第17話 転校生の井坂幸は何も知らない(17)
「次はどこへ行くんですか?」
「流石に帰るけど。駅?」
「はい」
よし、言質とった。
「俺はバスで帰るから、ここらでお別れだな」
「そうですね」
まっ、嘘だけどな。
ようやく一人になれる。
タピオカを飲んでから帰ってやる。
最後くらいは一人になりたい。
こんなに他人と長時間一緒にいるなんて久しぶりだ。
話過ぎて顎が痛い。
家族とすらそんなに話さない。
もう、疲れた。
はあ、とため息をつくと、何やら前の道が塞がっている。
「なんか、人混みが凄いですね」
「確かにうるさいな」
集まるなら集まるで、もっと広いところで集まって欲しい。
一人の人間に、たくさんの人間が取り囲むようにして集まっている。
サインを強請っている声もある。
どうやら有名人のようだ。
人だかりを迂回して移動する。
えらい人気だな。
「芸能人ですかね」
「いや、あれ、動画配信者だな」
カメラが回っている。
カメラといってもちゃんとしかカメラじゃなくて、スマホだ。
人気者の傍にいて、同じシャツを着ている人間一人だけスマホで取っている。
あれが芸能人なら、ちゃんとしたゴツいカメラを構えている人間が三人以上はいるはずだ。
SPみたいに人だかりの対処する人間すらいないってことは、動画配信者だろうな。
見覚えあるし。
あのシャツは、通販であの人たちが売っているものだ。
動画で写すことによって購買意欲を煽っているらしいな。
あまりやり過ぎると逆効果になるかもしれないが、最近発売したのかな?
それの宣伝も兼ねているかもしれない何かの企画かな、これは。
「知っているんですか?」
「まあ、そこまで動画観たことないけど、一つ、二つぐらいは観たかな。特に特徴のない動画だった気がするけど」
ぶっちゃけ、動画配信者なんてみんな似たり寄ったりだからな。
ラノベが、どれもこれも異世界だったり、追放されてざまあ系だったりするのと同じく、動画配信者も変わり映えがしない。
だから、観ていても誰が誰だったか、内容が何だったか定かじゃない。
何かしらの個性がないと記憶できないんだよなあ。
「最近、凄いですよね」
すごいっていうのは、配信者の勢いのことだろうな。
「ああ。今の時代、テレビよりも動画だからな。お笑い芸人とか散々番組で批判してたくせに、今更配信者として参入する奴もいて不愉快だけどな」
「でも、やっぱりテレビの方が今は上だと思いますけど。テレビに動画配信者でないですし」
「そうか?」
俺は動画が圧倒的に上だと思っている。
しかも、まだまだ広がりをみせるはずだ。
芸能人のほとんどが、動画配信者デビューするはずだと俺は睨んでいる。
そこまでいってようやく飽和状態になって、ブームが落ち着くはずだ。
だから、動画はまだまだ上昇傾向にあると思う。
「まあ、それは費用対効果が見込めないからだ。テレビ番組っていうのは、綿密な企画を練り上げ、演者を集め、そして一日かけて収録をする。どれだけ早くとも一時間番組が一週間に一回しか放映しないのは、それだけ時間がかかるからだ」
放送枠が決まっているせいで、放映回数の数が限られているっていうのもあると思う。
動画ならいくらでも、どんな時間でも戦略的に上げることができる。
テレビは自由度があまりにも低い。
だから、放映回数は絶対的に少なくなってしまう。
「だけど、動画は一日一本上げられる。そう考えたら、どう考えてもテレビに出るよりかは、動画配信しているだけの方が儲かる。ゲームするだけとか、ご飯を作っている動画をしているだけで、数十万以上貰える人間だっているんだから、どっちが楽かは明白だ。だからテレビに出る必要すらないんだよ」
テレビじゃ絶対に受けないような、日常的な動画を上げるだけでお金を稼げる。
一日密着のテレビを流しているようなものだ。
映画で、一人の男の一生をテレビとして流すという内容の有名作品があるけれど、まさに現実世界にそれが起こっているようなもの。
それに、自分の好きな人間がスポットライトを浴びていない時に、どんなことをするのか興味がない人間なんていない。
ファンなら、むしろ裏方側の方を知りたいという心情が働くから、この世からゴシップ記事のようなものはなくならないのだ。
お金を出してわざわざ会員になって、マネージャーが書いているかどうかも分からないメルマガを受け取ったり、ブログを閲覧したりするのだ。
放映枠のあるテレビで細々とした裏側なんて出せるはずがない。
だけど、動画だったらそれができる。
ファンが一番望んでいる裏側の世界をみせてくれる。
演者とファンの距離感を一気に縮めてくれる。
それが動画の強みであり、今のこの現状何だと思う。
「へえ。詳しいですね。動画配信者になりたいんですか?」
あー。
ちょっと詳しいと、なってみませんかってみんな言うよな。
ただのネタ振りであんまり考えていないんだろうけど、ちょっと苛つく。
まあ、ほんとにあんまり考えてないんだろうな。
転校生って、いっつもポカンとしているイメージだし。
「詳しくないって。情報なんてネットサーフィンすればいくらでも手に入るんだから。それに、今更動画配信者になっても無理無理。今から儲けられるのは、古参の配信者か、知名度のある芸能人か、何かしらの組織に所属している人間だけ。ほとんどは儲けられない。もう何年か前だったらまだ可能性はあったけど、今は土壌ができあがっているからな。新規で参入して集客できるような時代はとっくの昔に終わったんだ」
素人がちょっとしたノリで動画を出して、それがバズって、一躍有名配信者の仲間入りみたいなサクセスストーリーは、もう生まれるような時代じゃない。
手探りの時代から、完成されつつある世界になってしまった。
ヴァーチャルな姿を借りたアバターを使った団体がスパチャ月で一億超えっちゃったニュースは誰もが知っていると思うけど、それは後ろ盾があるからだ。
ヴァーチャルのアバターを素人が使っているのを観たことあるけど完成度がまるで低い。
その低クオリティならやらない方がまし。
実写でやった方がいいと思ったな。
とにかく、素人が中途半端な覚悟で動画投稿して成功するような時代ではもうない。
一つの巨大コンテンツとしてできあがってしまっているからだ。
「どうしてそういう時代になったんですかね?」
「今では動画配信者の人数が多すぎるから、視聴回数がどうしても分散される。トップクラスの動画配信者の真似をしたって、劣化コピーしかならないのに意味ないからな」
「劣化コピーじゃなきゃいいじゃないですか」
「劣化コピーになるんだよ。どうしても。動画だけ観ていたら一人しか映らないけど、マネージャーがいたり、動画を編集する人間、カメラマン、照明とか、たくさんの人間が関わっている。それら全員を集めて動画を作って初めて再生数が稼げる。動画に撮られる人間だって、それなりのルックスは求められるし、コメントだって人より優れていなきゃ誰も観てくれない。試しに再生数二桁以下の動画観てみればいい。無言多かったり、喋っていても、コメントくそつまんないからな」
「そういうのも観るんですね?」
「有名どころを観ても、みんな同じことしているからつまらなくなってくるんだよね。偶然だけじゃなくて、ちゃんと計算しているからこそ、全部同じに見えてくる。学校に講演会を開く人の話とか、そういった成功体験の本とか読むんだけど――」
「え? そんなのも読むんですか?」
「読む読む。小説以外も経営学の話とか、料理のレシピ本とか手当たり次第に読むけどね。やっぱり、みんな同じことしか言わない。そこから学び取れることって多いんだけど、それを俺は生かしきれないんだよね。だって、そこまでの能力ないから」
「そこまで達観しているんですね」
「高校生ぐらいになってきたら、段々分かってくるだろ。自分ってああ、このぐらいの能力しかないんだって。まあ、ちょっとは夢見たことあったよ。動画配信者になれば楽に稼げるのかなって。でも、動画の編集能力もないし、トーク力もないし、ゲーム実況するためのゲームの実力もそんなにない。そもそも動画で話す話題もない。俺はどこにでもいる普通の男子高校生なんだって。でも、俺でも学べることってあるとしたら、それは成功者の似たり寄ったりのナンバーワンの方じゃなくて、底辺も底辺。ライブしたら一桁台の人間しか視聴しに来ないような、下手したら、再生回数0みたいな人のオンリーワンの方の方じゃないかなって」
講演会では、成功談よりも失敗談を聴きたい。
もちろん講演会の人もその需要はしっかり分かっていて、大体昔は失敗したんだよって失敗談を挟む人が多いけど、もっと割合を大きくして欲しいんだよな。
「ボソボソ声小さかったり、ちゃんと字幕つけていない。リアクションがわざとらしい。笑うタイミングが違う。そもそもゲーム実況の癖に全然喋らないみたいだったりとか、もう、とにかく色々バズらない理由が見えてくるからね。もう、絶対に底辺の人の動画観た方が、バズれる理由は知れるんじゃないかな」
人の好みは全然違う。
だから伸びている動画だけを観ても、全然伸びている理由は分からない。
むしろ、なんでこれが伸びているの? と思ってしまう動画だってたくさんある。
だから老若男女問わず伸びない動画を観るのが、ヒントになる。
そもそもサムネが悪い奴が大半だったりするけど。
あと、最初の五分間で見どころがないと、そのままブラウザバックしてしまうことがあるから、とにかく最初の段階でダメなのが多いかもな。
「オリジナリティのある動画じゃないと伸びないんですか?」
「独自路線を開拓するのが一番なんだけど、難しいよね。トップの人間ほど、周りの真似しかしてなかったりするからな。とにかく無難な動画を出して、無難に再生数を稼いでいる。冒険はしない。変に路線変更しない。手堅いんだよ、動画配信者って。一見すると成金っぽくて、適当に動画撮っているように見えるけど、かなり計算高い。あまりの計算高さに、引くぐらいに」
テレビと違って動画だと、何でもネタにする。
企画作りの裏側を見せる。
だからこそ、どれだけ大変かが分かる。
動画を出すことで身体を酷使し、病院に行ったことさえもネタにするけど、あれはどうなんだろうな。
ネタがないからそこまで動画にするんだろうけど、観ていて痛々しい。
配信するためにどれだけ計算しているかを赤裸々に語る人だっているから、テレビにように煌びやかなイメージはない。
テレビと違って汚い部分もたくさん見せるから、芸能界を半分引退したような人でも配信者として活躍できるんだろうな。
「独自路線は難しいだろうけど、逆に今は独自路線を開拓していかないと新規参入は難しい。博打だね。動画は」
論理は矛盾しているけど、そう言うしかない。
それだけ新規参入は厳しいってことなんだよな。
「キャンプ動画とか一時期流行ったけど、ちょっと専門的な奴の方が流行る可能性はあるよね。例えば、家が一軒建つまでの経過を早送りで流して20分くらいに収めたやつだけでも再生数が伸びるかもしれない」
「それ、面白いですか?」
「面白くはないけど、みんな観たことのないものが観たいからね。再生数さえ稼いじゃえば、価値が後からついてくるから、みんな認めるんじゃない? 職業の裏側とかもいいよ。コンビニが朝から夜まで何やっているかの動画流すだけでも全然バズると思うけどね。コンビニってこんなにやることあるんだって、知らない人たくさんいると思うから」
コンビニや他の仕事も、今はマニュアル本っていうのがある。
新人バイトはそれを読み込むことから仕事を始めることが多いはずだ。
いきなり売り場に出して仕事をさせるよりも、マニュアル本を読み込ませた方がいいからな。
それの紹介をするだけでもいい気がするけど、機密事項なのかな、そういうのは。
でも、そういう秘密の専門的なやつって、結構刺さる気がするんだよな。
誰もが知っているような奴より、誰もができることよりも、そういうちょっと秘密の奴の方が動画再生数は伸びるはずだ。
「手っ取り早いのは、高校生のスターテスを生かしたりとかかな」
誰にも持っていない武器って、もう『若さ』しかないもんな。
動画タイトルに高校生が動画上げてみた、で釣られないかな?
小学生で配信者になっている人もいるから、それだけだとインパクトに欠けるかな?
それに、男子高校生よりも、女子高生という肩書きの方が釣れるだろうな。
動画タイトルに『元女子高生』とか『元JK』とか乗っているのでバズっている動画をたまに見かけるけど、あれは何なんだろうな。
最早女子高生でも何でもない、何の肩書きもない一般人のような気がするんだけど、それでもバズるのが『肩書き』の凄さだよな。
「動画配信者って成人済みの人間ばっかりだからな。もちろん子どもで視聴回数稼いでいる奴もいるけど、まだまだ少ない。そこに活路があるかもな」
「子どもには動画を上げる技術がないからですよね」
「スマホだけで投稿できるし、アプリで動画編集をするやつもある。今の時代、スマホ一大で動画投稿できる時代なんだ。そこまで凝った動画を目指すんじゃないなら、十分可能性はあるんじゃないのかな」
百万人を超えるチャンネル登録者であっても、スマホ一台で動画投稿する人間もいるからな。
そう考えると、とんでもない時代になったと感じる。
まさか広告収入だけでそこまで儲かるなんてな。
「最近で新しく動画を上げ始めた人で、一気に伸びた人いないんですか?」
「……いるな。最近話題になっている動画は、ピアノを弾く動画だな」
「ピアノ、ですか? なるほど。普通の動画なら一人一回ぐらいしか観られない。だけど、音楽の動画だったら一人が何回でも再生する! だから再生数が伸びるっていうわけですね!」
「それもあるけど。バズッた原因はコスプレなんだ」
「コスプレ? なんでコスプレ? ピアノと関係あります?」
「コスプレイヤーが人気だからな。いわゆるモグラ女子よりも今はコスプレイヤーの方が人気あるんじゃないかな。漫画雑誌、最近コスプレイヤーばっかりだし」
モデルとグラビアの二足の草鞋を履くから、モグラ、モグラ女子と言うらしいが、最近めっきり目にしなくなったな。
もう、コスプレイヤーばっか。
コスプレイヤーの新規参入も昔に比べて少なくなってきたから、コスプレイヤーも動画界隈と同じでトップが決まってきたのかな。
まあ、例の動画が伸びたのは、コスプレしているからというより、胸元がはだけた服を着ているからだと思うけど。
サムネバキュームにも程があるのだが、胸元を強調するようなサムネをしている。
そのサムネにしただけで、動画再生数が驚くほど変化した。
ただし、残念なことがある。
動画だとサムネほど胸が強調されることはない。
当たり前だ。
ピアノを伴奏する動画なのだから。
自然と体が横向きになってしまう。
正面からのカメラワークをもっと増やしてほしい。
もっと露骨に見せたほうが視聴回数上がるのだから、そこが残念だ。
まあ、俺は全然そういうことに興味ないけど。
あくまで動画再生数が伸びることを分析した結果……もったいないんじゃないのかな? って結果が出ただけだから。
そこに個人的意見は含まれていないから。
「へえ。コスプレするだけで再生回数稼げるんですね」
なんか、心なしか転校生の声のトーンが低くなっている気がするけど、どうしてかな?
「コスプレだけじゃなくて、その配信者の対応がいいのが一番の人気要因かもね。ノリがいいんだよ」
「ノリって、演奏している時のパフォーマンスが凄いってことですか?」
「そうじゃなくて、コメントのノリ。視聴する人間がコスプレ服の指摘ばっかりしているんだけどさ。普通、演奏する動画なんだから、そこに触れない人って不愉快に感じるだけど、それを無視せずに、配信者が『お気に入り』するものだから、それが楽しいんだろうな。うん。新しいよ」
「そんなものなんですね」
あんまりパッとしないみたいだな。
「ちょっと待っててな」
スマホを取り出す。
歩きスマホは危険だから、電柱の陰に隠れて立ち止まる。
実際に、動画のコメント欄を見せた方が早い。
「こういう感じだよ」
「うわあ」
コメント欄を見せてやったら滅茶苦茶引かれた。
やっぱり、女子から見たら嫌悪感が先に出ちゃうのか。
俺的には滅茶苦茶面白いんだけどな。
「反応してもらえるから、動画のコメントを打ち込む人だってどんどん書くようになって、凝ったコメントをするようになった。縦読みとか、一見すると分からない謎々みたいなコメントをな」
正直、動画よりもコメント欄の方が、視聴する時にメインになっているからな、俺的には。
だって、コメント欄の方が面白いんだもんな。
動画よりも先に、コメントを閲覧している。
十分満足したら、ついでに動画を観ているって感じだ。
流石に、下ネタ前回のコメントはできないから観ているだけだけど、それでも楽しい。
「その場のコミュニティにしか分からないノリだよな。でも、それがウケた。SNSだって最近バズってばかりの人がいるんだけどさ。その、女優のアカウントがあるんだよね」
「女優さんの……」
この反応だと、セクシー系の女優であることは伏せた方がいいだろうな。
そもそも、セクシー系の女優がSNSのトレンドに乗るのが凄いよな。
そこはフィルターかけていると思ったけど、案外セーフなんだな。
「その人、大喜利芸人なんて言われてるんだよね」
「本当に芸人さんっていう訳じゃないんですよね?」
「違う違う。ただ、ズレたリプが飛んでて来たからそれが面白おかしくて、大喜利を出題する芸人みたいになって。さらにはその女優さんがそれをギャグで返すっていう流れができてきて、もう、笑点みたいになったんだよね」
「そんなのあるんですね! 知らなかったです!」
まあ、SNSに疎かったら知らないのかな。
トレンド入りも果たしたから、みんな知っているもんだと思ったけど。
「連帯感が楽しんだろうな。かつて地下アイドルが音楽業界を席捲していたのは、ファンとの繋がりがあったから。自分たちのお陰でアイドルたちがメジャーになるっていう楽しみがあったから。ただ観ているだけじゃなくて、自分達も参加している。その一体感があったからウケたんだ。地下アイドルでやっていたのを、今は動画でやっているんだよな」
憧れだったアイドルから、地下アイドルが流行った。
地下アイドルは、身近な存在として一世を風靡した。
距離感が近ければ近いほど価値がある。
それはアイドルも動画配信者でも同じことで。
昔と比べたらかなり価値観は変わったものだ。
距離が遠ければ遠いほど、アイドルは価値があった。
崇拝できていた。
でも、SNSで炎上しただけで、アイドルの地位は地に落ちることだってある。
何の力もないニートでさえ、言葉の粗探しをして炎上させることができれば、芸能界に君臨する人間でさえも引退させることができるようになった。
それは、ネットと現実との境目が無くなっていっているからだろう。
それでも、人と人との人間関係の面倒くささは変わらない。
「昔は……俺らが生まれるより前は、友達は作らなきゃいけなかったんだよなあ」
「? どういう意味ですか?」
「ネットがなかったからテレビを観るしかなかった。テレビの中の遠い存在を遠くから見て憧れて、そして憧れている存在を、学校へ行って話し合う。……それしかなかった。学校というコミュニティで弾かれたら、居づらくなる。居場所がなくなったら引きこもりや、転校しなきゃいけなくなるかもしれない。だから、嫌々でも友達を作らなきゃいけなかった。でも、時代は変わった」
その時代に生きていたら、俺はもしかしたらぼっちでいられなかったかもしれない。
あまりにも暇すぎて、無理やりにでも友達を作っていたかもしれない。
そう考えると今の時代に生まれてきて良かった。
「ネットでいくらでもコミュニティを新しく作れることができるようになった。だから学校で居場所がなくなっても気が楽になった。テレビだけじゃなくてネットの娯楽がたくさんあるせいで、みんな同じ会話ができなくなった」
今はネットで漫画や小説や動画が無料で観られる時代。
テレビが娯楽の王様だった時代はとっくに終わった。
同じ趣味で同じ会話をすることはしづらい時代になった。
ということは、色んな趣味が認められるようにならないといけない。
そうならなくちゃおかしい。
でも。
それでも。
差別やヒエラルキーはなくならない。
それは高校に通っている俺達が良く分かっている。
でも、そんなのいくらでも覆せる。
「さっきも言ったけど……昔は散々動画を出す奴は素人とか馬鹿にされたけど、今では所謂プロと呼ばれる人達が動画投稿者になっている。そんな風に他人の評価なんて一気に変わるんだ。だから、転校生。お前もどっしり構えてればいい。今、お前のことを空気扱いする奴らは、どいつもこいつも手のひら返しするんだから」
「そうです、かね」
元気ないな。
やっぱり不安で仕方ないんだろうな。
「安心しろ。お前だけには絶対に友達を作らせてやるから」
「……はい」
ちゃんと元気づけてやりたかったが、別れるその時まで転校生はずっと複雑な顔をしていた。
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