quatrze

 遊園地デートなんて何年振りだろうか?  元カレと交際中で多分大学時代まで遡ると思う。三年生で就活が始まってたからその前だと十年近く前になる。そんな私も今年で二十九歳、そりゃあ歳も取りますわな。

「そう言えばこうして出掛けるのって初めてですよね?」

 そりゃそうよね、彼とは違う大学だったし歳も三つ違う。当時はさほど接点が無かったもの。

「夏絵さん、当時恋人いらっしゃったでしょ? それもあってなかなか声が掛けられなくて」

「そうだったの? 何か意外」

「そうですか? 夏絵さん高嶺の花だったんですよ」

 はぁ? この子何言っちゃってんのかしら? 私は思わず吹き出してしまう。

「イヤイヤそれは無いでしょ、私より美人なんていっぱいいるじゃないの」

「そんな事無いですよ、僕は美人だと思いますよ」

 うわぁ~それはちょっと嘘くさいわぁ。ん? 今日はいつもと何かが違う、ひょっとして姉の美貌にほだされなかったのか?

「それにこの前一緒に飲んだ時、貴女がトイレに立っている間に内海さんから伺ってたんです、お姉様のここと」

「姉のこと?」

 きっと私が連れてくる男どもが片っ端から姉に惚れるというあの話だな。全く口が軽いんだから……って尻も軽いからしょうがないのか。

「えぇ、この前お見合いなさった時のお相手さんも、お姉様に罪は無いと思いますが酷い話じゃないですか」

「まぁねぇ、でもあの方に関しては正直それほど引きずってないのよ。深入りしてなかった時点での事だから大した傷にならずに済んだんだと思う」

 そんな会話をしている間に信号待ちになる。満田君は何気に心配してくれてるのか憂いのある表情で私を見てきた。

「それでも気分の良いものではありませんよね? それにいくらお美しいとは言え男性・・じゃないですか」

 ほほぅ、たったあれだけの会話でよく気付いたね。

「大抵の方は一発で見抜けないのにってあれ? 有砂から聞いてた?」

「いえ、そこまでは伺ってませんが。僕ああいうの割とすぐ分かるんですよ、クロスドレッサーは恋愛対象に入りませんから」

 そうなんだ、でも有砂のラー●のお口のお陰で姉を警戒してたってのもあるのかな? だとしたらグッジョブだ尻軽女って友達にそれは失礼か。私にとってこの展開はなかなか無いことで内心かなりテンパってる。五年交際した元カレですらこうはいかなかったのに……満田君ひょっとしてひょっとするのかしら? うーん今日も君に後光が差してきてるねぇ。

「夏絵さん」

「はっ、はいっ?」

 うーわやっべ、ってヤンキーか私は。そんな瞳で見つめられるとドキドキしてくるじゃない、口の中が乾いて霜田口調になっちゃってるわって思ったら信号が変わって車が流れ始める。はぁ~ホッとしたのか残念なのかよく分からない気持ちに支配されてるわ今。

 それから遊園地に到着するまで信号に引っ掛からなかったので、会話は至って世間話的なもので落ち着いた。はぁ~さっきのはちょっと心臓に悪いからもう少し先延ばしにしてもらっても宜しいだろうか? 兎にも角にも安全運転で無事遊園地に到着した私たちは心置きなく遊びまくってやろうと息巻いていたのだが、そうは問屋が卸してくれない展開にちょっとばかりウンザリする事態になろうとは……。


「「ねぇ、こんなの放っといて私たちと遊ばない?」」

 と入館して何分も経たないうちに満田君が女性二人組にナンパされてる状態だ。一応私いるんですけど彼女達の視界には入れてもらえて……まぁ邪魔者扱いってところかしら。

「仰ってる意味が分かりません、僕たちデート中なんですけど」

「「こんな地味な年増と? 私たちと一緒の方が楽しいわよ」」

 う~んこの人たち大した自信家だなぁ。まぁ私よりかは全然美人ですよ、でも美人慣れしまくってる私からしたらそこまで自信持てるお顔立ちですか? って言いたくなる。ランクで言えば有砂とどっこいどっこい?

「それ自分たちで仰いますか? そんな気さらさらありませんのでお引き取りください」

 満田君は毅然とした態度で女たちを追い払おうとしてくれてる、案外頼もしいのねと思ってたらさっきまで度外視してたくせに急にこっちを睨み付けてきた。

「「ちょっとあんた! 何じっと突っ立ってんのよ!」」

「はぁ?」

 いかんいかん、思わず声に出しちまったよ。ってか突っ立ってる以外どうすりゃ良いのかむしろ教えてほしいわ。

「「ここは私たちに譲るべきでしょう?」」

 元々彼の同行者は私ですからね、その言い分を通そうとしてくる意味が分からんわ。この程度の女どもに譲る気などさらさら無いので返事してやらない。

「それが非常識だと分からない女に嫌悪感は抱けど興味は湧きませんね。彼女に余計な手出しはしないでください」」

「「こんなの庇うの? 優しさの使い方間違ってるわ!」

「「あれー? なつだーっ!」」

 と修羅場(?)に切り込んできた子供二人の声、この声は完全に聞き覚えがありますぞ。

「「なつーっ!」」

 ととんでもなく可愛い子供二人が私の元に駆けつけて来た。この子たちは葉山リフォームの長男長女、つまり時雨さんのお孫さんたちだ。

ひかるしおり、パパとママは?」

「あそこにいるよー」

 と栞がちょっと離れてる知人四名を指差してる。らんちゃん家族サービスですか、この一家はホント仲が良ろしいのよね。

《「ちょうど良いじゃない、あんたこの子たちのお守りでもしてなさいよ」》

「ん? 何このブス?」

 輝心の声がダダ漏れすぎる、そりゃああんたのお母さんこと梅雨ちゃんは美人ママブロガーとして大活躍ですからね。輝の言葉に満田君がプッと吹き出してる、あなたも何気に失礼よその態度。

「ママーッ! ブスがなつをいじめてるーっ!」

 あ~あ、栞まで便乗しちゃって大声で梅雨ちゃんを呼んでる。そのせいで私たちは周囲の注目の的となり、ブス呼ばわりの女二人は顔を真っ赤にしている。

「「ちょ、ちょっと! あんたどういう教育してんのよ!」」

 それを私に言われても知ったこっちゃございませんが。いくら友人の子供とは言え他所の子だもの。

「あら、うちの子がどうかしました?」

 ここで真打ちが登場、この方相当な美人さんだけどちょっとした問題児でもあるんです。

「「ゲッ! 葉山梅雨子じゃん」」

 どうやら二人とも梅雨ちゃんの事はご存知みたいだ。その間に私たちは退散しても……良くないわな。

「「でもガキの教育はサイテーよね、こんな騒ぎ起こして」」

「騒ぎ?火種はあなた達よね? デート中のカップルに横槍だなんて悪趣味な。それに人の子をガキ呼ばわりする女が何言っても説得力零なんだけど」

 うん、元々口はたつ方だけど母になってますます強くなったなぁなんて感心してる場合じゃない、打ちのめされる前に退散した方がいいよお二方。

「「へぇ~、葉山梅雨子案外性格悪いのね」」 

「ブスじゃないだけマシですけどね、親に感謝しないと」

 梅雨ちゃんそれ二流女には禁句だから、おっと私も梅雨ちゃんの毒舌が移ってきてるかも。ってかこの人たちブログ読んだことあるのかしら?

「「何ですって!」」

 あらあらお二方なかなか凄い形相してますわよ。

「鏡ご覧になったことが無いのね? お貸ししましょうか?」

「「失礼な女ねっ! どこまで非常識なのっ!」」

 まぁ梅雨ちゃん時々非常識だけどあなた方ほどではなくてよ、そもそも自分たちが何してこうなってるのか最早お忘れで?

「その言葉そっくりそのまま返してやるわ、ブスのくせにお門違いのナンパなんかするからこうなってるんでょう? 何分も前の出来事でもないのにもうお忘れだなんて脳内までおいたわしいのね。精神科医に知り合いがいるのでご紹介して差し上げても宜しいんですよ、それとも脳外科医? 脳内科医? むしろそっちかしら? まぁいずれにしろ知り合いはいますけどね」

「「何なのこの女! でもこんな性格だと知れたらフォロワー激減でしょうね」」

 それが困らないのよ全然、ブログでもこのまんまだから。『天使の顔した毒○○○○』の異名すらあるのご存知無いようですね。

「それならそれで構わないわ、どんなに悪評立てられてもあなた達ほど醜くならないんだもの。それよりも二重奏はお腹いっぱいだから別々にお話してくださらない?」

 その一言で野次馬たちから笑い声が聞こえてきた。この中に梅雨ちゃんの毒舌フリークがいるようで拍手まで聞こえてきた。彼女の毒舌ブログで『スッキリしました!』なんて仰るファンが多いのは事実だけど結構酷い事言ってますよさっきから、当事者だと多分泣くわこれ。

「「おっ、覚えてらっしゃい!」」

 って昔のテレビドラマの負け犬チンピラのような捨て台詞を吐いて女二人組は逃げる様に走り去っていった。結構なピンヒールでなかなかの速さでいなくなりましたよお二方、随分な騒ぎになっちゃったけどひとまず助かったとでも言うべきか何なのか……。

「ごめんね梅雨ちゃん、嫌な役回りさせちゃって」

「なつが謝ることじゃないわ、そっちの彼がトロいだけ」

 梅雨ちゃんは何故か満田君に刃を向けた。イヤイヤ、彼ちゃんと庇ってくれてましたよ、基本彼は何も悪くないと思うけど。

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