4 二人の時間 あのさ、ずっとさ、君と一緒にいてもいいかな? ……だめかな?

 二人の時間


 あのさ、ずっとさ、君と一緒にいてもいいかな? ……だめかな?


 あざりと偶然、出会ってから、あざりのいる神社で(そこは『東雲(しののめ)神社』というあざりと同じ名前の神社だった)樹はあざりと二人でよく時間を過ごすようになった。

 あざりと一緒に遊んだり、お話をしたり、雨を眺めたり、それから、そこで本を読んだり勉強をしたりした。


「君、よく来るね」

 そう言ってあざりはにっこりと、ちょっとだけ恥ずかしそうな顔をしながら、樹に向かって笑った。


「僕が怖くないの?」

「ううん。幽霊は怖いけど、幽霊のあざりは怖くないよ」と樹は言った。その言葉は樹の本心だった。(実際、臆病な樹は幽霊が大の苦手だった)


 樹は不思議とあざりととても気があった。

 あざりはもう死んでしまって幽霊になって歳をとることはないのだけど、現在のところ、二人の年齢は同じ中学一年生だった。

 それも同じ洛南中学校の生徒だと言うことだった。(でも樹は生きていたころのあざりのことを全然知らなかった。それは多分、あざりも同じだと思った)


 二人には共通点が結構あった。(好きなものもよく似ていた。雨の音とか。魚とか。風の音とか。静かな時間とか)

 それでもあざりは本当の本当のところをうまくぼかして樹に自分の話をした。だから樹はあざりが生きている間、どんな女の子で同じ洛南中学校でどんなことをして過ごしていたのか、そういったことを詳しく知ることができなかった。(樹はそれを知りたいと思ったけど、あざりが話したくないのならそれでいいと思った)


 そうして仲良くなった、二人が出会ってから二週間くらいしたころに樹はずっと秘密にしていた自分の恋を話をあざりにした。

 誰にも話すことができなかったのに、あざりにはなぜかその話ができた。


「へー。好きな子がいるんだ。やるじゃん」

 にっこりと笑ってあざりは言った。


 そのあざりの嬉しそうな顔を見て、あざりに自分の片思いの恋の話をしてよかったと樹は思った。(……のにち樹は、このことを後悔するのだけど、このときは本当にそう思っていた。このときの樹には、あざりがどんな気持ちで樹の話を聞いていたのか、どんな思いで樹と一緒の時間を過ごしていたのか、……あざりがなにを『樹に秘密』にしているのか、それを知ることが全然できていなかった)

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