第34話 現役女子高生YouTuber川畑明日菜には友達がいない(10)
「嫌だ。本気で」
そうやって自宅訪問を断固拒否したのだが、無理やり拉致られた。
分かっていたけど、俺って結構意思が弱いかも知れない。
グイグイ距離感詰めてくるような女子に逆らえない。
まあ、川畑の場合はバイオレンスな攻撃を仕掛けてくるから仕方ないんだけど。
俺が暴力を振るったら、それこそ動画のネタにされて警察の厄介になるかもしれないが、川畑が行ったら無罪になる。
仮に事実が公になったとしても、何か俺が川畑を不快にさせたからその意趣返しだったんじゃないの? とか、何故か被害者である俺が責められる展開を簡単に予測できてしまう。
知名度や人気があるだけでこんなにも扱いが違うんだな。
俺も動画配信始めれば、少しは意見を通すことができるようになるんですかね?
とりあえず今の時代を考えて手洗いうがいを強要された。
命令通りに行ってとりあえず、暇になったから質問する。
「それで、わざわざ俺を家に招き入れてどうするんだ?」
こいつ。
本当に何も考えていないな。
俺が一般高校生並みの性欲を持っていたらどうするんだ?
今はあまりないとはいえ、中学生の時はちゃんと異性を意識していたんだけど。
高校生っていったら、財布に避妊具を忍ばせていてもおかしくないぐらい、そういった行為に関心があるものだろ。
俺が襲いかかるとかそういう発想ないのか。
信頼しているのか、俺のことを臆病者だと思っているのか。
ガチで男女二人きりの空間。
しかも広いし、防音機能凄そうだし。
結構やりたい放題だと思うんだけど。
それともこいつビッチか?
男に迫られて迷惑とかいいつつ、もしかして部屋に呼び放題。夜通しパーティーやりたい放題、煙草やらお酒やら高校生がやってはいけない行動やってないだろうな。川畑のこと、本当に詳しくないから、何をやっているのか普段知らないんだよな。
「ちょっと手伝ってくれない? やっぱり買いすぎちゃって疲れたんだよね」
「ただ働きさせる気か?」
「報酬なら出すけど?」
「悪い。お金貰っても嫌だった」
高校生だから、喉から手が出るほどお金が欲しいのは欲しいんだけどな。
新しい趣味を始める時にお金がいる。
他人との付き合いがないだけ、友達多い奴よりかはお金が貯まりやすいんだろうけど。ほんと、無意味に高い飲み物買ったり、大して面白くもない遊びのためにお金を浪費するのだけは嫌だからな。お金が貯まりやすいってだけで、ぼっちで良かったと思える。
「だけど、本当に親、いないんだな」
人の住んでいる気配がない。
なんつーか。
家に帰ったら絶対に生活音というものがある。
音楽がかかっていたり、テレビの音が流れてきたり。
蛍光灯はついているし、それから料理の匂いで香ったりする。
だけど、そういうものが全然ない。
特に、物がない。
広い空間だからよそ余計に物が無いのが目立つ。
俺の家が四人家族だから、それなりに物がある。
食器の皿とか、机とか椅子とか。
そういったものが全部一人分だけ。
ただそれだけでこんなにも寂しいものなのか。
家に帰っていきなりこれを眼にしたらキツイかもな。
俺は学校ではぼっちだ。それを気の毒がって話しかけてくる偽善者っていうのはたまにいるものだが、別に何ともない。それは家で親と無理やりにでも話す機会があるからかもしれない。学校でぼっちでも家では話し相手がいる。だから大丈夫っていうのもあるのかもしれない。
だけど、家でも一人か。
自分から選んで一人暮らししているならまだしも、嫌がらせされて一人暮らしにならざるを得ない状況になってしまったのだ。
家事洗濯だってしんどいだろう。
手伝っている俺ですら面倒なのだ。
風呂掃除やらアイロンがけの手伝いですらやりたくない。
だけど、川畑は全部やらないといけないんだよな。
家事も勉強も動画撮影も。
この寂しいたった一人の空間で。
改めてこの環境を眼にするとやっぱりとんでもないよな。
それとも慣れたら別になんともないのだろうか。
少なくとも川畑はしんどそうに今は見えない。
「なんでそんなこと思ったの?」
「一人分しか物がないからだよ」
「ああ、でもYoutubeで使うものが物置にいっぱいあるから。いつか使ったものを全部売りに出していくらにりました、っていう動画を上げようと思ってるけどね。いるもの、いらないものの整理のためにも収納動画を上げて綺麗に整頓したいのよね」
「そういえば一時期そういうの上げてたな」
「うん。あんまりバズらなかったから、最近はあんまりしていないけどね」
スーパーボール1000個買って階段から落としてみたとか、そういう大量購入系の動画か。他の投稿者が死ぬほどやっているやつだから、一定数の動画再生数はつくかもしれないけど、後発組はどうしてもいまいちな動画再生数になるだろうな。
「それじゃあ、こっちの部屋に来て」
「ああ。…………おお」
「何?」
「本物だと思って」
「何それ?」
冷めた反応だけど、俺的にはちょっと感動。
案内されたのは、動画でよく見た場所だった。
生活で使うものはあまり置かれていない。
ただ証明道具やら、スマホを設置するための器具などが置かれている場所。
撮影場所だ。
有名人が実際に撮影している場所に来れるって凄いよな。
部屋を特定するために犯罪行為を犯す人間だっているのだ。
それを、有名人本人の許可をもらってここまで来れる人間っていうのが珍しいよな。
「ここって誰か来た事あるのか?」
「ううん。この家に家族以外が入ってきたこと自体、あんたが初めて」
「へ、へぇー」
あれぇ?
何だこれは。
男にとっての永遠のテーマ来たな、これ。
誘われているのか?
それとも男として全く見られていないから部屋に呼ばれたか。
……まあ、後者なんでしょうけどね。
ここで変にがっついて恋愛脳になったら、警察沙汰オチは読めているんだよなあ。
「ストーカーに近い人なら一階に来た事ぐらいは全然あるけどね」
「うわっ、こわっ」
「流石にインターホン押してサインくださいって言ってきたことあるぐらいだけどね」
「いや、十分ヤバイけど」
本当にこれこそ警察沙汰というか警察案件だろ。
俺だったら通報しているぞ。
男の俺ですら今聞いてゾワッとした。
女の一人暮らしって本当に怖いな。
親反対しそうだけど。
実家にファンが押し寄せるよりかはマシだと思ってんだろうか。
高校生の一人暮らしはかなりキツイだろうから、月に何度は様子見に来そうだけどな。
「でもまあ、最近話題になったvtuberの人よりかはマシよ」
「vtuberの人?」
「ほら。あれ。何だったけ? 詳細は忘れたけど、一人暮らしのはずなのに部屋に誰か入り込んだやつよ」
「…………あー、最近炎上したな。玄関に侵入して来たならまだしも部屋に侵入してきたのに、呑気にプレイしていたってやつ。警察呼んだとか言っていたけ?」
正確に言うとvtuberと凄い似ていて、前世と呼ばれている人が炎上したやつだよな。
配信中に手が映り込んで、それに対して変な対応したから彼氏いるんじゃないかって燃えたやつ。
自宅に侵入されたのに関わらず平然としていたし、その後も普通に動画出すから怪しまれたんだよな。せめて警察呼んでからそれを動画撮影したりすればよかったのに、それもなしだから咄嗟に言い訳したと思われたんだよな。
まあ、個人的には彼氏とか家族だった方がいいけど。
配信中に知らない人間が部屋に入ってきたら、全力で逃げ出すけどな。
俺だったら。
怖すぎるだろ。
画面に集中しているから余計にビビりそうだ。
鍵変えるとか言っていたけど、もう家ごと変えたいぐらいだけど、本当だったら。
仮に彼氏だったとしても、すぐに認めればいいのになって思う。
日本で一番有名なコスプレイヤーの人も彼氏がバレて炎上しかけたけど、お付き合いしていますと何の誤魔化しもなく報告したらすぐに沈下したな。
すぐに認めたから、信者は祝福し出したね。
それが一番なのかもしれない。
彼氏バレとか結婚バレで炎上案件は、みっともない。信者なら認めろっていう風潮は数年前からあるからな。信者もごちゃごちゃ言えなくなる。そこで誤魔化して後から嘘ってわかった時に一番炎上するパターンが多い。
謝ったら謝ったで炎上するけどな。謝り方が悪いとかで。何も言わずにただ沈黙し続けて炎上回避したレアケースも最近炎上案件であるが。それも彼氏バレだったが、浮気していて、しかもファンを馬鹿にしてた文章が流失したんだよな。浮気された相手が元超有名生主だったから話題になったんだけど、あれってよく赦されたよな。もしも浮気されたのが有名人だったら、もっと炎上していたかも知れないけどな。
「憶測で彼氏いるんじゃないかって話題になったけど、結局認めなかったやつね。まあ、あれから普通に動画出してるからみんなどうでもいいってなったみたいだけど」
「炎上しても何とかなるから動画のクリエイターは強いよな。テレビタレントと違って」
「テレビはバッシングがあるし、何よりスポンサーの力が強いのよねぇ。周りがどれだけ庇ってもスポンサーの一言でテレビ出演できるかどうかって変わるんじゃないの? 正直、テレビについては詳しくないけどね」
若い人達にとってテレビは化石。
時代は動画。
という風になっているだろうけど、おっさんおばさん達の中ではまだまだテレビ現役だろう。俺だってたまにはテレビ観る時だってある。ロードショーの時ぐらいだけど。だからテレビの芸能人の方が影響力はまだまだ強いだろうし、歴史が長いから決まりだって重いのだろう。
動画制作に関しては利用規約がどんどん作られているが、テレビに比べればまだまだ緩い方だ。
それにしがらみだって少ない。
動画の中で露骨に演者が案件したりとか、CM流している人達だっているが、それ以外の中堅、底辺の人達の中にはスポンサーがついていない人だっているだろう。その人たちが問題を起こしたところで、たかが知れている。まだやれる。
実際テレビで問題を起こした人、それから干された人は今動画でバンバン活躍したりしている。炎上しても、逆にそれで登録者数が増えてしぶとくやっている人だっている。アンチコメを絶対書かれている人でも、それでもめげずに動画を上げている人だっている。続けようと思えば、もしかしたら一生動画を上げることができるのかも知れない。
動画そのものが過激じゃなければ、どんな人間だって動画投稿できる場所ができたのは昔のことを考えたら考えられなかったよな。仮にあったとしてもそれだけじゃ生活できなかったらみんなやらなかったけど、今は生活できてしまうから参入者が後を絶たないんだろうな。
「投稿者のメンタルさえ壊れなければ、動画はいくらでも出せるってことよね。――はい」
「何これ?」
スマホを渡される。
指紋認証も終わって画面が開けられている。
色々アプリ入れてんな。
動画編集アプリっぽいのもある。
というか、やっぱり俺が全然知らないアプリいっぱいあるな。
動画関連のやつだろうな。
「スマホで撮って。とりあえずこの山になっている100円均一の商品をみんなに見せなきゃ」
「だったらまずはスムーズに動画撮れるようにある程度ジャンル分けした方がいいんじゃないの? これジャンル訳できていないだろ」
「…………」
「え? 何か変なこと言った?」
川畑が固まっている。
素人目線でゴチャゴチャ言っちゃったか?
あんまり気遣うことができないタイプだからな、俺。
先生にもすんごい言いたくなる時は言いたくなっちゃうからな。
年齢とか上下関係とか、プロアマチュアの差飛び越えちゃうから。
たまに敬語も忘れちゃうからな。
「なんで段取りのこと知っているの?」
「知らないけど、そういう流れでいくのかなって思っただけだよ。さっき、高校生向けやら主婦向けとか言ってなかったか? だったら分けて紹介した方が視聴者的には分かりやすいだろ。動画が長くなるんだったら前編後編で分けるっていうのもするだろうし」
当たり前のことを言ったつもりだったが、川畑はそうではなかったようだ。
スッ、と眼が据わる。
「…………ねえ。本気で私のこと手伝わない?」
「やだ」
怒ってるのか?
冗談を言っているようには聞こえない。
「前から思ってたけど、頭の回転やっぱり速いわよね。スマホ持ってもらうだけでもかなりありがたいし、動画の助言をもらったらもっとクオリティ高いものになりそうなんだけどな」
「お世辞はいらないって。悪いけど、俺は手伝う気はさらさらないね」
「……そう。気が変わったらいつでも言ってね」
それから俺は、川畑のために動画撮影を手伝った。
ちょいちょいカメラ撮影のダメだしを喰らって、苛々した。
やっぱりこいつを観た瞬間、ダッシュで逃げれば良かったと後悔した。
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