2-4

第39話 現役女子高生YouTuber川畑明日菜には友達がいない(15)

 あれから数週間経った。

 俺が逆転の一手を打ったことによって、状況は一変した。

 川畑の友達0人にする作戦を講じた所、結果的には全く上手くいかなかった。

「あいつ、囲まれてるな……」

 色々と教室にいるだけでも情報は入って来る。ゴシップ大好き女子達の無駄にデカい噂話のおかげで、川畑が今どういう状況なのかはある程度把握できていた。女子達が川畑をどう見ているのかも。

 あまりにも気になって、こうして一年のところまで様子を見に来た。

 騒動の前は川畑の周りには男しかいなかった。

 だが、今は川畑の周りは女子しかいない。

 逃げられないように周囲に何十人もいる。

 男よりも遠慮ない。

 男は触っただけで痴漢扱いされるから、距離を詰められない。だけど、女は女を触っても何の問題もない。だからいくらでも距離を詰めることができる。

「迷惑そうにしているな」

 救うつもりで、俺はあいつに提案をした。

 あの時取り巻いている問題から解放されるように、自分なりに知恵を絞ってあいつを助けるつもりだった。だけど、事態は悪化したのかもしれない。あんなに女子に囲まれるなんて前はなかった。

 動画の件でまたなんやかんやと難癖をつけられたのかも知れない。

 あの後、何個か新たに動画を上げた。

 そのせいで、反感を買ったんだろうか。

「迷惑そうっていうか、困惑しているんじゃないですか?」

 隣にいた井坂がそう評するが、そうなんだろうか。

「困惑?」

「だって、川畑さん嬉しそうですよ。有川さんと一緒に動画を上げてから、女子の人気凄いらしいですよ」

「え? そうなんだ……」

 あれって、嫌がらせのために囲まれていたんじゃないのか。

 群がっている女子の中でペンとか持っている人がいるけど、あれってサインをねだられているのか。

 あれだけ女子に敬遠されていたのに、分からないもんだな。

 やっぱり、どいつもこいつも手のひら返しが早い。

 ちょっと動画を上げただけなのに、意見を簡単に翻す面の厚い連中だ。

「人気無くすのを覚悟で動画を出したんだけどな」

「男子の人気はなくなったみたいですけどね。でも、あの動画の内容だったら、女子の人気は出るんじゃないですか?」

 確かに、男子の対応は変わっていないようだった。

 だが、まあ露骨に陰口を叩くようなことはしないようだ。

 男と言うのは体面を気にする生き物だ。

 周りが認めているのなら、そこで無駄に反骨精神を出して、川畑を糾弾するようなことはしないだろう。

 何か人間関係で問題が起きた時に、男と女どっちが面倒かと聞かれたら、俺は女と答えるだろう。

 女は凄い。

 周りに人がいるのに平気で一人を孤立させることができる。

 周りに、仮に先生がいようが、いじめが良くないと思っている男子がいようが関係ない。どんなことをしても許される。女子は陰湿な悪口を言っても、世間的には許されてしまうのだ。男だったらそうはいかない。男がそんなことをしたら、集団で仲間を作る女子達がねー、何してんの、さいてー、とか一言いえば、いじめっ子男子は怖くなって逃げてしまう。

 学校の先生だって男に注意はできても、女子には注意できない。何故なら複数人で仕返しされるからだ。

 ということで、男を敵に回るよりかは、女を敵に回す方がよっぽど厄介だ。

 だから、今の状況は良くなっていると思う。

 女子に好かれれば、安泰だろう。

 俺は女子にも嫌われるだろうと思って、開き直った動画を上げさせたのだが、やっぱり女の感性というものは分からないもんだ。

「今、あの動画に映っていた男が誰かで話題になっているみたいですね」

「まあ、みんな、この学校の奴らは大体気が付いているだろ」

 俺が取った行動それは炎上に炎上を重ねることだ。

 ヤバイ行動にヤバイ行動を取ったら、前のヤバイ行動が上書きされるはずだ。

 そう思って、俺は新しい動画を上げさせた。

 その動画には俺も出演している。

 勿論、顔は映していない。

 鏡やらが反射して顔が映っても大丈夫なように、サングラスとマスクをつけているが、動画からは見切れている。

「まあ、大丈夫じゃないかな。今の時代、小学生ですら配信者で顔出ししているし」

 赤ちゃんですら、動画で紹介する時代だ。

 顔出しするのなんて当たり前になっている。

 まあ、怖いから顔出しはしていない。

 声も出していない。

 ただまあ、気が付くやつは気が付いちゃうだろうな。

「それに、あの内容、あれって本当に嘘なんですよね? かなり本当っぽいですけど」

「どこがだよ!! めちゃくちゃ演技しているだろ!! ちゃんと台本だってあるんだぞ!!」

「……怪しい」

「怪しくないから!!」

 別に井坂にこれだけ責められるようなことは、何一つしていない。

 一緒に動画を撮って、それを上げただけだ。

 脚本も一緒に考えて、それをサブチャンネルに上げた。

 それが人気が出て、登録者数がとんでもない勢いで増えまくっている。

 反響は必ずあるとは思っていたが、予想外だった。

 女子があんなしょうもない動画に好反応を示すとは思わなかった。

「ただ、一般人の俺と、人気配信者の川畑が付き合うことになっただけだろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る