5 二人の恋の話 樹の悩みは好きな子に告白できないことだった。

 二人の恋の話


 樹の悩みは好きな子に告白できないことだった。


「なるほどね。そういうことあるよね。うん。わかるわかる」とあざりは言った。

 そんなおちゃらけた態度のあざりを見て、樹は疑惑の目をあざりに向ける。

「なに? 僕の言っていること疑ってるの?」猫のような鋭い目つきをしてあざりは言う。

 あざりが勢いよく顔を動かすと、その小さなポニーテールが、まるで猫の尻尾のように空中で揺れ動いた。(その髪の動きが樹は大好きだった)

「あのね。今はこんなになっちゃったけどね。これでも、僕も恋をしたことぐらいあるんだよ」

 そう言ってあざりはくるりと樹の前で一回転をしてから、樹にふふん、と言って胸を張った。(あざりの長い紺色のスカートがふわっと樹の目の前でゆっくりと回転した)


「本当にあるの?」

「あるよ」

 自信満々であざりはいう。


「だから、まあ恋の相談なら僕に任せておいてよ。まずは、そうだな……。その子の好きなものってなんだかわかる?」

「二宮さんの好きなもの?」

「うん。例えば好物とか、あとは音楽とかさ、それに動物とか。猫が好きとか、兎が好きとか、鳥が好きとか、色々あるでしょ?」

「うーん」

 樹は考える。

「全然知らないの?」

「うん。わからない」

「それじゃあだめだね。全然だめだよ」

「どうして?」樹は言う。

「あのね、樹。その人のことを、今の君の場合だと二宮琴音さんのことを好きになるということはね、彼女のことをよく知りたいって思うことなんだよ。だからもっと二宮さんのことをよく観察してさ、彼女のことをもっとよく知ろうとしなくちゃいけないよ。まあ、もちろん、二宮さんの気持ちを悪くしない程度にって話だけどね」

「なるほど」樹は言う。


「じゃあ、今度聞いてみる」樹は言う。

「うん。そうしてみて」あざりは言う。


 そのタイミングで雨が上がったので、樹はあざりのいる東雲神社をあとにして自分の家に帰ることにした。

 幽霊のあざりは、この神社の外に出ることができないということだった。


 だからいつも、二人はあざりがぎりぎりまで移動できる限界の範囲である東雲神社の赤い鳥居のところで、さよなら、をした。(……それは今日も同じだった)

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