海へ〈夜〉
砂浜へ座り、寄せては返す波を眺めていると、夜が僕の隣に滑り込んできた。そして唐突に僕の耳元に顔を寄せて言った。ざらざらした匂いが鼻先を
「例えばの話だがね、君がこの世界に必要とされていないとしたら、どう思うね」
「どうもこうもないよ」
僕は無愛想に答えた。
「淋しくはないのかね」
夜は重ねて問うた。唇の震えを噛み殺しているようだった。腹が立った僕は、乱暴な口調で答えた。
「何を寂しがる必要があるのだ。不要なものがなくなったところで誰が寂しがるというのだ。君は物を捨てるときに、捨てられる物のことを思っていちいち感傷に浸るのかね」
「馬鹿を言いなよ。そんな奴が居たらこの目で見てみたいものだね」
「そうだろう。つまりはそういう問い掛け自体が馬鹿げているということなのだ。そういう自分はどうなんだい。君がこの世界に必要とされていないとしたら、どう思うね」
「ふん、その問い掛け自体が馬鹿げているね」
「何だって」
「俺はこの世界に必要とされているからさ」
夜はあっさりと答えた。
「随分と自信満々じゃあないか。何故にそう言い切れるんだね」
「俺がそう思っているからだよ」
それこそ
夜は、まだ笑い続けている。
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