勝てば官軍

城崎

侵攻

最後の黒い列が、白に変わる。盤面に残ったのは、白一色。白は自らの打っていた色であり、それは己の勝利を意味していた。

「……君、強くない?」

ラグドと名乗った魔王は、困惑したような表情で俺を見ている。20戦0敗にもなれば、そのような表情を浮かべてしまうのも無理はないだろう。別段オセロに強い自覚はなかったのだが、どうしてだかこんな結果になってしまった。自らも、驚きを隠せない。しかし、ラグドの瞳に映る自らの表情にはあまり変化がなかった。素体となったこの身体の元の保有者は、表情筋を動かしていなかったのだろうか。あるいは、1度死んでいることによって硬くなっているのだろうか。そうはいっても、手は白黒の石を難なく動かしているので、表情筋が硬いだけなのだろうと自らを納得させる。

「ずっと黒を打ってるのが悪いのかな……いや、そんなわけないよね? もしかして、打つ色によって勝率が変わったりする? えぇ……。この色は、互いの石を区別するために付けられてるんだよね……?」

彼は震える小声で、そう呟いている。問いに答えるべきかしばらく迷った末に、彼の方が先に口を開いた。

「もう1回しよう。次は、ボクが白を打つよ」

彼は、勝率が色にあると決めたらしい。はいと頷きながら、盤面から半分の石を自らの方へと寄せる。白黒交互に4つの石を中央に置き、ラグドが石を1つ握って手の中で振った。

「黒」

開かれたラグドの手の上には、白い面が表になった石が置かれている。自らの予想が外れたので、彼が先攻か後攻かを決められる。

「じゃあ、ボクが後攻で」

「分かりました」

そして俺は、白い石の隣に黒の石を置き、間に挟んだ白を黒へと返した。彼も色は違えど同じことをし、それを交互に繰り返していく。最初のうちは彼が多くのこと(主に部下の扱いには困ると言った話だ)を話していたが、中盤からは勝負の方に集中していてあまり言葉を漏らすことはなくなった。外を見れば、すっかり日が暮れている。今日は本当に、オセロの相手をするだけでいいらしい。



「いやぁ。君が弱いより、強い方が倒し甲斐があっていいね!」

盤上に黒い石が増えていくにつれて、彼の口数が増えていく。表情も明るくなっているように見えるのは、気のせいではないはずだ。

「そうなってくると、他のボードゲームも強いのかな? あーでも、他のゲームも同じ数だけ負けるのはちょっとなぁ」

そう言いながら、実に楽しそうに石を打っている。先ほどまでもそうだった。目に見えて勝てそうな時は喜びが、負けそうな時は悲しみが隠せていない。

「こっちの世界のボードゲームは、種類が豊富みたいだね。これだけあったら、しばらくは暇が潰せるだろうし何よりだよ」

先ほどの会議で見せていた、威厳ある表情の主とは別人のようだ。同一人物であることは、変わらない声質が教えてくれている。独特の、耳に残る声。

着々と、自らの打てる場所が減っていく。最後には、一列のみが残った。一列は白に挟まれ、彼は黒い石を1枚1枚丁寧に裏返していく。そして盤上には、白のみが残された。

「おめでとうございます」

「ありがとう! ありがとう!!」

魔王ラグドは、まるで少年のように笑っている。この地を侵略し終わった時も、同じような笑みをするのだろうか。

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勝てば官軍 城崎 @kaito8

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