バイト始める

何時も通り学校から帰って来ると、玄関に少し大きめの靴があった。珍しくこんな時間に帰って来るものなんだなと思い隣にある革靴も見た。社会人が履いてそうな靴だが、これは親父のでは無い。


まぁ、お客さんだろうな、話声も聞こえるし。


俺はそのままリビングに行くと、スーツを着た少しばかり歳をとった様に見えるおじさんがソファーに座っていて、前の方には良く見る顔面の親父が居た。


「お、睦月帰ってきたか。こっちは俺の知り合いの田辺 諭吉たなべ ゆきちさんだ」


俺が入ってきたのに気づいた親父は目の前のスーツ男の人を紹介して来たから目を合わせて「どうも、息子の睦月です」っと丁重に挨拶をした。


「ほほう、キミが睦月君か。お父さんからは話は聞いてるよ」


親父から? どんな話だろう………

俺は気になるが夕飯の支度があるからそっちを先に済ませに行った。


「睦月、夕飯の支度も有り難いんだが、そのこっち来て話を聞いてくれ」

「う、うん」


話を聞いてくれと言われ不思議に思いながらも一旦買い物袋を置いて親父の方に行った。親父からの話も珍しく少し緊張気味で親父の方に行った。


親父の横に座り、前の田辺さんと言う男の人を見た。


前に座ってみると、男の人はかなり威圧感があると思えた。

なんだ、この威圧感は………何か凄いものに睨まれている感が半端無い。


俺がそんな事を思っていたら、俺のが思ってることが分かったのか優しい笑みを向けてくれて緊張が一瞬で解けた。


「睦月、田辺さんの家で家政夫してみないか?」


そんな親父からいきなりの言葉に呆気をとられ首を傾げて親父を見た。


「え。いや、ごめん。どういうこと?」

「えっとなぁ」

「そこからは私が話そう」


親父が説明をしようとしたら田辺さんが待ったを掛けて俺は田辺さんから話を訊いた。


うちは最近、妻を無くしてなぁ。それで私には娘が居て、その、お恥ずかしいながら娘も私も料理が出来ないんだ。洗濯や軽い掃除なら出来るんだが料理だけは駄目だったんだよ。それで家政婦でも雇おうとしたら、金城さんの息子君、つまり睦月君が家事が得意と聞いてな。もし、良かったら家で家政夫をしてくれないか? あ、勿論学業優先でね」


俺はそんな説明を受けて。もう答えは決まっていた。


「田辺さんの心中しんちゅうお察しします。自分で良いなら家政夫を受けさせて貰います!」


こんなの受ける一択だ。奥さんが死んだとそこに情が湧いたのかもしれない。だけど、やっぱりその娘さんに栄養ある物を食べさせてあげたい。そんな心が俺を動かした。


「そうか。ありがとう。給料は日給で三万で大丈夫かな?」

「いえ。お金は要りません。俺がお節介でやるので大丈夫です」

「いや、でも、悪いから」

「大丈夫ですって! 娘さんに栄養ある物を食べさせたい俺のわがままだと思ってくだされば!」


ここはい心で行かなければいけない。娘さんもきっと小さい子だろうし、育ち盛りなんだ。栄養ある物を食べないと将来的に不安だ。


「え、あ、その言葉を言って貰えるのは有り難いのだが、もし間違っていたらすまない。家の娘は睦月君と同い年だよ?」

「へ?」


           ☆


俺は次の日さっそく田辺さんの家に来た。二階建ての家で至って普通の家だ。

学校帰りで夕飯の材料は買ってきたから後は入るだけなのだが、どうも入りずらい。


いや、だってね? 小さい子かな~って思ってたけどまさかの同年代と来た。それも女の子だ。此の方、同い年で仲の良い女の子友達なんて居ない。それに余り話したりもしないからどう接したら良いか分からない。


親父なんか口を抑えて笑いながら「良かったじゃないか!」っと言ってきたからその後がかなり気まずかったのを覚えている。

だって、同年代の女の子でその父親が前に居て何が良かったのか……………

だが、ここまで来たんだから何もしないで帰るのは駄目だ。それに今日の分のお金も貰ってしまってるから帰るに帰れないんだ………


日給一万でそこに買い物で使ったお金が返却される。いや、買い物の金ならまだ良いんだ。それでも料理だけで一万は貰い過ぎだと思って三千円ならと折れて言ったがそれでも田辺さんは折れることが無く結局全部俺が折れた。


そして、心を決めてインターホンを押した。


「? あれ、居ないのかな?」


インターホンを押したが出てこない。もう一度、またもう一度押したが出てこなかった。


同年代と聞いていたしまだ学校帰りだと思って昨日貰っていた合鍵を使って中に入った。使うのにも気が引けたが仕方ないと思い使った。


俺は中に入って愕然とした。いや、何がと言われればもう家の現状が……………


入った瞬間に鼻に来る強烈な異臭。そして入って見える廊下はゴミだらけ。そこはもうがまんしてリビングだと思う部屋に行くと。


ソファーがあってその前には机と大きな薄型テレビ。そこに散らかる大量のゴミやら服。右側を見るとキッチンがあってそちらからは異臭がかなりしてこの異臭の原因はそこだと分かった。


それを見たら、俺は直ぐに空っぽだった冷蔵庫に買ってきた食材を入れ。


「だぁぁぁぁ! 何でこんなに汚いんだぁぁぁ!!」


心に思っていた事が爆発して。そこからは狂った様に俺は掃除を始めた。足りない物は近くのコンビニで買ってきて本当に狂った様に俺は掃除をした。


           ☆


今、睦月が居る田辺家の家に灰色のベストとシャツで胸辺りには赤色のリボンがあり、二つ線が入ってる紺色のスカートを着た女の子が家のドアを開けた。


入った瞬間女の子は綺麗になっている廊下を見て首を傾げていた。そして、リビングから来る良い匂いに気づいて恐る恐るリビングに行くと。


「あ、えっと、お帰りなさい?」

「え。あ、はい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る