第49話 一つ屋根の下で過ごすのは同じ学校の生徒会長(8)

 家に帰って玄関を開けると、すぐ傍に姉がしゃがみ込んでいた。

「うわっ!!」

 怖すぎるだろ。

 最近、この人が出てくる時ホラー映画みたいな登場するのが流行りかなんかなのか。

 そもそも何でこの人、こんなところでしゃがみ込んでたんだ?

 あと少しで尻にドアが当たるぐらい近くにいたんだが。

 何も考えずに強くドアを開けてしまったので危なかった。

 というか、鍵を開ける音で誰かが帰って来ることぐらい察知できただろ。なんでこんな近くにしゃがみこんだままだったんだよ、この人は。

「おかえり」

「……何してんの?」

「掃除」

 見ると手には小さめの箒と塵取りを持っていた。

 成程ね。

 掃除してたからしゃがみ込んでいたのか。

 もっと長い箒あるんだからそっちを使って掃除すればすぐにパパッと済むのに、細かい塵まで取らないと苛々するタイプなんだろうな。

 完璧主義者というか潔癖症というか、面倒くさい性格してんなー。

「そんなこと母親に任せておけばいいのに」

「そういう訳にもいかないから」

「…………」

 母親とは話しているから仲いいかと思ってたけど、やっぱりまだ溝みたいなものはあるのかな。いや、そもそもこの姉は他人に溝を作るタイプかな。心を許せる人なんていないように思える。それが、例え家族であっても、いつも心を張り詰めているように見えるのだ。

「というかさ、今日のあれは何?」

「あれって?」

「退去勧告だよ。なんでいきなり。同じ家に住んでいるんだからもっと早く言ってくれればもっとさ……」

「私に話しかけられるの嫌でしょ?」

「それは……」

 否定できないというか、誰が相手でも嫌なんだよな。

 別に姉が嫌いという訳じゃなく、誰と話をするのも嫌なんだよな。

 というか俺が嫌いというか、姉が俺と話すのが嫌いなんだろうよ。

「そっちだって嫌だろ、俺と話すのは」

「誰がそんなこと言ったの?」

 ゆらりと立ち上がる。

 怒ってるな、これ。

 こっちが怒りたい気分なんだけど。

 俺のどの言葉で神経を逆なでしたのかを知りたい。

「誰もそんなこと言ってないけどさ……」

 正直、気圧されてるよ。

 めっちゃ怖いわ。

 こういう話し合いじゃなくて一方的に人を嬲る為に言葉を発するタイプ苦手なんだよな。

 こういう人種とはまともに話し合いなんてするべきじゃない。

「……少し話し合わないか?」

「無理。決まったことだから」

 取り付く島もないっていうのはこういうことなんだろうな。

 姉は道具を片付けて背を向ける。

「これで勉強に集中できるからいいんじゃない?」

「別に、成績下がっていないし、あそこにいることは悪くなかったよ」

「……そんな話聞きたくない」

「やっぱり、俺と話したくないだろ」

 なんか俺が悪いみたいな言い方してきたけど、耳塞いで話そうとしないのはどっちだよ。

 こういう態度だから俺だって話したくないんだよ。

「相変わらず、何も分かってないね」

 言いたい事だけ言うと、完全に姿を消した。

 これはもう駄目だな。

 家が人間の最もリラックスできる場所だ。

 話し合いで解決できる可能性は学校よりかはあるかと思ったけど、どうやら不可能らしい。

「そっちがその気なら……」

 こっちはこっちでやらせてもらう。

 まずは同好会を作ってそっちが退去勧告できる正当性を失くしてやる。

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