第48話 一つ屋根の下で過ごすのは同じ学校の生徒会長(7)

 俺の部活動提案に、二人はあまりにピンときていないようだった。

「部活動、ですか」

「悪いけど、部活動なんて私、忙しくてできないわよ」

 そういう反応になるのは分かり切っていたけど、俺も思いつきで今出した考えだからな。

 あんまり反論もすぐには思いつかない。

 だけど、割と現実的な提案だと思う。

 俺達が家庭科室を使うのがおかしいし、その正当性を今の状態で叫ぶのには無理がある。

 だから正当性を得るために、部活動として活動すればどうだ?

 誰も俺達があそこにいても批難することができない。

 あの生徒会長ですら認めざるを得ないはずだ。

「部活動といっても、活動しなければいいんだよ。大して活動しなくても部活動として成り立っているところだってあるはずだ」

 運動部は大会に出たりとか、練習しなければならないとか、監視の目が厳しいから活動をせざるを得ない。

 中にはサボっている者だっているだろうが、大多数はしっかりと活動している者で構成されているだろう。

 だが、文化部はどうだ?

 確かに大会に出たり、コンクールに出たりしている者達だっているだろう。

 だが、運動部に比べたら、監視の目は緩い。

 大会に出たり、コンクールに出なくとも文化部として存続している部活動だってあるはずなのだ。

 どこかの教室の中でやっているから他の部の眼に触れず、顧問が見回りに来ない部活動で部員のやる気がなかったらみんな何もしないだろう。

 運動部ならばグランドだろうと体育館だろうと誰かの眼がある。

 人は監視されないとやる気がでないものだ。

 みんな家に帰ってから勉強するなら塾何て必要ない。塾が何故必要とされているかというと監視されているからだ。

 監視なき楽な文化部を目指したい。

 顧問の先生もやる気ない人がいい。

 若い先生だと無駄にやる気ある人が多いからある程度年齢を重ねて、学校の先生なんて流れ作業でやっているようなお年寄りがいいな。

「例えば、調理部、とか……」

「家庭科室で活動するならそういう部活動になって来るわね」

 川畑は少し考えると、

「でも料理を作るの面倒じゃない?」

「そこまで真剣にやらなくていい。どうせ本物の調理部がいても、クッキー焼くとか、しらたま団子作るぐらいじゃないか? まさか家庭科室でカレー作ったり佃煮作ったりするわけにもいかないし」

 そもそもそんなもの認められるのかっていう話になる。

「調理部って火を使わないといけないから、先生が付きっ切りになるんじゃないですか?」

「なら火を使わない料理を作るしかないな。包丁も使わない方がいいかもな。スイーツとかならいいかも。それか、料理の本をずっと読書して今勉強していますを一ヵ月間貫き通すとか」

 井坂の懸念は尤もだ。

 火や包丁を使うとなると先生がずっと見ていないといけない。

「そもそも部活動って、放課後にする時間なんて私はないわよ」

「幽霊部員でもいい。というか、活動しなくても、ただ部活っていう名目があればいいんだ。――いや、待てよ、そもそも部活動ってできるのか?」

 俺は学生手帳を取り出す。

 確かここに部活動を作る際の注意事項が書かれていたはずだ。

「よく学生手帳なんか持っているわね」

「学生手帳がないとカラオケとかボルダリングとか行くときに年齢確認される時があるんだよ。学割とかでも使えるし」

「なるほどね」

 学生手帳があると色々と学割できるから便利なんだよな。

 別に真面目だから持っている訳じゃない。

 漫画を売る時とかも身分証明書として使えるから、常に持ってるんだけど、他の奴はそうでもないのか?

「部活動の申請には5人以上。それから顧問の先生が必要になるみたいですね」

 井坂が俺の学生手帳を覗き込みながら川畑に伝える。

「全然足りないわね」

 俺と井坂と川畑で部活動を発足するとなると3人しかいない。

 もしも俺達が陽キャだったら友達を連れてきて5人になって即座にこの定員不足の問題が解決できたかもしれないが、まずその案がすぐに出ない事で察したな。

 俺達じゃ部活動を新しく作るなんて無理だ。

 完全に詰んだ。

 幽霊部員でいいから名前書いてと言えるような人間もいない。

 というか他人と話したくない。

「川畑は仲いい奴は?」

「話せるようになった人はいるけど、部活動に誘えるほどの仲ってなると……」

「そうか……」

 俺達三人の中で友達を召喚できる可能性があるとなると川畑ぐらいなものだったが、無理だったようだ。

 まあ、最近話せるようになっただけだしな。

 友達と言えるような相手はいないかも知れない。

 そもそも友達であっても部活動に誘うってまあまあハードル高いし、断られることの方が多いだろう。

 俺の中で高校の部活動でしんどそうな部活って野球とか剣道がすぐパッと思いつくけど、その二つにいきなり誘われたらすぐに断るもんな。

「はいはーい」

 井坂が手を挙げる。

 だが俺は頭を抱える。

「もう……終わりだ」

「私は!?」

 井坂に訊くまでもなく、こいつには部活に誘える友達なんていない。

 いたらびっくりするしな。

 とりあえず、この人達友達ですって2人連れてきたらお金渡したのかを一番最初に疑うよ。賄賂渡さなきゃ友達なんて井坂が連れて来られる訳がない。

「同好会だと3人でもいいみたいですね」

「同好会か。その線でいくか」

 井坂が解決策を見つけてくれた。

 別に部活動じゃなくてもいいのだ。

 むしろ同好会の方が活動緩々でも許してくれそうだ。

 川畑はうん、と頷く。

「いいんじゃない。とりあえず今の状況をなんとかすればいいのよ」

「私も賛成です」

「よし。解散する――」

「できれば二人に動画の手伝いをして欲しいのよね」

 話し合いが終わったと思ったら仕事を手伝えと言ってきた。

 動画活動か。

 いつもよりも人手が多いとみて、チャンスだと思ったな。

「俺はまあ、金が貰えるなら……」

「私も簡単なことなら手伝います!!」

 井坂が元気よく答える。

 五月蠅いな、相変わらず。

 だが、井坂がそう言ってくれると正直助かるな。

 動画制作って人手がいくらあっても足りないからな。

 一人で動画撮って、編集して、投稿するっていう人もいるみたいだけど、ちょっと信じられないんだよな。

「それじゃ、簡単なことだけ手伝ってもらうわね。勿論、お金は弾むから」

 ニッコリと笑う川畑はまるで詐欺師のようだった。

 まあ、こいつ動画に関しては鬼だからな。

 井坂が潰れないことを一応祈っておこう。

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