即売会に一人ひそかに行っていた私に、友人が堂々とついてきた結果

一白

本文

即売会が好きで、時折足を運ぶ。

元々は二次創作に興味を持ったための行動だったが、会場の片隅にちょこんと作られた一次創作向けのスペースを、なんとはなしに見ているうちに、すっかり一次創作へシフトしてしまった。


デパートで売っている商品と遜色ないような、アクセサリーや雑貨の数々、中には自作CD-ROMなど電子的な作品もある。

見ているだけで楽しく、手に取ればより一層楽しい。

各スペースに座り、客の応対をする人たちは、みなどこかキラキラしていて、少し羨ましく思った。


きっと、自分の趣味の活動が出来るという、ただそれだけでも、彼ら彼女ら創作者は嬉しいのだろう。

そして、自分が作り上げた作品を購入してくれる客に出会ったり、その客とささやかな交流をすることも、楽しみの一つなのだろう。


口下手な自分には到底、出来そうにもない、と思いながら、今日も会場をふらふら歩いていると、横から友人が「ねえ」と声を掛けてきた。


「この人たち、こんなに上手なのに、どうしてプロじゃないの?」


友人は、二次創作も一次創作もまったく触れずに生きてきた類の人間だ。

先日、同窓会で会い、「休日は何してるの?」という雑談に対し、ぽろりと「雑貨を買いに行ったり……」と答えたところ、「雑貨ってどこで?下北?荻窪?あたしも雑貨屋巡り好きなんだ」と食いつかれ、逆にそんなお洒落な雑貨屋を知らなかった私が、最終的に諦めて「……即売会で」と返したら、「なにそれ?あたしも行ってみたい!」となり、連れてくることになったのだ。

あの時の答えを、せめて、もう一つの趣味である読書にしておけばよかった、といまでも少し思っている。


友人はきょろきょろと辺りを見渡しながらも、人の動きを上手く避けつつ、すいすいと移動していた。

あまり周囲を見ないせいで、足を踏み出しては人にぶつかってばかりの私とは、まるで大違いである。

「あれも可愛い、これも素敵。あぁ、もっとお金持ってくるんだった!」と、あちらこちらのスペースを覗く彼女は、売り手側と同じように、キラキラ輝いていた。


(……、女の人は、やっぱり雑貨系が好きなんだな……)


私はどちらかというとイラスト集やポストカード、グッズなどばかりを見てしまうので、同じ会場に足を運んだ人間なのに、違いが出て面白いな、と思う。

あちこちのスペースに吸い込まれるように足を止める彼女を遠目に見ながら、私はふと目に留まった少女のポストカードを購入した。

淡い色彩のスカートをまとった、清楚なイメージの少女で、ポストカードの片隅には英語の筆記体で「Lindberg」と書かれている。

……りんどばーぐ、と読む、のだろうか。


新しくコレクションに加わった少女を鞄にしまうと、人混みの合間から友人がひょこ、と顔を出した。

にこにこと人好きのする笑みを浮かべる彼女は、「見てこれ、もらっちゃった!」と小さな紙片と自慢げに見せてきた。


「名刺?すっごく可愛いね。うちの会社でもこういうのになればいいのに」

「……鳥井って確か、銀行勤めじゃなかったっけ……?無理じゃあ……」

「煩いなぁ。あたしの名刺をあたしがどうしようと、あたしの勝手でしょ」

「いや、会社の意向は大事だと思うけど……」


私の指摘に、つん、とそっぽを向く彼女は、赤髪で元気いっぱいなポージングの……少年?少女?どちらともとれそうなキャラクターだった。

いまにも名刺から飛び出してきそうなそのキャラは、快活な性格の鳥井が手にしていることで、より躍動感を得ているように見える。


「付き合ってた彼氏がね、あたしとのデートの約束よりも、なんとかってゲームの発売日だとか、うんにゃらってアニメのイベントだとかを優先するようなヤツで、もうソイツとは別れたんだけど、でも彼女すら放っておけるくらいに夢中になれるようなモノってなんだろうなって、ずっと気になってたから、今日こうやって、ここに実際来れて、現場の空気っていうの?そういうのを感じられて本当に良かったって思うよ。ありがと!」


同窓会で会った時と同じようなマシンガントークをまくしたてられたところで、口下手な私は大人しく頷くしか出来ない。

やっとのことで、「楽しめたようで、良かったよ」と返すと、彼女は、悪戯を思い付いた子どものような顔で、こう言った。


「で。あたし、こういうイベントって、どうやって探したらいいのかもよく分かんないし、見つけられたとしても一人で来るのはやっぱり怖い気がするし、誰かと行動しておきたいのよね。加来はこういうとこに慣れてるみたいだし、あたしと休日被ってるみたいだし、またこうして一緒に来てもいいかな?いいよね?ねっ、行こう?」


両手をがしりと掴まれて、期待に満ち満ちた笑顔でそう言われては、断る術などあろうはずがない。

しばらくは静かに一人で散策、とはいかないようだが、こうして二人で気ままに参加するのも、……まあ、悪くはないか。

了承の意を伝えると、掴まれたままだった両手が上下にぶんぶんと勢いよく振られた。


「じゃ、これからも、どうぞよろしくね!」


なんだか、長い付き合いになりそうな気がするが……、まあ、それも悪くはない、か。

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即売会に一人ひそかに行っていた私に、友人が堂々とついてきた結果 一白 @ninomae99

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