第三話 湖畔の白竜
「いててて……」
俺は奇跡的に生き残った。崖の岩と共に落ちたので落下速度が軽減され、下が湖であったため、地面でペチャっと逝くこともなかった。そして気絶して岩と一緒に沈むことも無く、こうして水岸に座っている。だが、落下と同時に鉄刀を放してしまった。魔猪が湖底へと沈んでいると良いが……。
「プゴォ!」
だよな、人ごときが生きているのだから、当然魔猪も生きている。少し遠くにいるが、魔猪はゆっくりと助走の構えを取っている。どうにか逃げなくては!俺はそう思い、振り返り森に入ろうとするが、そこで足が止まった。理由は、すぐ近くにこちらを見る、あの魔猪よりも巨大な生き物の影が視界に映ったからだ。もうだめか。俺はそう簡単に諦める事は出来なかった。俺は戦竜の導かれ手になりたい。小さい頃から夢見ていた、竜と共に戦う事を。
「人間か……」
俺はその生き物から声がし、ガバっと顔を上げる。そこには、スラリとしたフォルムで、魔猪より数倍大きく、ダイヤモンドのような輝きをした兜のようなもので上頭部と上顎を覆った、とても美しい白竜が佇んでいた。
「りゅ、竜……」
俺は呆然としながら、白竜を見つめ続けるが、一方その白竜はすぐに目を離し、後ろの魔猪を見て言う。
「汝、あの魔猪に追われているのか?」
白竜の言葉に俺は正気に戻り、頷く。
「そうか……では汝、我と契約をせんか?我は今導かれ手を求めている」
願ってもないことであった。そのためにここまで来たのだから。
「あぁ、頼む。俺はそのためにここまで来たんだ」
俺は悩むことなく手を伸ばす。白竜はその行動に、少し驚いたような表情をするが、何か遠くを視るように目を細めた後、俺の手に、上顎から伸びた突起を当てる。すると、ただでさえ陽光に当てられ美しく光っていた白竜が、より一層光り輝く。
「眩しっ!」
俺は眼前の光に視界を塞がれ目を伏せる。だが、すぐに目を見開く。何故なら、突起に当たっていた右手に、刀の感触があったからだ。その手を見ると、白を基調とした、美しい刀があった。
「これは……」
「“我だ。銘は
俺が少し動揺気味に鞘に入った刀を見ると、刀から声が聞こえた。
「これが
「知識はあるようだな。ほらぼさっとしとらんでぇ、あの魔猪を我で仕留めよ」
その言葉に俺は我に戻った。そうだまずはあの魔猪をどうにかしなくては。やっと念願の導かれ手になったのだ。後ろを見ると、魔猪はあの発光と刀を恐れてか、湖の中を歩き、俺の方を睨んでいた。それを確認して、俺は落としてしまった鉄刀の鞘の横に白銀を
「汝、湖から出よ」
その声は落ち着いていた俺に良く聞こえた。俺は理由を聞きたかったが、取り
「湖に入らず、我で思いきり斬り上げよ」
「ここでやるのか?」
俺は聞いた。ここで振っても魔猪には絶対に当たらない。だが、白銀は「よい」と言う。仕方なく俺は全力で白銀を振り上げる。すると、刀身から
「ブモッ!?」
魔猪はその事に大きく驚いている。
「あれは『
俺はそう言われ、思い出したように凍った湖を歩き、牙に気を付けながら魔猪の首を落とし、仕留める。
「良くやった。初めてでこの湖の半分以上を凍らすか。汝、中々鍛えているようだな」
「ありがとう。俺は戦竜の導かれ手になるために頑張ったんだ」
俺の言葉に、白銀は「そう、か」と意味ありげに言うが、俺が白銀を鞘に戻すと、また眩く光り、元居た場所に、白竜の姿で現れる。そして会話の内容をを逸らすように言った。
「さて、では、我と契約を結ぼう、名は何と言う?」
「あぁ、俺の名前は冬洞柊(とうどうしゅう)だ」
「冬洞柊……良い名前だ。我の名前は
そう言って白竜の雪は、自らの爪で手の甲を少し傷付ける。それに同期して、俺も同じような行動をとる。そして互いの血をくっつけるように擦り合う。これが最もポピュラーな契約方法、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます