リンドバーグさんは執筆のサポートがしたくて仕方がない
佐久間零式改
初めての小説と、リンドバーグさん
「あああああああ!! 俺には無理だったんだ! 小説、しかも、長編を書くだなんて!!」
向かっていたノートパソコンのキーボードを思いっきり両手で叩いて、俺は絶叫のような声を上げた。
「小説ってどう書けば良かったんだよ! 分からない! 誰か教えてくれよ! 俺に小説の書き方ってものを!!」
百冊以上のライトノベルを読んでいる俺はとある日、雷に打たれたように『小説を書いてみたい! 俺の世界を構築して、みんなに読んでもらいたい!』と思ってしまったのだ。
そして、とある賞に応募しようと小説の書き方なんか全く調べずに勢いだけで俺は走り出した。
とりあえずプロットを作って、書き始めて早半年。
応募規定は十万字以上十六万字以下で、今のところ九万字まで書けた。
だが、プロットの通りに物語が進まずに、登場人物が迷宮に迷い込んだが如く、よく分からない支離滅裂な物語になってしまっていた。
こんな状態の物語をどうまとめればいいのか、経験も知識もなくて、俺は路頭に迷いに迷い、数日前から一文字も書くことができなくなってしまっていた。
しかも、応募の〆切りは、四日後だ。
どうがんばったって、書き終えることはできないだろう。
俺はここで終わってしまうのか?
「作者様、お困りのようですね。私がサポートしましょうか?」
自室には俺しかいないはずなのに、何故か女性の声が俺の耳に届いた。
どうやら幻聴が聞こえるまで頭がどうにかしてしまったようだ。
「作者様? 教えてくれ! の声にお応えして、はせ参じたのですが。私の声、聞こえていますか? あ、あ、聞こえていますか?」
また声がしたので、頭が本当におかしくなったのか確かめるべく声をした方に身体を向ける。
「幻聴だけで無く、幻覚まで……。俺の部屋に女の子がいるはずなどない」
身体を向けた先に、一人の女の子が立っていた。
きらびやかな衣装に身を包み、明るい笑顔を俺に対して振る舞っている。
「作者様。私は幻覚ではありませんよ。私はリンドバーグ。悩める作者様をサポートするためにカクヨムの運営が英知の限りを尽くして創造したAIです」
「AI? でも、現実に出てくる事なんてできないでしょ? プログラムだろうし」
カクヨムの運営?
それって何だろう?
「それができるのです。量子コンピュータのおかげですね」
「え? 量子コンピュータってまだ実現化されていないでしょ?」
「それはあくまでも民間での話です。それ以上は軍事機密ですので、お話できません」
興味はあるけど、今はそれどころじゃないし、聞かなくても良いか。
「で、なんで俺の前に現れたの?」
「当然作者様のサポートのためです。創作に関してお困りのようでしたので」
「物語が破綻してしまって、どうしたらいいのか分からなくて……」
俺は正直にそう述べた。
もうこの物語は俺の手には負えなくなっている。
「そうですね。でしたら、その物語を簡単に説明してください。的確なアドバイスができるかもしれません」
「冴えない転校生の男の子が、冴えない転校生の女の子と出会うんだ。そして、二人が転校した高校で一番冴えているカップルになろうとがんばり始めるんだけど、謎の高校内組織に狙われてしまう。その組織と異能バトルを繰り広げてしまって、どうがんばっても一番のカップルになれないっていうお話なんだ」
ラブコメのつもりが、途中から異能バトルものになってしまって、何がなんだか分からない物語になってしまったのだ。
「面白そうな話なので、リテイクしましょう」
リンドバーグさんはにっこりと微笑んで、悪魔のような事を言う。
「それって俺の物語がダメって事だよな?」
「作者様、そうは言っていません。リテイクです」
「全部ダメって事だよね?」
「作者様、そのような事は言っていませんよ。では問います。何故、冴えない男女が高校で一番のカップルを目指そうとしたのですか? 動機はなんですか?」
リンドバーグさんが多少真顔になって、そう訊ねてきた。
「それは二人が『ド』が付くほどの田舎から出て来た事もあって、都会の人達にコンプレックスを抱いたからで。だから、そのコンプレックスを都会の人達に嗅ぎ取られたくなくて背伸びして……。一人じゃ難しいから、二人で都会っ子に負けないくらいの存在になろうって一緒にがんばるのを決めて……」
全校生徒が十人くらいの学校に通っていたと知った二人が切磋琢磨して、都内っ子に負けない存在になろうとしていたんだ。
「何故異能バトルが始まったのですか? 二人が異能能力者だからですか?」
「それは異能バトルがあった方が物語として栄えるかなって思って……」
バトルがあった方が物語に生き生きすると思ったんだ。
けれども、それがアダとなって、何故異能バトルが勃発したのか分からない、支離滅裂な酷い物語になってしまった。
「作者様。考えなしで書くのはよくありません。熟考に熟考を重ねて設定は組み立てましょう。そうでなければ、ただの設定の羅列みたいな物語ですよ。物語ではそうなる事が必然である必要があるんですよ。ただの思いつきを押し込んだだけのものはただの日記みたいなものです。そういうのは、チラシの裏に書きましょうね」
「うん、後悔している」
どうして俺は異能バトルなんかを組み込んだんだろう。
「冴えない男女、そして、異能バトル、そこに意味が無いため、物語が支離滅裂になってしまったんですよ。そこを修正すれば、読める物語にはなるはずです」
「でも、どうやって?」
なんとなく修正の方向性は見えてきた。
「こういう設定を追加して、修正してみるのはどうでしょうか? 異能の根源……つまり、異能が生まれた源というべきものが、田舎コンプレックス、都会コンプレックスにあるというのはどうですか?」
「そういう事か! 異能は、コンプレックスから生まれたって事にすればいいのか!」
「作者様、正解です。『田舎っ子 VS 都会っ子』という構図の異能バトルです。異能はそのようなコンプレックスによって生み出され、そして、対立するコンプレックス故に対決は必然であった、と。ですが、そこから先の物語を考えるのは私の役目ではなく、作者様です」
「……そうなると」
おぼろげながらだけど、物語の修正すべき点が見えてきた。
異能バトルの先にあるものは、お互いを認め合う事か。
異能バトルを繰り広げているうちに、田舎の良さ、都会の良さに気づき、そして、お互いを認め合うような展開で戦いは収束していく。
ラストは、ありのままでいながら都会を楽しんでいこうと冴えない男女は思う、ってところかな?
そんな展開になると、ほぼリテイクだな。
しかし、だ。
そこまでの修正をするとなると、四日後の〆切りには間に合わなそうだ。
さて、どうしようか。
いやいや、『どうしようか』じゃない。
修正するんだ。
例え、〆切りに間に合わなくても。
俺はこの物語を書き終わらせないといけないんだ。
リンドバーグさんのせっかくのアドバイスが無駄になる。
「作者様。もし〆切りに間に合わず、書き上げた小説をどうすべきかと悩む展開になってしまった時は、自分の小説を投稿する事ができるカクヨムという場所がある事を思い出してください」
「へ?」
「そういった場所で書いた作品を披露する事は悪くはありません。多くの人の目に触れる事ができますし、そこからデビューしていった作者様も多数います。自分の作品が読まれるという喜びを知れば、もっと良い作品を作りたいという創作意欲も生まれるでしょうし、是非投稿してみてください」
「考えておく」
間に合わなかったら、そこに俺の小説を投稿してみよう。
どんな反応が返ってくるか不安だけど……。
「それでは」
リンドバーグさんはにっこりを微笑んで、右手を挙げた。
そして、その手を左右に振り始める。
もしかして、これでさよならって事?
「ちょ、ちょっと待って!」
口が勝手に動いて、そう大声を出していた。
「作者様、何です?」
手を止めて、俺を見つめてくる。
「リンドバーグさんとデートすることってできるの?」
そして、思いもしない言葉が俺の口から発せられていた。
「10万PVを超えたら、一考するというのはどうでしょうか? どうせ実らぬ恋。恋のために死に物狂いになって、私の下に来てくださいね。きっと良い返事はしません」
哀れみとは違う、困ったような顔を見せた。
「……それってもう振られているって事だよね?」
10万PVってなんだろう?
後で調べてみよう。
おそらくは、険しい道なんだろうな、デートの条件だし。
「さあ、どうでしょう?」
リンドバーグさんが未来はまだ分からないといった曖昧な笑みを俺に返してきた。
「俺、絶対に10万PVとかやってみせるから!」
「ふふっ、作者様、それでは良い執筆活動を」
困ったような表情から、母性が溢れたような満面の笑みを見せるなり、リンドバーグさんの姿は俺の前から一瞬にして消えてしまった。
「……」
今のは幻覚だったかもしれない。
例え、幻覚だったとしても、俺はこの小説を書き終える。
そして、投稿しよう。
そして、10万PVとやらにたどり着こう。
そうすれば、リンドバーグさんが幻覚であったかどうか分かるのだから……。
リンドバーグさんは執筆のサポートがしたくて仕方がない 佐久間零式改 @sakunyazero
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