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第42話 一つ屋根の下で過ごすのは同じ学校の生徒会長(1)

 学校から家に帰宅すると、姉が玄関に座っていた。

 ビックリした。

 相変わらず気配を消すのが上手いなこの人。

「……ただいま」

「おかえり」

 それだけ言うと、ウェットティッシュで鞄を拭いていた。

 付着している埃が気になるタイプらしく、廊下に出る前に鞄を綺麗にしておきたいらしい。靴を脱ぐ時にも、毎回わざわざ座ってから靴ベラを使っている。俺なんか靴が潰れようが関係なしに、履き捨てるものだし、鞄の埃も気にしないタイプだから、いつもだったらそのまま自室に戻るのだが、倣っておかないと、グチグチ小言を言われそうなので、俺も姉と同じ行動を取る。

「うわっ」

「何?」

「いや、それは、その……」

 姉の鞄から手紙が一枚落ちて来たと思ったら、一枚じゃなかった。大量の紙がどさどさっと出てきたのだ。

 ちょっとしたホラー映画とかでありそうな演出なんだけど。

 便箋に入れているやつもあるし、そんな手紙が鞄の中に入っているってなんだろう。年賀状にしては時期外れにも程があるし。

 声を出さなきゃスルー出来たのに、出してしまったのだから、何かしらのリアクションを取らなきゃいけない。

「どうしたの、それ?」

「ラブレター」

「へ、へぇ。今時ねぇ」

「別にいいでしょ」

「あー、はい」

 別に批判したつもりはないんだけど、姉の機嫌はどんどん悪くなっていく。この人と話しているとストレス溜まるんだよな。嫌われているのが伝わる。

 学校っていう場所は集団行動があって班行動とかあって面倒だけど、ぼけーとしておけば何とかなる時もあるけど、家で家族相手ってなると、どうしても話さなきゃいけないっていうのがな。

 俺以外の家族とは姉はちゃんと喋れているみたいだけど、俺とは話が合わないというか、合わす気がないように感じるんだよな。

 というか。

 俺の姉は、家と学校では性格がまるで違うとは思っていたけど、モテるんだなあ。あんなにラブレター貰うとか、好かれているにも程がある。井坂とはまるで違うな、人気度が。

 やっぱり猫被っているから好かれるんだろうな。

 俺も、学校にいる時の姉だったらいいのになって思う。

 あんな優しそうな顔をしている姉だったら、普通に家にいる時にでも楽しかったんだろうなって想像してしまうな。

「ご飯、どうする?」

「何の話?」

「連絡、来てた。二人とも遅くなるから帰り遅くなるって」

 スマホを翳して見せる。

 連絡来てたのか。

 正直、スマホなんて全然使わないから、親の連絡なんて見ていない。

 スマホの画面を見ると、確かに両親が遅れるから、夕飯適当に食べてて、といった旨のメッセージがあった。

 最近、仕事が忙しいみたいで、両親が遅い時がたまにあるな。

 気まずいから居て欲しいんだけど。

「ああ、出前でも取る?」

「冷蔵庫の中に色々あるから、ご飯作ろうと思うけど」

「俺が作ろうか?」

「……いい」

「ああ、そう……」

 そうですか。

 俺の飯が食いたくないってことですか。

 俺も姉も料理作れるからどっちが作ってもいいけど、一応気を遣って料理をしてやろうと思ったんだけどな。

 俺よりも姉の方がずっと忙しそうに見えるしな。

 生徒会の仕事とか、勉強とか。

「できたら、スマホに連絡するから」

「分かった」

 そう言って、俺は自分の部屋に戻った。

 俺の部屋は、基本的に姉にノックすらされない。

 スマホで連絡を取るぐらい、喋りたくないらしい。

 ベッドに転がってスマホを見ると、姉から、ご飯どうする? とメッセージが来ていた。ああ、だから今日余計にイライラしているように見えたのか。俺が返信をしていないせいで、嫌な弟と声を出して喋らなくちゃいけないからと、腹立ったのだろう。

 なんであんなに俺のことを嫌っているのか分からない。

 ただまあ、多分、俺が悪いんだろう。

 俺は自分のことを普通の人間だと思っている。

 むしろ、その辺にいる連中よりよほどまともな人間であるという自負がある。

 それにも関わらず迫害されがちなので、周りから見たら俺が『悪』なんだろうという認識だけはある。

 俺が何かしたせいで、姉は怒っているのだろう。

 義理とはいえ、家族になったのだから少しは話せるようになりたいんだけどなあ。

 目を瞑るって、溜息を吐いていると、眠気が襲ってくる。

 鞄放っているだけで、宿題を机に出すこともできていない。

 最近、色んなことがあり過ぎて、疲れて勉強する気力が沸かないな。

 起きなきゃ。

 自分のコントロールをしなきゃいけないのに、微睡みが押し寄せてくる。

 そのまま俺は眠ってしまった。

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