第2話 孤立長女 1

 死を選ばなかった私。

 しかし、日常が変化することはなかった。

 放課後の三階実習棟の男子トイレで行われる非業は、ついに新たな加害者をその腹のうちに納めることとなる。

 橋沼はしぬま 諒太りょうた。醜く太った彼は常に脂汗をかいており、生乾きの服からは常に悪臭を放っている。脂ぎった髪の毛に脂肪で潰れた瞼から覗く目が何ともいやらしい。

 彼は既にその情欲を隠すことなくさらけ出している。

 上村さんたちは彼が来ると、早速私の前でその裸体を晒すように指示した。

 太っているというのにその肉棒は蚯蚓のように太い血管を浮き出るほどに膨張している。

 やはり風呂には入っていないのか、恥垢塗れのそれは尿と生物の死骸を混ぜたような臭いを放っており、気分の悪くなった他の女子たちは吐き気を催したのか眉を顰めていた。

「う、うれしいよ、古江さん」

 どもった声でにやにやと笑う橋沼。

 こっちはただでさえ酷い匂いに耐えて、今も吐き気を抑えるのに必死なのだ。

「さっさと始めろよ、キモブタ」

 上村さんは彼の尻を蹴る。バランスを崩した彼の身体が私の上に覆いかぶさった。

 きつい口臭。嗅ぎ慣れたはずの便所の匂いがマシに思えるほどに彼の匂いは酷いものだった。

「おぉぉえ」

 私はついに限界を迎え、吐瀉物を吐き出した。

 まともな食事をしていなかったおかげで吐瀉物はほぼ胃液だったが、吐き出すものがなくともこの匂いは耐えられるものではない。

「ひっでぇな、旦那様にこれから抱いてもらうんだから吐くんじゃねえよ、ゴキブリ」

 ゲラゲラと笑う彼女たちの声。

 それを他所に橋沼は私の吐瀉物塗れの服の上から胸を揉み始める。

「イッ!」

 強く揉まれ、痛みを感じる。父に揉まれた時にはない痛みに拒絶感が強くなる。

 がむしゃらに揉み始めた橋沼は、その気色の悪い顔で私の顔を見ながら胸を揉み続けた。

「大丈夫、すぐ気持ちよくなるよ。はじめは痛いって本に書いてたから」

 そう言うと彼は制服の中に手を入れてきた。

 ブラを外したいのだろう。しかし、どうやればいいのかわからぬのか、ブラジャーを掴みあちらこちらと無理やり外そうとする。

「あれ、おかしいな」

 結局、服の上からではわからぬと服を脱がそうとしてきた。

「いい加減に……」

 私は耐えきれずに橋沼を引き剥がそうとする。

 この男、下手にもほどがあるッ!

 しかし、この百貫デブは私の力ではどうにもならない。叩こうと押そうと微動だにしないのだ。

「おいおい、処女ってわけでもねえんだから暴れんなよ」

 私が暴れているのを見た葉月さんが私の手を抑えた。が、

「うわ、くっせ。唯奈、変わって」

「やだよ、アンタが抑えてればいいじゃん」

 葉月さんは臭いに耐えられず、すぐさま飛び退いた。

「つうかさ、私マジで気分悪くなってきたわ、もう帰らね?」

 もう限界といった雰囲気で彼女たちは荷物を纏め始める。

「じゃあアタシら帰るから、あとは二人でごゆっくり~」

 下卑た笑い声を残して彼女たちは私の飼育室を後にした。

 橋沼は何も気にせず私の服を脱がせ始める。

 私は服を抑え、体を捻った。

「だ、だめだよ、ふ、ふふ、古江さん。ぼ、僕、我慢できないんだから!」

 彼は私の腕を抑え、無理やり制服を引き剥がした。

「イヤァアアアア!!」

 誰にも届かない悲鳴。

 両腕を片手で押さえつけられ、暴れまわるも拘束を解くことができない。

 続いてスカートのホックを外すと、私は下着の姿になってしまった。

 イヤだ。嫌だ。こんな男にまで、虐げられるなんて……

 私は彼を睨み付ける。

「あ、あれ、濡れてないな。そそそ、そっか中を触ってあげないと、い、いけ、いけないんだっけ?」

 そういうと彼は私の中にその太い指を二本も突っ込んできた。

 裂かれるような痛みに体の力が抜ける。

「ふふ、よかった。気持ちいいみたいだね」

 誰が、こんなのただただ痛いだけだ。悲鳴と喘ぎ声の違いすら分からないのか!

 痛みに涙が滲んできた。

 睨む私の涙を橋沼は舐めとってきた。

 ざらついた舌の感覚に鳥肌が立つ。

「ん? す、少し、ぬ、ぬ、濡れてきたかな?」

 私の身体は随分と淫売になってしまったらしい。こんな男に触れられて気色が悪いというのに、膣内は粘液を分泌し始めたようだ。それがたまらなく悔しかった。

「じゃ、じゃあ、い、挿れるね」

 橋沼は嬉しそうに自らの肉棒を掴むと私の膣口に押し当ててきた。

 昨日、受け取った銀の鍵が落ちる音がした。

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