第5話 サラマンとラスエルの日常その4
山本は夢を見ていた。そこは少し坂になった平原。太陽に少し霞がかかっていて、寝るにはちょうどいい日差し。時折吹く優しい風が気持ち良い。
山本はそこで仰向けになって、夢の中でまた寝ようとした。
「おとうさん!ご機嫌いかが?」
顔を覗かせたのはラスエルだった。
「夢にまで出てくるとはよほど印象深かったんだな」
「違うの。ラスエルの夢とおとうさんの夢をつなげたんだよ!そういうことができてしまうのだ!」
ついさっき、寝ることを覚えたラスエルはぴょんぴょん跳ねながらそう言った。
「おとうさんの中に疲れの塊を見つけました!とってあげよう!」
「狐火でお灸をするのです!お腹の服めくってね!」
「夢の中なのに効果があるのかい?」
「大丈夫!ばっちし効果があるから!」
山本のお腹の上にラスエルが狐火を灯していく。
「ここは小さな狐火。ここは大きな狐火」
そうやって、ざっと30箇所に狐火が灯された。
じんわりと温かい。
「睡眠っていうのは6つの波長でできているんだよ!」
「脳の疲れがとれる波長、心の疲れがとれる波長、身体の疲れがとれる波長の3つと、それと対になる波長が3つ」
「レム睡眠とかいうやつは?」
「それは睡眠の区分としては正しくないっていうのかなー?だって、睡眠っていうのは疲れをとるためにあるものだからね?」
ラスエルは山本のお腹に灯った狐火をこねくり回しながら
「疲れがとれる3つの波長が深く長く続くようにしてあげよう!そうしたら、こどもの時に経験したような、とびっきりの良眠がとれるよ!人本来の活力を取り戻せるんだ!」
お腹から体全体にじんわりと温まってきて、山本は心地よさに支配されていった。
「おやすみ!おとうさん!」
山本の意識は美しい平原に溶けていった。
山本は目を覚ました。夢から一瞬意識が途切れたかと思うと、もう朝になっていた。しかし、何十時間も寝た気がする。身体がとても軽い。肩こりが治っている。腰の痛みもない。頭が非常に活性化しているのが分かる。気分がとてもいい。なんて素晴らしい朝だ。隣を見るとラスエルが居なくなっていた。
居間に向かうと、ラスエルはテレビを見ていた。
「さむらいちぇんじ!」
ラスエルはアニメのキャラに合わせてポーズをとっていた。
”サムライチェンジ”は復興と近代化を遂げたアフガニスタンが舞台のアニメだ。異星人が攻めてきて、それを二人の少女が軍服ワンピースのサムライに変身して撃退する。
このアフガニスタン編の他にアメリカ編、日本編、そして、同系列で”天使システム”というロシア編があり、最終的に異星人との全面戦争になっていく物語だ。サムライ少女二人が剣舞で円陣の中に敵を封じ込め、必殺技を繰り出す様は爽快である。
「おとうさん調子はどおちぇんじ!」
「とてもいいよ!最高だ!ありがとう!」
テレビから離れようとしないから何か上着を持ってこよう。朝ごはん作らなきゃ。そういえば、会社に行かないといけないんだが、ラスエルはどうしよう?連れて行くか?置いていくか?どこかに預けるか?
山本の朝ごはん作りが始まった。ラスエルに食べさせる初めての手料理である。
「ラスエルー、アニメが終わったら服を着替えて、顔を洗ってきなさーい」
「ほ~いでちぇんじ!」
ラスエルは元気よく返事をした。
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