第44話 一つ屋根の下で過ごすのは同じ学校の生徒会長(3)
放課後だが家庭科室に集まっていた。
俺達がここを使うのは、昼休みに昼ご飯を食べるためだが、最近は放課後にも集まっている。
ここに集まるのに都合がいいのは、川畑の学年が違うからだ。
撮影の前に集まる場所としてここが集合場所となっている。ここに集合してから、撮影する時は川畑の家まで行くのだ。だけど、毎回のことながら面倒なんだよな。川畑が人気者だから、二人でいるのはおかしい。だから微妙な距離を離れてから帰宅する。学校から十分離れた場所で合流する流れになっている。それって、本当に一緒に家に帰っているってことになっているんだろうか。ほとんど話していないんだけど。
というか、そもそも、撮影の時は事前に連絡すればいいのに。
そう思うのだが、気分が乗る日とそうじゃない日があるらしい。
前の日に、よし明日俺と一緒に撮影しよう! という気分になる時もあるが、その日になったらやっぱりやめよう、という気になる時があるらしい。気分屋らしいが、こっちの身にもなってもらいたい。たくさんお金を貰えるので、渋々従っているが、撮影する日ぐらいしっかり決めて欲しい。
なんというか、楽だよな。
Vtuberとか、普通の動画配信者は大変なんだよ、っていう風潮がある。
病んでいる人が多くて、疲れている人が多いイメージがある。
それなりに大変なのは、動画制作の動画を観たことがあるし、川畑を見ていればそれは伝わって来る。
ただ、明らかに自由さは無限大だ。
普通、その日の気分によって仕事内容を変えられる仕事なんてない。
遅刻してヘラヘラして、ごめーんで済まされるような仕事ってあるか?
そもそも遅刻したらお布施が貰えるような仕事あるか?
ちょっと病みました→復帰しました。
その動画だけで数百万のお布施を貰えるような仕事いいよな。
俺もそういう仕事欲しいわ。
辛い、辛いって言っているVtuberの人いるけど、他にヘラヘラしてもらえる仕事あったら紹介して欲しいわ。俺だって遅刻したり休んだりするだけでお金貰えるような仕事欲しいわ。
そもそも高校生ってなんでお金貰えないんかな。
高校生は楽だよ、青春だよ、今の内に楽しんでおいてとか言われているけど、そもそも自由な時間なんてない。大人は潤沢な資金があるから自分の趣味にお金を使える。糞高い化粧品を買えたり、一本一万以上するゴルフクラブだって買える。だが、高校生はそうもいかない。お金がないのだ。
これだけ努力しているのに。
大人たちがどれだけ仕事しているのかは、大人になっていない俺には理解できないけど、俺はずっと勉強をしている。他の誰よりも勉強をしている自信があるし、それは結果としても出ている。なのに、金がでない。モチベーションが低下するなんて当たり前だし、俺がどれだけ勉強をしていても、少し休憩したら、もっと勉強しなさいとか、勉強だけしていても、部活をすればとか言ってくるのが親だからな。親って何なんだろうな。先生もだけど、とにかく文句が言いたいだけな気がする。頑張っていたら、普通に頑張っているね、の人一言だけでいいはずなのに、とにかく頑張っていなさそうなところを探して、文句をいうのが義務な気がする。そもそもこの世で頑張っていないでいる人間なんてある意味どこにもいないんじゃないのかな。勉強を頑張っていないやつだって、遊びに全力でいるはずだし、頑張っているのだ。その頑張っている姿勢を見ずに、自分の型にはめようとするのはどうかと思うけどな。
「どうしたんですか?」
「あ、ああ、別に、考え事」
そして何故か川畑じゃなくて、井坂がいるし。
井坂は別に放課後用事がある訳がない。
二人で遊びに行くような関係じゃない。
道端でバッタリ会ったら話す仲――いや、俺は話したくないが――まあ、そういう仲なだけあって、放課後は別に話さなくてもいいような気もするが、井坂も放課後ついてくるのがデフォになっているんだよなあ。もう慣れっちゃったけど、これはこれでおかしいんだよな。住めば都とかいうけど、人間って言う生き物は生きる環境がどれだけ劣悪だろうと慣れてしまうんだな。
「あのー」
扉を開けて変な声を出すのは川畑だった。
遅い遅いと思ったが、ホームルームか何かが長引いたのか。それか、クラスメイトに捕まったのか。毎回来るのが遅いのでそれはあまり気にはならなかったが、気になったのは態度だった。
ここに来たら猫被っている普段の自分を脱ぎ捨てて素の自分になるのだが、何だか今は余所余所しい。何かあったとしか思えない。
「どうした?」
「お客様みたいです」
消え入るような声でそう言った川畑の横からぬっと手が出てくると、扉を強引に開ける。強く開け過ぎてバァンと音が鳴る。どうやら客というにはあまりにも乱暴な人間が来たようだった。
三、四人、男が入って来る。
見覚えがない。
顔つきやら背格好からして恐らくは三年生だと思われる。そのモブ達の後から入ってきたのは凛々しい表情をした女だった。明らかに男を顎で使っているようなその動きに反吐が出そうになった。顔が整っている彼女が言えば何でも言う事は聴くだろう。本性なんて知らないんだから、どうせ、こいつらは。
「あの人って、生徒会長さんですよね?」
「……ああ」
今日の朝、特に会話なんてしなかった。ちょっとした用事があるなら朝か、それか家に帰ってからでもいいはずだ。このタイミングで、しかも男達を連れてここに来たってことは面倒事を持ってきたってことだ。
生徒会長様の顔を見て思い出したが、男達の顔を思い出した。記憶をたどっていくと辿り着いたのは主に体育館で教壇に立っていた彼らだ。あれだ。生徒会メンバーだ。顔を知らない人もいるが、生徒会の人間か、それに近しい連中だろう。生徒会が一体俺達に何の用事だ。
いや、俺達じゃなくて、この三人の中の誰か個人に用事がある可能性もあるのか。
「少し、よろしいでしょうか」
「どうされたんですか? 生徒会長」
よろしいと言いながら有無を言わせない言い方が鼻につく。言いたい事があれば言えばいい。俺は投げやりになりながら敢えて名前は言わなかった。ここに川畑や井坂、他の三年生のメンバーがいる中で姉もそれは望んでいないだろう。
「あなた達は部活でも同好会でもなくここを占拠しているということを、苦情として何件も貰っています」
「えっ……」
井坂が絶句する。
俺も彼女程ではないが驚いたのは事実だ。何せ咄嗟に言葉が出なかった。苦情が今まで来なかったのがおかしいぐらいだ。前々から占拠していたし、前は一人だったが、最近は人数も増えた。こうして生徒会が出張って来ても何ら不思議がない。むしろ、先生やら大人が俺らに直接注意するぐらい問題になってもいいことだ。
「あなた達がここで集まることを、生徒の代表として私が許可しません」
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