第6話
学校に着き、教室へと入る。クラスメイトと挨拶を交わしながら、荷物の整理や朝の準備を始めた。ちょっと早く来すぎたのか、いつもより時間に余裕がある。
さっき、廊下で四ノ宮くんとすれ違ったけど、もともと挨拶するような間柄でもなかったし、お互い気付かないフリで通り過ぎた、はず。と、思い返したりしていた、その時だった。
「き・ざ・き・さぁーん!?」
という大音声と共に、数人の女子生徒が駆け足で教室へと飛び込んできた。先頭を怒り心頭な面持ちで歩くのは、ふわふわパーマのポニーテールが特徴的な、同じ二年の女の子だった。
「ちょっとあなた!どーゆーことなの!?」
いきなり怒鳴られて、私もビックリが止まらない。口と目をこれでもかと開いたまま固まっていた。
「え?あ…どーゆー…?」
「どーもこーもないでしょう!?今朝、わたくしの親愛なるお仲間からの情報によりますと、あなたが四ノ宮家から登校してくるのを目撃したというではありませんか!これは一体どういうことなのです!?」
彼女の言っていることがちんぷんかんぷんなのである。なぜこの人が、私が四ノ宮家から出てきたことを知っているのか。
「いや、えっと、その…」
私が返答に困っていると、彼女の周りにいる女子生徒からも、そーよそーよ!という野次が飛ぶ。彼女の言う「お仲間」とは、この人たちのことなのだろうか。
今朝、四ノ宮くんに念を押されたこともあり、素直に事情を話すわけにもいかないし、どうしたものかと思っていると、入り口の方から声がした。
「おい芳野、いい加減にしろよ。季崎はカンケーねーだろ」
声の方を見ると、四ノ宮くんが扉にもたれかかり、腕組みをしながら恐い顔でこちらを見ていた。
「あ、四ノ宮くん!おはようございます!本日も良いお日柄で…」
すると、四ノ宮くんを見や否や、目の前の芳野という人は前髪を気にしながら、さっきより2トーンほど高い声で、モジモジしながら四ノ宮くんに声をかけた。私はその180度の態度の変化に、驚きのあまり、パックリ口を開けたまま止まってしまった。
「んなこたどーでもいいんだよ。季崎ビックリしてるだろ、色んな意味で。そもそもお前、挨拶ぐらいしたのかよ。まさか、最初っから怒鳴り込んで来てないよな?」
四ノ宮くんがそう言うと、芳野さんはビクッとして、一瞬顔が固まった。が、臆することなく。
「そ、そんなことある訳ないじゃありませんか、このわたくしが!きちんと、自己紹介を、ね?しましたわよね?季崎さん?」
と言ってはいたが、彼女が必死の形相なのは、手に取るようにわかった。
「い、いや、してもらってま…」
「あらやだ!お忘れですの?季崎さん!わたくし、はじめに、
私の言葉を遮り、サラッと自己紹介をした芳野さんは、そのまま、逃げるように取り巻き達と去っていった。気付けば、戸口にいた四ノ宮くんも、いつの間にかいなくなっていた。
その後、クラスメイトに聞いた話によると、芳野聖羅は、幼い頃から四ノ宮くんの親衛隊のようなことをしており、幼稚園・小中高と、同じ学校へと進んでは、近付く女子達を、あの迫力で蹴散らしてきたらしい。しかし、いざ四ノ宮くんを目の前にすると全く話が出来ないほどのシャイが発動して、それ以上の関係に発展することもないそうなのである。
かれこれ、十年以上そのような関係を続け、言わば腐れ縁のようになっているため、四ノ宮くんも、あしらい方には慣れているそうだ。
正直、あの冷静な四ノ宮くんのことだから、変な女には捕まらないだろうとは思うのだが、まぁ、それだけ、芳野さんは四ノ宮くんのことが好きなんだな、と、ある意味、そこまで真剣に人のことを想える芳野さんが羨ましいとも思った。
かくして、居候生活により、とんでもない輪に巻き込まれてしまったと、この時悟ったのである。
seasons 倉城みゐ @kmpanda
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