光と闇

TARO

カタリィ・ノベルとリンドバーグ

 路地裏にタダなならぬ気配を感じたカタリは、覗いて見ると、男がうずくまっているのに気づいた。

「おい、そこでなにしている」

 男はゆっくりと振り向いた。その口は赤い血を滴らしていた。手にした肉片をむさぼり喰っていたのであった。カタリの詠目はすぐにその状況をつかんだ。善良な異世界ファンタジー小説が、邪悪なホラー小説に喰い殺されていたのである。


 数日前、

「なあ、最近、カクヨムにダークな小説ばかり増えてきた気がしないか」

 と、世界中の物語を救うために「詠み人」として選ばれた少年、カタリィ・ノベルはフクロウのような謎の「トリ」に問いかけた。

「この前も、悪夢に悩まされた人に悪夢を題材にしたホラー小説を届けたけど。最近そんな仕事が多いんだ」

「……」

「他にも、幽閉された男が愛した女の人に処刑されちゃう話とか、通り魔とか、ストーカー女の話とかさ」

 「トリ」は黙ったままだった。しかし、カタリの心に鮮明なイメージが現れた。それは今までカタリが救って人々に送り届けた善良な物語が黒い闇に徐々に侵食されていく風景である。

「アッこれはなんだ?」カタリはあまりの強烈なイメージに頭を押さえた。

(今、闇の勢力がカクヨムに忍び寄っている。早く対処しなければ、やがて、完全に闇におおわれてしまうだろう。お前はこれから物語を救わなければならない。私の導きで拡張世界となった「カクヨム」の中に侵入するのだ)

 「トリ」は直接カタリの心に呼びかけた。

「は? 無理で…」言い終わる前にカタリの身体が現実世界から消えた。


 気づいた時には目の前に見たこともない景色が広がっていた。建物が並ぶ都会の街並みだが、薄暗く、方々から煙が上がっていた。あまり生気の感じられない不気味な風景だった。

「救うったって、何をどこから手をつけりゃいいんだよ。あ、いた」

 カタリは遠くに人影を見つけた。その人影は路地に入っていった。カタリは追いかけた。


 邪悪な物語が善良な物語を見つけ出しては喰らい尽くそうとしている。詠目によって事態は把握したが、あまりの深刻さにカタリは途方に暮れた。そこにまたしても「トリ」の言葉が心の裡に響いた。

(お前のカバンの中に入っている地図を出すが良い。地図には世界中の人々に封印されている物語のブックマークが記されている。お前はそれにより善なる人々に封印されている物語を解き放つのだ)

 カタリは鞄を開けると、光が差した。それを見た「邪悪な小説」は怯んだ。地図を広げて、カタリは精神を集中させた。そして一編の物語の封印を解いた。物語は光の塊となって、「邪悪な小説」を吹き飛ばした。

「世界中の善良な人々よ、あなたがたに封印されている物語の力を貸して下さい。今こそ俺の元に!」

 カタリは次々と物語を解き放った。力のある物語は方々でその威力を発揮し、次第に闇の勢力の力は弱まり、カクヨムは浄化された。

 世界中の人々の心を救う究極の物語があるという。『至高の一篇』これを早く見つけなければならない。カタリは胸に誓うのだった。


「ああ、またやっちまった。セーブポイントからやり直しだ」

『世界中の善良な人々よ、あなたがたに封印されている物語の力を貸して下さい。今こそ俺の元に!』

「もう、覚えちまったよ。バーグさんうまくいかないねえ」

「作者様! つまんねえ作品を投稿するからですよ」

「ウウ、ずけずけと傷つくようなことを平気で言う」

「作者様! 投稿によって闇の勢力を拡大していくのがあなたのミッションです。このゲームの主人公が完全にダークサイドに落ちたなら、あなたの勝利で、同時に作家デビューが約束されます」

 作家育成のために作られた「カクヨム」はゲームの形をとって、参加者を増やし、様々なミッションをこなすことによって、創作のレベルを上げ、そこから未来の作家を輩出する、という政府の文化政策を巻き込んだ壮大なシステムである。参加者がミッションごとに作品を投稿することによってゲームのストーリが変化するのであった。

 参加者は創作の応援・支援を行うために生み出されたお手伝いAIのリンドバーグにナビゲートしてもらいながらゲームを進めていくのだが、最終クリア特典までの難関な道のりをその可愛さやひたむきな姿勢によって支えているのだった。参加者ごとに自立支援機能を展開し、個別のサポートを実現している。

「もう何回おんなじところでやり直しているんだろう。ネタも尽きるっちゅうの」

「〜ちゅうの、は女子ウケがよろしくありません」

「いいよ、もう。それよりどうにかしなきゃだな。あ、そうだ」

 参加者はしばらく、創作に集中した。完成すると新たな投稿をした。

「どうだろ、今度は、主人公が自分がAIであることに気づいてしまう、というストーリーなんだ」

「……」

 リンドバーグが答えず、参加者の心に直接呼びかけた。

「え? それじゃあ、俺がAIだってこと? まさか…」


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予期せぬエラーにより、プログラムは停止されました。これまでのデータは消失した恐れがあります。以下の方法をお試しになり、復旧しない場合は当社まで…

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光と闇 TARO @taro2791

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