第46話 一つ屋根の下で過ごすのは同じ学校の生徒会長(5)

「なんかさっきから二人とも親しいような口ぶりじゃないですか?」

 井坂の言葉に生徒会長の動きが止まる。

 だが、それは一瞬のことだった。

「……以前も彼が家庭科室にいると苦情が来た時に注意しただけですよ」

「まあ……そうでしたかね」

 生徒会長が睨み付けてくるので、俺も曖昧に返答しておいた。

 勿論、生徒会長がさっき言ったのは全くの出鱈目だ。生徒会長としてこの場に乗り込んできたことなどないし、学校で話したことなど皆無じゃないのか。俺達に接点があるのはおかしいから、暗黙の了解として俺達は他人で貫き通してきた。今日の生徒会長様はいつもに比べて隙が多いな。それだけこの家庭科室を占拠しているのが余程腹に据えかねているのかな。

 しっかし、井坂は普段頭が回らない癖に、何でこんな時ばかり確信めいたことを口に出すのか。

 たまーに、こいつの頭が良くなったように見える時があるんだよな。

「とにかく、ここから出て行ってください」

「……そうするか。二人とも行くか」

「え、でも……」

「いいから、今は言う通りにしろ」

 あくまで、今は、の話だ。

 俺の言葉に井坂は渋々といった様子で教室の外へと出る。川畑も一緒に出て行き、今日は一緒に登下校する流れになった。

 特に言葉を交わさずとも、さっきの出来事を話さずにはいられなかった。

 三人が集合すると、一番最初に口を開いたのは納得いっていなかった井坂だった。

「どうして引いたんですか?」

「お前は転校生だから知らないだろうけど、あの生徒会長が行動を起こしたってことは、その時点で詰みなんだ」

 姉妹としての彼女のことは詳しくはないが、生徒会長としての彼女のことはよく知っている。学年が違っていても、彼女が完璧であるという噂は伝わってきている。学力も運動もできて、学校だと性格がよく、人当たりがいい。生徒や教師の人望もあるから、穴という穴が見当たらない人間であり、俺がある意味で最も苦手とするタイプだ。

 人間というのは、欠点があるからこそ魅力があり、好きになる要素があると思っている。完璧すぎるとただのロボットにしか見えない。井坂や川畑だって欠点だらけだが、だからこそ俺は関わり合いになれているといっていい。積極的に遊びに行ったりとか、SNSで連絡を取り合ったりはしていないが、俺にとって喋ることがあるというだけでかなり仲良しってことだ。

 だが、あの生徒会長様とは言葉を交わすことはない。

 一方的に嫌われているのだから喋ることができないのだが、俺だって願い下げだ。別に負け惜しみでも何でもないが、あいつが俺のことを嫌う前に、俺があいつのことを嫌っているのだ。順番っていうのは大事だからな。精神衛生上でも、俺はあいつが苦手ってことは再認識しておこうと思う。うん、俺が悪い訳じゃない。

「……選挙の時って圧倒的大差で生徒会長になったって噂で聞いたけど、優秀な人なのよね」

「他の立候補者が可哀想なぐらいだったよ。演説の段階で他の立候補者はもう投げてた」

 川畑は下級生だからあまり情報が入ってこないのも納得だな。ただ、中高の生徒会選挙で最も強烈なインパクトが残っているのは、間違いなく我が姉が生徒会長に当選したあの選挙だったな。

 結果は火を見るよりも明らかだったせいで、演説している時の外の立候補者の滑り具合ったらなかった。正攻法じゃまず勝てないと割り切って、ギャグを挟み込む奴もいたからな。そもそも選挙活動中に、集まる人数が数十倍は違っていたから、演説が入る前から心がみんな折れていたかも知れない。

 生徒の中じゃ確実に一番の曲者といっていい。

 そんな奴を相手取るとなったら、中途半端な案は通じない。本腰を入れて戦うしかない。だとすると、まずは落ち着いて話し合いができる場所がいるな。大人の邪魔が入らず、極力お小遣いの少ない餓鬼でもまともに会話できる場所となったら、一番最初に候補に挙がる場所がある。

「作戦会議をしようか。川畑の家でやっていいか?」

「しょーがないわね。いいわよ」

 そう言いつつも、川畑はなんだかんだ乗り気のようだった。

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