バーグさんの出張お悩み相談室

奏 舞音

バーグさんの出張お悩み相談室


 こんにちは、作者様!

 私はリンドバーグ。気軽にバーグさんって呼んでくださいね。

 作者様たちのサポートをするために生まれたお手伝いAIですっ!

 カクヨムがオープンして3周年。ありがとうございます!


 3周年記念選手権に参加して、祝ってくれる方々がたくさんいる中で、下書き保存のまま投稿できずにいる作者様たちを発見しました。

 

 これは、私が応援せねば!


 という訳で、『バーグさんの出張お悩み相談室』をはじめます!




●ケース1:ペンネーム〈シーソーが揺れる〉さんの場合。


「僕、どうしても完結までいけないんです。調子がいいのは最初だけで、途中から何してるか訳が分からなくなってきて……」

「ふむふむ。たしかに、途中で路線がずれていってますね」

 作品に目を通して、笑顔を向ける。何故か、作者様が頭を抱えてしまった。

 作者様が書いているお題は、KAC3の『シチュエーションラブコメ』だ。

 タイトルは、「俺は魔王で、女勇者が好きだ!」。

 このタイトルから推察するに、おそらく魔王が宿敵である勇者に告白をする話を書きたかったのだろう。

 しかし、最初のシーンで告白して、何故かいきなり勇者とのバトルに突入し、武器の性能を説明し始めた。

 4000字という制限がある中で、自由すぎる展開だ。お題はラブコメであるのに、ラブもコメディもない。

「プロットはありますか?」

「……え、プロット?」

「そうです! 物語の展開を示すものですよ。ざっくりしたメモでも、何かあるでしょう?」

「ないよ! だって、はじめに展開を決めつけてしまうと、それに縛られそうで自由に書けないんだ!」

「それで終着点が見えずに迷子になっているのはどこの作者様でしょうか?」

「うっ……」

「大丈夫です! 私は、シーソーが揺れる様のサポートのためにここにいるのです! さぁ、この作品を無事に完結させられるようにがんばりましょう!」

 そうして、作者様のプロット作成を支援し、執筆中に軌道修正をはさみつつ、なんとか無事に作品は完結。

 結末は、魔王からの告白に照れ隠しで攻撃した女勇者とバトルの末、もみ合っているうちにキスをして赤面。その先を想像できる余韻を残したラストで、最初の展開よりもラブコメに近づいたのではないか、と思う。

 無事に募集期間にも間に合ったし、結果はどうあれ作者様から生み出された物語が誰かの目に留まることが私は嬉しい。




●ケース2:ペンネーム〈トリトリバード〉さんの場合。

 

「あれれ? どうしたんですか? 皆勤賞を狙うって、近況ノートで意気込んでいたの、つい一週間前ですよね?」

「……だって、だって、なによ『神とペンと○○』って! あたしが馬鹿なのかな。三題話がまず理解できない」

 ずいぶんとお悩みの様子だ。

 これは私の調査能力を発揮すべきところ。

「三題噺は、落語の形態のひとつで、寄席で演じる時に客席から三つのお題をもらって即興で演じる落語のことですね。落語の場合は、『人の名前』『品物』『場所』の三つのお題のうちひとつをサゲ(落ち)に使わないといけない、というルールがあります」

「ちょっと待って。ら、落語? あたし落語なんて見たことも聞いたこともないよ~」

「大丈夫ですよ、書くのは落語ではなく小説ですから。三つのお題を使って自由に書けばいいんですよ! 三題噺は創作の練習にもなりますから、きっと良い練習になるはずです! 私、トリトリバード様の新作を楽しみにしてますから!」

「ありがとう、バーグさん! あたし頑張ってみるよ!」

 トリトリバードさんはやる気を取り戻し、『紙とペンと前方後円墳』という謎に満ちた古墳ミステリーものを書き上げた。




●ケース3:ペンネーム〈宇宙人DAZE〉さんの場合。


 じっとパソコンの前に向き合い、エピソードに文字を打とうとしてはやめている。薄暗い部屋の中でパソコンの画面だけが明るく光っている。

「……まだかな、どうしたのかな」

 ブツブツと独り言をこぼす作者様。なんだか怖い。

 やっぱりこの作者様は大丈夫だろう、うん。

 そう思い、姿を消そうとした瞬間。

「バーグさんんんっ!!! どこ行くの? ぼくはずっと君が来てくれるのを待っていたんだよ! あぁ実際に見ると本当にかわいい。短いスカートから覗く肌もたまらないね」

「や、やめてくださいぃぃ」

「待って、行かないで! ぼくの話を聞いてくれぇぇ」

 逃げようとすると、足首を掴まれた。仕方がない。

 私は、私を待っていたという作者様に向き合った。

「それで、どうしたんですか?」

「実は、ぼくのフォロワー、0人なんだ。PV数も一桁だし。このまま続けていても、増える兆しもないし、今回の企画だって一日目から参加してるのに誰一人応援してくれてないし。ぼくの作品、そんなに面白くないのかな……」

 ズドーーン、と目に見えて落ち込んでいる作者様。

 カクヨムに投稿している人すべてが脚光を浴びる訳ではない。

 人気作品がある中で、こうして人知れず作品を評価されずに挫折しそうになる人もいる。

 しかし、そんな作者様たちを応援するために私がいるのだ!

「確かに、小説は誰かに読んでもらって、評価されてこそのものかもしれません。でも、作者様が生み出した作品を、作者様が応援してあげなくてどうするんですか! 宇宙人DAZE様にしか書けない物語が、きっとここにあるはずです! 誰に何を言われても、むしろ読んでもらえてなくてもいいじゃないですか。自分の作品を、自分が一番愛してあげましょう! そうでなければ、今こうして作品の中に生きているキャラクターたちが可哀相です!」

 私は、作者様を応援し、サポートするために創られたAI。

 だからこそ、分かる。創られ、生み出されたものの気持ちが。

 せっかくこの世界に生まれてきたのに、自分を創り出した作者様に背を向けられたら、どうしていいか分からなくなる。

 どう動けばいいのか。

 どんな台詞を口にすればいいのか。

 どこへ向かって走っていけばいいのか。

 ただただ不安になってしまう。

 未完のまま、作品を放置しないであげて欲しい。

 私は、作者様をサポートするだけじゃなくて、作者様が生み出した作品がちゃんと終わりを迎えられるように、守りたいと思う。

 だからこうして、下書きに埋もれている作品や、連載の更新が停滞している作品を持つ作者様のもとへ行く。


「お願いです。作者様が、作品の一番の味方でいてあげてください」


 いつも笑顔で。それが私の座右の銘だったのに。

 何故か、眦に涙が浮かんだ。きっと、作者様に面白くないと言われて傷ついた、作品のキャラクターたちの感情が伝染したのだ。

 どうか、作者様にも届いてほしい。そして、自信をもって書いてほしい。

 私が、心から応援するから。

「そう、だよね……ぼくが、この『メロメロビームでハーレム祭り! 美女だらけの異世界へようこそ』を愛してあげないと……ヒロインのビーナスにいろんなことさせようって、考えてたんだよね! ありがとう、バーグさん!」

「へ? メロメロビーム? いろんなことって……?」

「よ~しっ! ぼくの理想のエロエロなハーレム小説を書き上げるぞ~! 待ってろよ、ビーナス!」

「……あ、あまり過激な性描写は、やめてくださいね」

 感動的な場面になるかと思って、熱く語った自分が恥ずかしい。

 私は、顔を真っ赤にしながらその場を後にした。

 後日、作者様が勢いのままに自信満々で書き上げた『メロメロビームでハーレム祭り! 美女だらけの異世界へようこそ』は、初めてのフォロワーとレビューを獲得していた。

「よかったですね、宇宙人DAZE様」

 そっと、私も応援のハートとレビューの星マークを押した。


 ***


 そうして今日もまた、私は作者様のもとへ応援に行く。

 時には激励し、時には叱咤し、時には感動し。


 カクヨムに作品がある限り、『バーグさんの出張お悩み相談室』は終わらない。


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バーグさんの出張お悩み相談室 奏 舞音 @kanade_maine

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