第1話 存在価値(序)2
学校からの帰り道。私はいつものように人通りのない道を進んでいく。
日の当たる場所に私の居場所はない。そこは彼女たちの歩く道で私のような草食動物は腹をすかしたライオンに見つからぬように逃げるしかない。
山羊の中には険しい山肌に住むことで天敵のいない環境を手に入れたものがいるらしい。私もそうなれればよかった。でも、もう手遅れだ。
私はどう頑張ってもこの現状から抜け出せない、そういう生き物に成り下がってしまったのだから……。
普段は誰もいない道なのに今日は珍しく人がいた。
黒い装束を身に纏い、深々とフードを被った人。彼の前には占いと書かれた紙の貼られた小さな机が置かれていた。
こんな人通りのないところじゃなくて、もっと人のいるところでやればいいのに。きっとこの人は物好きか酔狂な人間なのだろう。
私は占い師の前を通り過ぎようとした時、彼は私に声をかけてきた。
「そこな、お嬢さんや。寄って行かんかね?」
若いような年を取っているような声。なんとも胡散臭いねっとりとした口調は私の癇に障るものだった。
だが、私は足を止めた。理由はわからない、無視することだってできたはずだ。だけど私は足を止めた。
「占ってもらうことなんてありません」
私は踵を返す。関わる必要なんてない。これから死にゆく死人に未来などあるわけもない。
「なぜ死を選ぶ、君が死ぬことで何か変わるのかね、変わらんだろう?」
男は見透かしたかのように私に言った。私は何も言っていないはずなのに……。
だが、私の中から湧いてきたのは救済を求める心ではなく怒りだった。
「あなたには関係ないでしょう、私に関わらないで!」
私が振り向き怒声を上げると男は目の前にいた。まるで瞬間移動でもしたかのようにそこに立っていた。
「関係なくなどない、我らは同じ祖より生まれ落ちた
私の手を掴み抱き寄せるように男は近寄ってくる。私はもう一方の手で彼の頬をはたいた。
フードが脱げ、男の顔が
青年のようにも少年のようにも老人のようにも見えるその顔立ちは吸い込まれるような美しさがあり、その妖艶な微笑みはきっと見るものを魅了することだろう。
「彼方なるものの仔よ、君にこれを託そう。死ぬことはない、君はまだ己を知らぬだけなのだから」
彼は掴んだ私の手に何かを握らせ、霞のように跡もなく消えた。まるで私の見たものが幻想であったかのように……。
私はその手をそっと開く。そこには銀色の鍵があった。
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