第3話
「いっただっきまーす!」
みんなを呼んだ後、自分の家でもないのにいの一番にご飯を食べだした千鶴さん。その勢いに圧倒されていると、節さんが、どうぞ、遠慮しないで、と促してくれた。四ノ宮家と囲む、初めての食卓…気まずい、気まずすぎる。四ノ宮家の男三人と私は、視線を合わせることもなく、黙々とご飯を食べていた。
そんな中、千鶴さんは我々の様子を気にすることもなく、ガツガツとご飯を食べながら、会社の愚痴やら今日あったことやら、他愛もない話をしては自己完結をしてアハハと笑っていた。強い、強すぎるぞ千鶴さん。私の中で、千鶴さんへの不信感も募るばかりだった。そんな様子を見渡しながら、節さんは呆れたように苦笑いをし続けていた。
カチャ…。
そんな、気まずい食卓の空気を破ったのは、一人の男の人だった。スラッとした長身に細身のスーツ、整えられた黒い髪と白い肌のコントラストが、誠実さと清潔感を醸し出す。節さんによく似た顔には、細い銀縁の眼鏡がかかる。出来る男、のイメージそのままの人である。
「ただいま。千鶴さん、相変わらずご機嫌だね」
その人は、この光景はいつものことと気にする様子もなく、第一声を発した。
「春くん、おかえり!ごはんあっためるね!」
ご飯を口いっぱいに含みながら、千鶴さんが立ち上がる。
「おかえり、春。紹介するよ、今日からこの家で暮らす、華さん。私の友人のお子さんだ」
それに続いて、節さんが私を紹介する。紹介された私は、慌ててご飯を飲み込み、立ち上がって挨拶をした。
「は、はじめまして!季崎華です、よろしくお願いします!」
会釈をして顔をあげると、その端正な顔がバッチリと視界に収まる。第四の男までもがイケメンとは。つくづく、四ノ宮家の遺伝子は罪だと思った。
「はじめまして、華さん。男ばかりでむさ苦しいだろうけど、自分の家だと思って、気楽にしてね」
春さんは、おもむろにネクタイを緩めながら、私に向かって微笑んだ。その優しい笑顔に、コロッといってしまいそうになる。ダメだダメだ、四ノ宮家の誘惑に負けては…。必死に自制心を保ち、気を紛らせるためにごはんを頬張った。
その時、ふと気になったので聞いてみた。
「あの、男ばかりって、みなさんで全員ですか?私まだ、ご家族のことわかってなくて…」
すると、休みなくごはんにがっつく千鶴さんを除き、一瞬全員の動きが止まったような気がした後、節さんが答えてくれた。
「あと一人、夏というのがいるんだけど、あれはまぁ、予測不能な男だから…」
すると、四ノ宮くんが続けて、
「夏兄は帰ってこねぇよ。気まぐれに夜中に帰ってきて、俺たちがいない間にまた出ていくんだから。いても面倒なだけだし」
と、とても不愉快そうに言った。他のみんなも、思うところがあるのか、沈黙を貫いていた。その時、唐突にお茶碗から顔を上げた千鶴さんが
「ま、いつか会えるよ!夏くん、とっても面白いよ?」
と、ニコニコしながら話す。しかし、四ノ宮家の面々は、それに応ずることもなく、黙々とご飯を食べ続けていた。
四ノ宮夏、一体どんな人物なんだ。何もわからない私の頭の中では、妄想が膨らんでは?が飛び続けていた。
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