はじめての『カクヨム』

鈴木 千明

新規登録を完了しました

 『カクヨム』には、今日も新たなアカウントたちが訪れる。

「はじめまして!新たな作者、読者の皆様!」

新しいアカウントたちを迎えたのは、そんな明るい少女の声だった。ここは、『カクヨム』のメインシステムの入り口。白い空間に、画面のような長方形が1つ。向こう側の色なのか、青い光がこちらを照らす。その画面から、大きな何かが飛び出し、降り立った。その見た目は、デフォルメされたフクロウのようだ。翼は小さく、青い首飾りをしている。その背からひょこっ、と姿を現したのは、1人の少女だ。

「私は作者支援AI、リンドバーグ。初めての方へのガイドも担っております。この子はトリです。名前はわかりませんが…トリと呼ばれています。」

リンドバーグとトリは、丁寧にお辞儀をする。

「それでは、初めて『カクヨム』を訪れた皆様に向けて、簡単にガイドをさせていただきますね!」


 トリは、リンドバーグと新たなアカウントたちを乗せて、メインシステムの中へと飛び込んだ。青を基調としたプログラムの囲いの中に、長方形の大きな画面が無数に浮いている。

「『カクヨム』は、誰でも自由なスタイルで物語を書くことができ、いつでも、たくさんの物語を読むことができ、お気に入りの物語を他の人に伝えることができる。そんなです。」

1つの画面にトリが近づく。文章の書かれたその画面が白み、青い円がクルリと回ると、白い光が飛び出して別の画面に飛び込む。あちらこちらで光の筋が見える。

「『書ける、読める、伝えられる』をコンセプトに、物語を愛するすべての人たちに開かれています。」

先ほど光が飛び込んだ画面から、今度は光が戻ってくる。少し赤みを帯びた光だ。それとは別に、青みを帯びた光が様々な方向に拡散していく。

「ここを新たに訪れた皆様にも、思いのままに書き、好きなように読み、面白いを伝えていただきたいと思います。そして、それを支援するのが私の」

ビーッビーッ、と警告音が鳴る。

「す、すみません!エラーが発生したみたいです。少々お待ちくだ」

「ホー!」

「わぁ!?」

トリが急に旋回し、リンドバーグが悲鳴をあげる。

「急にどうしたんですか!?」

「ホー!」

「み、皆さん!掴まってください!」

グングン加速していくトリに、リンドバーグはしがみつく。トリは、1つの画面に飛び込み、着地した。

「バーグさん!」

トリの足元で、少年の声がする。

「カタリ!?」

リンドバーグはトリから降り、少年──カタリの元に駆け寄る。

「いったい何が…」

「それより、見て!」

カタリが、今しがた飛び込んできた方向、つまり、メインシステムの中を指差す。

「こ、これは…」

無数の画面が、黒く染まっていく。まるで、墨で塗りつぶされていくように。リンドバーグは急いで対処を開始する。この〝ブラックアウト〟の原因を突き止めるため、システムに空いてしまったを探し出す。

「ゔっ…」

突如、カタリはその場にうずくまった。

「カタリ、どうしたんですか!?」

「…………『書けない…』」

「…え?」

「『つまらない、どうせ、こんなの、誰も、読まない、駄目だ、下手だ、要らない、怖い、きっと、絶対、捨てる…』」

震えながら呟き続けるカタリ。

「カ、タリ…」

言葉を失うリンドバーグの目の前に、ウィンドウが開かれる。

『カタリィ・ノヴェルは今、〝詠目ヨメ〟で黒い画面を見ている。』

リンドバーグは、ハッとしたようにトリを見る。

「で、でも!詠目は、心の中の物語を見通すのでは…?」

『そうだ。つまり、その心が黒く塗りつぶされてしまっている。』

カタリはまだ、負の感情を言葉にし続けている。それは、小説を書く時に抱くであろう、不安を表したもの。

「それがどうして『カクヨム』のメインシステムに、こんな重大なエラーを齎したのです?」

『そこまではわからない。ただ、作者の感情は文章に現れ、文章は読者の心情を動かす。であれば、負の感情が伝播してしまっても、おかしくはない。』

メインシステムは、墨汁をぶちまけたように、ほとんどが黒く染まっていた。悲痛な表情を浮かべながら、リンドバーグは指と目と頭を必死に動かす。

「私は!作者支援AI、リンドバーグ!物語を愛するすべての人を愛するAIです!皆さんの物語が…消えて、いくなんて…」

しかし、リンドバーグはついに、目を強く瞑ってしまう。今いるこの画面も、黒に侵食され始めた。

「『…諦めない。』」

カタリが呟く。それは、負の感情ではない。誰かの、光を宿した言葉。

「『たとえ、拙い文章でも。』」

どこからか一筋の光が、黒の中を突き抜ける。

「『たとえ、多くの人に読まれなくとも。』」

白い光は、真っ直ぐこちらに、リンドバーグの元に飛んでくる。

「『どこかの誰かが1人でも、好きだと言ってくれるのなら!』」

リンドバーグは、その目を開いた。光が紙の束となって、彼女の手に収まる。

「『物語を書こう。小説が、好きだから!』」

「っ!」

画面を蝕んでいた黒が引いていく。

「…それは、そのは、今の君に必要なものだよ。バーグさん。」

カタリは立ち上がり、トリに飛び乗った。

「さぁ、今度はこっちの番だ!バーグさん、君の想いを、これを届けてくれた誰かに返すんだ!僕が必ず届ける!」

リンドバーグは頷き、紙の束を抱きしめる。すると、また光り出し、形を変えて手紙となった。それをカタリに渡すと、彼は頷いた。

「ホー!!」

トリは画面から勢い良く飛び出した。光の放たれた方向を目指して黒を裂く。それを妨げようと、黒い画面から得体の知れない何かが飛び出してくる。掻い潜るたびにトリとカタリは光を帯び、画面に反射する。

「え…ブラックアウトの割合が、少しだけ減っている?」

トリの軌跡から零れた光の粒が、黒く塗りつぶされた画面に触れる。全てではないが、そのいくつかが正常な白い画面に戻る。

「…それだけじゃない、これは…!」

白い画面に、黒が交じる。しかし、それは負の感情の表れではなく、光を宿す文字だった。文字が紡がれ、青い円を描き、白い光を放つ。光が黒い画面に届くと、その画面が正常に戻っていく。

「すごい…」

次々と連鎖し、白い光がどこかに届く。どこかから、赤の光が戻り、青の光が拡散する。


 リンドバーグがシステムをスキャンし直した時には、多少の綻びはあったものの、ほぼ正常に『カクヨム』は動いていた。今日もたくさんの小説が書かれ、読まれ、伝えられている。

「さぁ、あなたも書いてみてください。不安もあるかもしれませんが、私がついています。なんといっても、私は作者支援AI、リンドバーグ!そしてなにより、小説が好きで、小説が好きな皆さんが、大好きですから!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

はじめての『カクヨム』 鈴木 千明 @Chiaki_Suzuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ