第11話 刑事襲来

『警察より彼氏様にお聞きしたいことがあるとの捜査協力の要請が当社に入っています。これを聞いたら至急連絡してください』




 一本の電話から始まった今回の事件……




 いよいよ 決戦を迎える……



 * * *




 時間になりマンションのロビーに向かうと、そこで彼氏を待っていたのは思っていたよりも若い男性だった。

 三十代後半くらいだろうか。短髪にガタイのいい、なかなかのイケメンだ。

 電話での声から 五十代くらいの禿げたおっさんを想像していたため、少しだけ拍子抜けする。


「こんにちは。今日はご協力ありがとうございます」

「あ、いえ。わざわざ来ていただいて……」

「それが 仕事ですから」


 そんなことをサラリと言い(かっこいい……)、自己紹介とともに警察手帳を見せてくれる。

 ああ、ほんとに手帳見せてくれるんだ。警察24時と同じだ。

 今まではパトカーに乗ってる警察官に職質されることがほとんどだったため、特に手帳提示はなかったのだ。


「それで今回の事件なんだけど、 高級自転車を狙ったかなり悪質な窃盗グループだったみたいなんだよ」

「はあ……」


 刑事さんの口調が敬語からくだけたものになる。

 とはいえ物腰自体は丁寧なので、悪い感じはしない。


「その一人の口から彼氏さんと同じ名前(名字)が出てね。いちおう色々確認させてもらってもいいかな?」

「はい」

「名前と生年月日、本籍地をいいかな?」

「ええと、xxxで……」

「○月×日の22時頃、何をしていたかな?」

「たぶんですが部屋で仕事をしていたと……」

「仕事はなに?」

「自営業です」


 淀みなく進んでいく会話。


「このマンションには一人暮らし?」

「いえ、彼女といっしょに住んでます」

「彼女の名前と仕事、生年月日も聞いていいかな?」

「あ、はい」


 だがやはり緊張していたのか、この時彼女の生年月日(西暦)を十年間違えて言ってしまった。


「彼女、 だいぶ歳上なんだね」

「え? ……あ、違います違います! 間違えました……!」


 危うく彼女が ハイレベルな熟女になるところだった……!


 その後もいくつか確認されたが、どれも深くは突っ込んではこずに、あくまでも確認という感じ。

 刑事さんの口調から、逮捕された犯人が苦し紛れに適当な名前をでっち上げることは割とよくあるらしいことが分かる。

 そして最後に、写真確認となる。


「それで、これが容疑者の写真なんだけどね……」


 実を言うと、この時までまだその容疑者が例の知人である可能性を少しだけ考えていた。

 もしかしたら知人がマンションに忍び込んで出来心でやらかしてしまったのかも、と。

 だけど見せられた写真に写っていたのは、……まったくもって見覚えのないちょいワル親父といった風貌のおっさんだった。



「まったく知らない人です!」



 知人さん、ごめんなさい……(二度目)

 今度また飲みに行きましょう……!



 その写真確認で、事情聴取は終わりのようだった。



「うん、どうやらやっぱり無関係みたいだね」

「はい」

「お聞きしたかったことは以上です。 ご協力ありがとうございました。それではこれで……」


 去り際が あっさりしているのは職質と同じ。

 刑事さんはこちらを振り返ることなく、マンションの入り口を出て行ったのだった。







 こうして――緊張し通しだった刑事との邂逅は終わったのだった。



* * *




 このあとマンションの管理会社に彼氏は無関係だったと説明するのに多大な時間を要することになったのは、言うまでもない……トホホ。







 次回:例の知人とは何者なのか?

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