あずき日和

宝玉林檎

あずきちゃん、現る

 猫の喧嘩はまれではないが、たまに唸り声が聞こえる。だいたい、夕飯を食べ終えテレビを見てゆったりする頃、最悪な時は熟睡中の時。やけに響くし、不快指数をあげる。そんな中、小林家では猫を外で飼っている。家猫もいるがだいたい野良猫が集まって餌をあげてしまうから住み着いているだけなのだ。古い猫たちも病気などで亡くなることも少なくない。

 今夜も猫が喧嘩をしている。外に確認しに行くと長屋の隅っこで見たことのない子猫がうずくまっているではないか。母がそっと抱っこするとしがみ付き、震えている。

 家の中に連れていき、ご飯を食べさせ温める。しかし、怯えていて手が付かない。まぁ、お腹がいっぱいになると心を許したのか落ち着きを取り戻し、そのまま飼うことになった。「あずき」と命名し、家族から「あずきちゃん」と呼ばれることになる。茶トラの目がくりくりしたスコティッシュ風のミックスが小林家の家族の仲間入りになった。


■妄想あずきちゃん。

ここからは、もしもあずきちゃんが喋れたらどんなに楽しいか、飼い主の妄想です。


 オレちゃまは今日からあずきちゃんと呼ばれることになるにゃん。

なぜかって、そんなこと分かんないにゃん。でも、抱っこちてくれてるのはなんだがあったかいにゃん。

 よくわかんないけど、気づいたら迷い込んだにゃん。ただ、ちってる(知ってる)のはちょーこわかった。

 でも、カリカリのご飯はおいちくて(美味しくて)お腹いっぱいになることがこんなにちあわせ(幸せ)にゃん。ちょーラッキーにゃん。

 よく見ると、おかあちゃんと呼ばれてる人と、おねえちゃんって人と、妹さん……。3人にゃん。やちゃちく(優しく)なでてくれる。触れられるまでは怖いけど、撫でられるのは気持ちいいにゃん。にゃにゃーん。眠くなってきたにゃん。

お腹もいっぱいだし、眠りたいにゃん。おやちゅみ。


■現実のあずきちゃん

 母「眠ってるから静かに」

 妹が触れようとすると母は小声で叱った。姉が二人を見ている。

 姉「ここで飼うの?」

 母「飼えないかもしれないけど、様子をみないと、外には野良がいるから、すぐにやられて死んでしまうかもしれないからね」

 姉「そっか」

 姉はそっとあずきちゃんに触れる。母は、あずきちゃんを自室に連れて行った。


 

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あずき日和 宝玉林檎 @0516kana

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