第33話 現役女子高生YouTuber川畑明日菜には友達がいない(9)
「収納系動画って、そんなの再生数稼げるものか?」
収納系動画っていうのは、お部屋を整理整頓しましたとかいう動画だろう。
物を収納できるものを購入してそこに、部屋の物をどんどん入れていく。
実写系動画配信者の中でも、女性が好んで動画を上げているイメージのジャンル。個人的にはあんまり興味がないジャンルだな。自分で部屋を整理整頓しようにも、自分の金を使う訳じゃない。
親が何かしら買ってきたもので整理するぐらい。
自分でやるのは埃やゴミの掃除。
それから買った漫画や雑誌の整理をするぐらいなもの。
積極的に収納系の動画を観るタイミングがないため、そこまで詳しくない。
「稼げると思うわよ。既に先駆者はいるわけだし。テレビでも百円均一で整理する番組だってあるもの」
「あー、あるな」
今年か去年ぐらいから始まった朝のテレビ番組で、確かにやっていたかもしれない。整理整頓のプロが、芸人や応募者のお部屋に訪問して散らかっている部屋を綺麗にしていく番組。一通り綺麗にしたら、整理する前と後――ビフォーアフターを見せるといった番組構成。そういう番組っていうのは、何年も前からたくさんある。
でも、俺が好きなのは大掛かりなものだ。
こう、演者の人がチェンソーを持ち出して木の板を切断したり、釘を売ったりするやつ。ホームセンターから安いものを購入して一から作るような、そう、DIYみたいな、お父さんの日曜大工のすっごいバージョンみたいな奴が好きだ。
エコバックの中を観るに、それに比べたら小規模な収納系動画のようだ。
「動画関係なしに100円均一に結構行くんだけど、本当にねぇ。新商品が増えて増えて、日々増えまくっているから動画撮りたくなって仕方がなくなってきたのよねえ。みんなに紹介したくてたまらなくなったのよ」
「へえ」
そんなに100円均一行くのか。
全く理解できないな。
そもそもそこまで足を運ぶことはないかも知れない。
俺の中での100円均一って器用貧乏っていう感じなんだよな。
何でもあるけど、専門のお店には敵わない。
今、買い物するってなったら、シャーペン、消しゴムなどの文房具、あと、服や靴とか、漫画の単行本、雑誌、それから昼飯の弁当やらカップラーメンとかが主だが、それらを買うためにわざわざ100円均一には行かない。
専門のお店に行った方が絶対に良いものがある。
だから行く機会がない。
というか、ダサい。
母親世代が行くイメージが大きい。
実際100円均一に行ってみると、同世代の男性というものはいない。
同世代の人間がいたとしても、それは女性が多い気がする。
だから行かない場所ということもあるが、行きづらい場所でもある。
「やっぱり不況っていう時代もあるし、お家時間が増えているから家を何とかしたいっていうニーズに応えるような動画がバズりやすいんだと思うのよね」
「だから、収納系動画を撮ろうと思ったって訳か」
不況になればなるほど、100円均一の需要は高まる。
最近、驚いたのは今までキャッシュレスを行っていなかった近くの店舗で、クレジットカードが使えるようになったのを目撃した時だ。
今まで見なかった光景に驚いた。
クレジットカードは手数料としてお店側がお金を支払う。だから、利益率があまり見込めない安い商品ばかり扱っている100円均一がクレジットカード決済を導入する時が来るとは思わなかった。
それだけ儲けているか、それかキャッシュレス化を導入しないとお客が来なくて潰れそうなのかどっちかだ。勿論、前者なのだろうが。
「爆買いとか、爆食とか、そういう動画も人気だから、まず最初にこの大袋を見せるつもりだけどね」
「ああ、そういう動画も人気だしな」
心理学で代償行動という言葉がある。
実現不可能なことができない欲求を満たすために、別の行動をしてその欲求を満たすという行為のことだ。ストレス解消に、過食症になったり、衝動買いをするのが人間だと言われている。俺だって、たまには大食いになったり、いらないものを買ったりする。
だが、そう簡単にはできない。
動画でそれをやっている人間を観ていると、なんか面白い。満たされる気がする。と、そういうことになるのだろうか。ソシャゲのガチャ動画で爆死してなんか安堵するのに似ている気がする。
「流石。やっぱり色々考えているんだな」
普通、収納動画を撮るなら収納動画だけにしか頭が回らない。
だけどお、そこで爆買い動画の要素も入れながら、動画の再生数を稼ぐために動画構成までしっかり考えている。この企画力、まじで高校生とは思えないな。
「へえ」
「なんだよ」
「意外。ちゃんと褒めてくれるんだ」
「褒めるよ、ちゃんと。いいと思ったら」
女性は褒めた方がいいってのは知っている。
髪切ったね。
そのアクセサリー可愛いね。いつ買ったの?
そのネイル綺麗とか。
そんな糞どうでもいいお世辞は俺には言えない。
というか、言ったら逆に相手がキレる可能性がある。
ちゃんと分かってるの?
理解できてない癖にそんなこと言わないでとか。
そういうことを言われるから褒めないのだ。
俺だってお世辞の一つや二つ言える時だってあるというのに。
いきなり逆切れするから、誉め言葉は言わないようにしている。
なるべくな。
ありがとうと一緒で、あまり言い過ぎると言葉が軽くなるからな。
それでも自分が理解できる凄さに関しては男女関係なく褒め言葉は素直に出ることだってあるのだ。
失礼な奴だ。
割とこういう指摘を近しい人みんなにされるな。
「あと人類皆オタクになってるからか、オタク向けグッズっていうのが100円均一で増えてるから、それも動画で紹介しようと思って」
「オタクが一般化して、わざわざオタクって言葉も使わなくなったよな。テレビつけたら声優さんが普通に出てるのも異常な光景だよな」
数十年前は、オタクは犯罪者予備軍だった。
この漫画やアニメのせいで犯罪をしましたと、テレビでいつも報道された。
今でもそういった偏向報道っていうものはあるが、昔に比べたら格段に減った。
みんな、アニメ観るようになったからな。
一般的で大衆向けアニメが地上波に流れることは昔からあったが、バリバリオタク向けの深夜アニメがゴールデンタイムに垂れ流された時、恐怖を覚えたな。世間の手のひら返しの早さに。
それに声優最近テレビで出すぎ問題。
毎日、声優がテレビに出演している気がする。
大ベテランで元々テレビに露出していた人や、子役上がりで芸能人みたいな声優の人ばかりで、もっとコアな声優出して欲しいけど、いずれ出そうだ。
他にもvtuberや元生主やらが、結構な頻度でテレビ出てるから昔のオタク撲滅運動を知っている身からすると気が狂いそうになる。
売れている音楽のPVがアニメになっていることもしばしばだし、それを歌っている人や音楽作成している人も結構元生主だったりする。
一番驚いたのは、元エロゲの脚本家だったり、元エロゲの監督が作ったアニメをみんな面白い、面白いとありたがって観ていて、大丈夫かな? これ? 真実が世間に公表された時に叩かれないか心配だったが、そうならずに済んでよかった。
正月に日本で一番有名な音楽番組が流される時に、エロゲの曲が流れた時は流石に耳を疑った。音楽番組の制作の人はちゃんと調べて、この歌を公共放送に流したんだろうか。間違っているのは俺じゃない、世界の方だとその時は思ってしまったな。
と、まあ。
そんな風にどんどんオタクが現実に浸食していってるのは肌で感じているが、どんなオタクグッズが100円均一にあるのか知らない。
んー。
なんか気になってきたな。
こんなにも推されるとどんな物があるのか気になってきた。
エコバックの中身をしっかり見たいけど、歩きながらだとちょっと難しい。
立ち止まって見るっていうのも、またやり過ぎ感がある。
今度100円均一行ってみるかな。
「ありがとう。荷物運び、ここまででいいわよ」
「あ、ああ。……ああ?」
話に集中していて周りが見えていなかったが、ここは? かなりどでかいマンションの駐輪場まで来ていた。なんだろう。外装からして高級感が溢れている高層マンション。外部の人間がインターホンを押して、部屋の人間が許可を出さないと入れないやつ。エレベーターがあるだけで羨ましいんだけど。
金持ちが住んでいる場所って感じだ。
「というか、おい。いつ持つんだ」
「ごめん。両手塞がってるから、もう少しだけ運んで」
と川畑に言われ、渋々一緒にエレベーターに乗り込む。
そして、沈黙。
うーん。
エレベーターって苦手なんだよな。
なんか静かだし、ちょっと時間かかるし。
何もやっていない、何も喋らないっていうこの時間。
なんか空間が狭いし。
とりあえず、どうでもいいこと話そう。
「そういえば、自転車ってパンクしたのか?」
「なんで? していないけど」
「だって、わざわざ押してただろ?」
「ああ、あれはペダル漕いでたら自転車が左右に揺ら揺らなって危なかったから、押してただけ。私が事故したら世間に一気に広まるでしょ? だから事件になるようなことは、私はできないの。少し前に、外で飲酒しているだけで炎上した人だって配信者にはいるから、とにかく不祥事は避けないと」
「発想が芸能人だな……」
そこまで考えないといけないのって、本当に職業病だよな。
クリエイティブな仕事って、日々ネタ集めないといけないから頭をフルに回転させないといけない。
だから、休みというものが存在しないんだろうな。
だからどれだけ稼いでいる人がいたとしても、時給換算したらめっちゃ低いってどこかの配信者が言っていたような記憶がある。
本当、倒れないか心配になるな。
「はい、ありがとう。今度こそここまででいいわよ」
「あー、はいはい」
ようやく終わった。
とりあえず、俺の家と方向が合ってたし、俺の家からここまでそこまで遠くないみたいだから良かった。これで反対方向まで荷物を運ばされていたら、面倒なんてものじゃなかった。
さっさと帰って宿題しないとな。
最近、ぼっちである時間が減ったせいで、勉強に支障を来たしそうになっている。ちゃんと予習復習もしとかないとな。
「…………」
なんだろう。
川畑がずっとこっちを黙って観てるんだけど。
さっさと家の中に入ればいいのに。
「何?」
「そういえばー。今家に誰もいないんだよねー」
「ああ、知ってる」
「そ、そうじゃなくてさー。だからさー、分かるでしょ?」
「?」
この前、川畑自身が一人暮らししているって言ってなかったか?
だから今家に一人なのは普通のことだ。
そのぐらい分かる。
「だ、か、ら。今、家に誰もいないけど、私の部屋まで来ない?」
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