第2話 嫌悪感、しかし学校へと道連れに。

「……で、なんで僕は学校に連れてこられているんだい?」

最悪な出会いから1日。月曜日。私が勤務している小学校にこの可愛げのない子供を連れてきた。生徒は不思議そうに遥のことを見つめ(一部私の隠し子かとからかう子供もいるが)、それ以上の興味は示さずに去って行く。全身から溢れ出る可愛げのなさに子供達は気がついているのだろうか。誰も彼に近づこうとはしない。

「あのねぇ、言ったでしょ?どこの誰か分かるまで私の家に泊めてあげる代わりに学校に連れて行くって。来ないって言うなら、家には置いてあげないから。」

「ホームレス、という言葉が存在するくらいだ、家がない人というのも今や認識されているだろう?それに君に僕は泊めてくださいと懇願した覚えもなければそんな約束を交わした覚えもない。全ては君が君自身の手で生んだ妄想なのであって僕と交わされた約束ではない。それを押し付けるなんて、やはり君は……」

「可哀想な人間、なんでしょ。」

ご名答、と言わんばかりに遥は鼻をふんっと鳴らしてみせた。この子供の可愛げのなさは一晩経っても見ていてやはり腹が立つ。

「興味たるものを示そうとしないからだよ。僕の事を知りたいと思わない限り、僕の存在というものは可愛げのない子供という名札をつけられた子供にしか見えない。もしもそんな名札だけで判断しているのならば、なんて世界は狭いのだろうね。言わずもがな、君の世界、だけれど。」

ふっと口元を緩めて笑う。そこに含まれていたのは純度100%の軽蔑という世にも恐ろしい感情であると悟った瞬間、あまりの恐ろしさに時間が止まったと錯覚していたようだった。

「あのクソガキ!!!今日からみっちりしごいてやるんだから、覚えてなさいよ!!!」

気がつけば職員室でこう大声で叫んでいた。こう見えて大人しい人、というイメージを持たれているせいか、こんな事を叫ぶ人とは思わなかったと言わんばかりに距離を置かれている。ただの猫被りがこのような結果を生んだのだ、自業自得である。しょうがないんです、これが本当の私なんです。

「朝から本性丸出しにして叫ぶなんて、よほどのことがあったのでしょうね。」

毎日のように聞くお嬢様口調。顔にかかるアイロンで器用に巻かれた焦げ茶色の髪の毛。さりげなく振りかけられた香水の香り。私の幼馴染だ。ちなみにお嬢様口調はただのキャラ作りである。

「猫被りの天才が朝から吠えるなんて驚きましたわ。」

「そういうあんたの方が猫被りの天才だと私は思うけどね。」

彼女はむしろセレブと正反対の極貧生活を送っている。理由はその見栄を張る為に大量購入している服。「そういえば昨日マンションに小さな男の子と一緒に入る姿を目撃されていますわよ、その子と何かあったのですか?」

校門でも見かけた、との情報も入ってきていますけど、事実なのですか?、と続けた。

「あら?」

ドアを見る。そこに立っていたのは、

「は、遥!応接室にいろって言ったでしょ!」

「意図的なのか無意識になのか、その真意は僕には分からないが、全ての情報に触れる機会をシャットアウトされたあの応接室たる窮屈な部屋に僕を閉じ込めるという拷問をやってのける君の神経を罵るには誰かに聞いてもらうという環境を整える事が最優先だと考えた結果、辿り着いた。ただそれだけだよ。何も早く教室に案内してくれと懇願しにきたわけではない。」

先生方、こんな扱いに苦労する子供をこんな時に入れて申し訳ないです。そのぽかーんと開いた口はきっとこの先も塞がることはないと思いますよこれが通常運転なんで、と早口に伝えたい気持ちをぐっと抑えて今できる最大の愛想笑いと共に私達は職員室を後にした。

こりゃ駄目だわ、そう考え鍵を渡してとっとと帰ってもらった。いくらフリースクールとはいえ、こいつは真っ先に孤立しそうだ。

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