいます。シチュエーションは、『森の探索途中、強力な魔物と遭遇!諸事情により、逃げることも助けを求めることも出来ない!どう切り抜ける!?』です」

「な、なるほど……」

 俺は理奈さんの勢いの良いシチュエーション説明に少し驚きながら、しっかりと思考する。森の中で強力な魔物、奇襲をした、されたはなく遭遇戦。逃げることも救援要請も出来ない。守るものがいるか、他の魔物に周囲を囲まれているか。そしてどう切り抜けるか、か。

「質問良いですか?」

 俺が考え事をしていると、灰が一人手を挙げて理奈に質問をした。

「はい、何でもどうぞ?」

「では、ここはどこまでして良いんですか?・・・・・・・・・・・・・・・・

 その質問に、理奈は少し考えたように目線を逸らした後、灰を見て言った。

「そうですね、ある程度は破壊しても大丈夫です。色々と気にしなくて大丈夫ですよ。実力を見たいと言う所もあるので」

「じゃあ……えっと、そういえば名前を聞いていませんでしたね、すみません。お名前をお聞きしてよろしいですか?」

「はい、冬洞柊です」

「雪です」

「灰です」

 一人ずつお辞儀を理奈さんは笑顔で受け、俺を広場の端に移動するように求めた。そして俺がその場所に移動完了すると、理奈たちも安全な場所に移動し、俺の位置と対局になる位置に向かって大声を出した。

彰斗あきとさーん!お願いしまーす!」

 理奈さんの声に反応して、木々の奥から大柄の男が、大剣を担いで現れた。

「おぅ!俺は大塚 彰斗おおつか あきとだ。今回認定試験をさせてもらう。よろしく」

「よろしくお願いします」

 俺は現れた男、彰斗さんの強さを測りながら、構えを取ろうとする。

「そう言えばお前、武器は使わないのか?」

「いや、あるにはあるんだが……」

 俺はそう言って雪の方を見ると、雪は頷いて手を伸ばしてきた。俺もそれを見て頷き、雪のを呼ぶ。

「来てくれ、白銀しろがね

俺の声に呼応こおうして雪が白く発光し、俺の手に光が集まる。そして光りが収まると、そこには鞘に納まった白い刀が現れていた。

「それは、“神具じんぐ“、か?」

 俺はその言葉に首をかしげる。

「神具?……いえ、これは竜具りゅうぐです」

「竜具……するってーとお前さん、竜の導かれ手かい?」

「えぇ、まぁ……」

 俺が肯定すると、彰斗さんは興味深そうに、俺のことを見た。

「へぇ、こんな若造がねぇ……それほど実力があるということか」

「いえ、多分そんなことはないと思いますよ」

 俺がそう言って構えると、彰斗さんも構える。そして少しの間の後、理奈さんが開始の合図をする。

「それでは……始めっ!」

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