海へ〈白鯨〉
鯨は寒風吹き
四方を囲む
頭から尾鰭まで、私の足にして二十三歩。この種にしては
雪が強まってきた。雪は音を吸い尽くし、海に溶けていく。その白は鯨の膚とは異質な色だ。生き物の色に完全な白は無い。泥の茶色や草の緑、そして血の赤の混じった肉感的な色合いしか存在しない。
懐から酒瓶を取り出し、一口飲む。
この哀れな生き物は、此処に螺子留めされたまま一生を終えるのだろうか。生き物としての役目を果たせぬまま命を使い切るという事を考えてみて、私は何も結論が出せぬまま再び酒を呷った。生き物でありながら生き物であることを捨てた人間には、本能に従った一生を思い描く事など無理な話だった。
そろそろ暖炉が恋しくなってきた。
立ち上がり踵を返そうとした私はふと、防波堤の隅に大きな車輪が設えてあるのを目に留めた。車輪からは
私は車輪に駆け寄ると、
私は叫んだ。巨獣よ、お前は
鯨はその巨体をずるりと壁の上に持ち上げると、
その光景を理解するのに、どれだけの時間を要したのだろう。我に返ると、目の前にあるのは寂れた港湾と、壁の向こうで嘲りに荒れる海だけだった。頬を打つ雪片が茫洋とした意識を刺激し、次いで起こったのは羞恥と憤怒の
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