第8話 転校生の井坂幸は何も知らない(8)
友達を作る方法については一通り説明しておいた。
後は、できるかどうか。
実践あるのみだ。
俺が架け橋となって、友達作りを直接手伝えたらなあ。
そしたらテレビの司会役みたいに、話題を自然に転校生に振って、話に混ぜることができるかもしれないのに。
だが、転校生は女で、俺は男。
性別の間には大きな壁がある。
俺が混じって話をするのは不可能だろうな。
例え、クラスで最もカッコイイ奴だろうが、女子の手段に単独で挑むのは自殺行為に等しい。
俺ができるのは、転校生がちゃんと話せるかどうか。
それを遠くで見守ることしかできない。
それがもどかしい。
上手くいってほしい。
俺の安寧のため。
幸せなボッチライフのためにな!
「あのー、次の授業ってどこでやるの?」
転校生が俺の台本通りのセリフを言った。
よし。
声が上ずっているけど、噛まずに言えたのは偉い。
声をかけたのはボス猿。
いつも通り子分のように、三人ほど女子を引き連れている。
一人きりの時に声をかけるのがいいけど、常に誰かしらといるからな。
第三者がいる中、話しかける勇気は大したものだ。
「あー、生物室だけど」
「ごめん。ちょっと場所が分からないから一緒に行っていい?」
「まあ、いいけど……」
ボス猿は少しばかり顔を合わせて、返答する。
了解を得るというより、いいよね、と命令するような目つきだったけどばっちり成功した。
よし、よし。
ボス猿だって、転校生がどんな奴か知りたいはず。
生意気な態度を取っていれば突き放すだろうが、まだ知らない、そして自分から声をかけてきた。
そうなれば、機嫌を損ねないはず。
完璧だ。
転校生だからこそ。
無知だからこそ。
こういう話かけ方ができる。
話下手だったとしても、ファーストコンタクトは許されるはず。
後は、ボス猿と話すだけだ。
と、思ったけど、そううまくはいかない。
ボス猿は当たり前のように先頭に行く。
両隣にはお付きの者が。
三人で並んでいるせいで、あれじゃ話せない。
後ろから声をかけることもできるが、それじゃあボス猿の歩みを止めることになってしまう。
それじゃあ、今までの全てはご破算だ。
俺に見通しが甘かった。
失敗だ。
転校生もキョドっている。
三人の後ろをついていくしかできない。
だが、余りものはもう一人いる。
他の三人と、もう一人いたのだけれど、廊下の広さ的に独りだけ仲間外れにされているようだった。
もうちょっと詰めればなんとかなるだろうに、一人だけ一列に並んでいる三人組の後ろを歩いている。
あれは、モブ子。
あーあ。
やっぱり意志薄弱なのかな。
自分の意見を上手く言えない気弱な奴は、ああやって弾かれるんだよなあ。
ああいうやつのことを、人は優しいというけど。
人間関係の点だけを見れば、残酷なまでに示している。
仲間外れ、ってことに。
言うなれば、あいつは友達二軍なんだろうな。
決して一軍にはなれない、補欠だ。
その補欠に、転校生は話しかける。
「生物室ってどんなとこ?」
「え? えーと。普通だよ」
「へーそうなんだー」
棒読みになる。
そして、当たり前のように、
「…………」
「…………」
二人は沈黙する。
まあ、こうなるよな。
だって、二人とも積極的に話せるタイプじゃないしな。
他の三人は大盛り上がりだ。
どうでもいいことを、ペチャクチャ大声で喋っている。
あれ、辛いんだよなあ。
同じグループで格差をつけられると。
あんまり話せない内気な二人は遠慮する。
声の大きさを強めていいのかを。
今、あのグループは二極化している。
空気を読めない組と。
空気を読む組と。
あれだけ距離が少なくい中、大きな声を出してしまったら上下にいる組の声が掻き消えてしまう。
だから、普通大きな声を出せない。
周りのことを考えるならば、そんなことすぐに思いつくはず。
友達のことを、本気で友達だと思っていれば、そんなことできないはず。
だが、空気を読まずにボス猿達はワイワイ話している。
ボス猿を気にして大きな声が出せずに話せないモブ子。
そして、土壇場になって俺が予定した台本が頭から吹っ飛んでいる転校生。
どっちもアドリブが効くタイプじゃない。
どっちも萎縮してしまっている。
過剰に気遣いしているせいで、全然話せていない。
一人でもフォローできる人間か、リーダー格の人間がしっかりしていればあんな気まずい思いさせないだろうに。
チラリ、と転校生が助けを求めるようにこちらを振りかえってくる。
「あほか。こっち見るな」
シッ、シッ、と蠅を追い払うように手を振る。
寂しそうに、とぼとぼ歩いていく。
ちっ。
しょうがないな。
気まずい思いをするのは、生物室に行くまでの廊下の間だけだ。
俺が何とかしてやる。
今回は、ボス猿の取り巻き連中のことも計算に入れていなかった俺の責任でもあるからな。
こうなったら作戦会議だ。
もっと綿密な作戦を練るために。
昼休み時間を使ってな。
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