第5話 街へと行ったその後で。

 ――始まりの都「ベルディ」――


 まだ発売してから一ヶ月半しか経っていない「アグルベール・オンライン」は、未だに新たな街は出ていない。

 そのため、強そうな見た目のパーティと初期装備の独り身冒険者、どちらも見受けられた。


 アカリの見た目は後者だが、「アグベ」が発売されてすぐに始めたため上級者と言えるかもしれない。

 そんな上級者が、ようやく初めて街に訪れた。


 「あ、メニューにこんなのあったんだ! ステータスしか見てなかったから気づかなかった!」


 アカリは、メニューのアイテム欄を覗いて言う。

 そして、「ダークリザードマンの爪」や、「ドラゴニュートの鱗」が溢れるアイテム欄から地図を発見して取り出した。


 「……ん? なんか地図が光ってる……」


 そしてワープオブジェクトから真反対の位置に、地図の北側に光っている場所を見つけた。


 とりあえず行くあてのないアカリは、その場所を目指して歩き出す。


 しかし、その途中でガラス張りのショーウィンドウの中にある服を見て、足を止めた。


 そして、ガラスに張り付いてその服を見回す。


 「魔導師用の装備……? 可愛いなー!」


 せっかく街に来たのだから見てみようと、ドアを開けようとする。

 しかしドアは開かず、目の前には文字が出た。


 【ストーリー:1ー5クリア後解放】


 「えー! 入れないのー!」


 仕方がなく、とぼとぼと再び歩き出す。

 そしてまた足を止める。


 「んん? 鍛冶屋さん?」


 そこは、【ストーリー:2―5クリア後解放】と文字が出たため、やはり入れなかった。


 他にも、闘技場やダンジョン、カジノなど色々あったがどれも入ることができなかった。

 ただし闘技場に限っては、リリース記念の時みたいなイベント時だけは条件を満たしていなくても入れるようだ。


 行くあては無いと思っていたが、たくさん寄り道をしている。


 「そう言えば、麻耶華ちゃんが美味しい食べ物があるって言ってた気がする!」


 寄り道をしているうちに、過去の友人との会話を思い出し、アカリはお店を探し始めた。


 










 結局地図で見た場所についたのは、かなり後のことだった。

 三時のおやつを満喫したアカリは、他にもアイテムを見て行ったが、ようやくたどり着いのだ。


 「えーと……集会所?」


 そこは、クエストを引き受けるための集会所。

 そして、中に入ると受付の女性の頭上に「!」が出ているのを発見した。


 「こんにちわー」


 「こんにちわ、こちらは冒険家組合です。受付をお願いします」


 アカリが話しかけると、まるでマニュアルに従って話を進めるように、受付員が紙を取り出した。

 それに戸惑いつつ、彼女は自身のプレイヤーネームを記入すると話は進む。


 「ありがとうございます。

 では、これから説明を始めます。冒険家にはFからAのランクがあり、まずはFから始まります。

 一定の功績が認められるとランクアップします。

 それでは頑張ってください」


 それだけ言うと、アイテム欄の「大切なもの」に冒険家カードが加わった。

 さて、これから何をすれば良いか。


 「えーと、地図地図……」


 何をすれば良いか分からない時は地図を出せば分かると思った。


 地図を見ると、ワープオブジェクトから集会所までまっすぐ伸びるメインストリートの中間が光っていたので、そこに行くことにした。




 そこまで行くと、アカリは女の人を見つける。彼女の頭上には「!」があったため、すぐに判別することができた。


 その女の人に近づくと、あちら側から話しかけて来た。


 「すみませんそこの方」


 「あ、はい!」


 アカリが返事をすると、その女の人は話し始める。


 「私の息子が、この度冒険家になるのですが、良い武器を買ってあげることができずに困っているのです。

 そこで、安く武器を作ってもらうため、あなたにドロップアイテムを取って来て欲しいのです。

 「fffff1」にある、貝からパールを取って来てください。お願いします」


 女の人がそういうと、【ストーリー:1ー1】と文字が出た。


 「これを進めれば、お店に入れるようになるんだね!」


 そういうと、すぐさまワープオブジェクトで移動を開始した。







 「fffff1」――真珠の海――


 「うわープレイヤーがいっぱいいる!」


 そこには、初期装備のプレイヤーが「パール」を求めて集まっていた。

 アカリの前に現れたのは、魚型のモンスターだ。


 【パルフィッシュ】


 モンスターのドロップアイテムであり、今回アカリが狙っている【パール】が好物で、それを狙って集まる魚らしい。


 噛みつき攻撃を後方に躱してから、一歩踏み出して目と目の間の辺りを杖で一発叩くと、パルフィッシュは光となって消えた。


 「うん、これならスキルなしでも楽勝かな!」


 そうしてパルフィッシュを倒しながら進んでいた時に、遠方より誰かの叫び声が聞こえた。

 それはアカリの研ぎ澄まされた耳でなければ聞き取れなかっただろう。


 初心者ではありえないほど速いスピードで一気に走って行くと、そこには中級者らしき三人のパーティが、大勢の初心者の冒険家に囲まれていた。

 一見すれば、中級者が叫び声を上げたのかと思われる絵だが、実際は違う。


 「おいおい、雑魚どもが俺たちになんの用ですかー?」


 と、中級者パーティは人を小馬鹿にするように暴言を吐き、握る剣や槍で軽々と初心者を斬り捨てていく。


 「お前らが急に斬りつけて来たんだろ!」


 アカリは、初心者の冒険家がいうことが正しいと、すぐに分かった。


 中級者パーティの彼らは、PK――プレイヤーキラーだ。


 アカリは、初心者を狩って楽しむなんて性格悪いなあ、と思いつつ、少し見守ってみる。


 そして初心者が集団で取り囲み、三人に斬りかかろうとしたその時、三人のうちの一人である魔導師の杖が輝いた。


 それを見逃さないアカリは、瞬時に声を張り上げて呼びかける。


 「危ない! 退いて!」


 しかし、その声に反応できなかった者達は、範囲魔法で簡単に倒されてしまった。

 魔法の光が散ると、そこに居た初心者達の所持品であった物が転がっている。


 「ははは、雑魚どもが集まっても所詮は雑魚なんだよー!」


 と、調子付く中級者パーティは初心者たちを罵倒する。

 およそ半数まで減った初心者を見て、アカリはムッと頰を膨らました。


 「お兄さん達、感じ悪いなー」

 「あ? なんだガキが、調子にのってんじゃねー!」


 中級者パーティのうち、剣士の男が斬りかかろうとするが、その剣は当たらない。

 真横へと飛び退いたアカリは、眉を吊り上げて言った。


 「調子に乗ってるのはお兄さんたちでしょ! 皆んな楽しんで遊んでいるのに、邪魔しないでよ!」


 「なんだと? クソガキが!」


 そういうと、男は剣を両手で胸の辺りに構えながら、アカリに走り寄って来る。

 周りからは、アカリに向かって「やめろ!」と言う声が多数聞こえるが、彼女は逃げない。


 「【三連斬り】!」


 その声と同時に男の剣が光り、人の力ではありえないような速さで攻撃が繰り出される。


 しかし、それもアカリには当たらない。それどころかスキルの使用は、彼女からしてみればチャンスとなった。


 アカリは三振り目の攻撃を、かがんで躱した反動で、足を引っ掛けて転ばそうとする。


 しかし、それはできなかった。


 「どこを見てやがる!」


 そう言って斬りつけて来たのは、槍を持つランサーの男だ。

 それを余裕を持って躱したが、アカリは攻撃を加えることができなかった。


 「鎧の音が聞こえてるから、不意打ちはできないよ?」


 アカリは口角を上げて、余裕気な表情を見せながら言う。

 彼女は全く負ける気がしなかったのだ。


 これまでは一対一の闘いしかしてこなかったが、今回は違う。

 相手は仮にも中級者パーティであり、統率のとれた闘いを繰り広げていた。

 そのせいで、なかなか相手に攻撃を加えることができない。


 しかし、それでも余裕があるのだ。


 アカリの挑発とも取れる態度を見て、額に青筋を入れるランサーは、剣士と頷きあうと間合いを詰めた。

 そして、二人が一斉に斬りつけて来るが、アカリはそれを杖で受け止めた。

 するとアカリの次は、剣士が口角を吊り上げた。


 「ふっ、かかったな!」


 剣士がそう言った瞬間、アカリの持つ杖から衝撃が加わり後ろにノックバックされてしまった。

 すると、次にはアカリの死角から魔法スキルが飛んできた。

 前衛二人に気を取られていて、魔導師の存在を忘れていたのだ。

 無情にもその【ファイア・ボール】はアカリの背中に直撃する……はずだった。


 「させんぞ!」


 そこに現れたのは、大盾を構えるナイトのおじさんだ。


 そのおじさんの見た目はアカリに違和感を与えたが、それがなんなのか、彼女に考える暇などなかった。


 「君みたいな魔導師には、前衛が必要だろ?」


 そういうと、迫る剣士とランサーの攻撃を全て受け止めて跳ね返す。

 そのナイトは初期装備ではあったが、とてもゲームに慣れているようだ。

 アカリは、とても心強いと思った。


 「おい、嬢ちゃん! 何かスキルがねえのか?」


 「一応あるんですけど、範囲にいる人を巻き込んでしまいます!」


 「じゃあ仕方ねえな! 叩くぞ!」


 それだけ言うと、おじさんが魔導師目がけて走り出す。

 後衛から狙うのは定石のようなものだが、ゲームをあまりしたことのないアカリは、その動きをできなかった。

 しかし、おじさんがそれをしたことで魔導師を守ろうと二人が動く。

 そのせいで単純な動きを見せてしまい、アカリに一度叩かれる剣士。


 「何だこいつの攻撃は!?」


 HPの減り具合に驚く剣士を、アカリ達が気にかけることはない。


 剣士は仲間のランサーに魔導師を託し、アカリに斬りかかるが一対一ではアカリが上だ。

 少しでも隙を見せればアカリは杖を振り下ろし、しっかりと急所に当てていく。


 急所にもう一度、コツンと杖を当てると剣士は光となって消えた。


 振り返るとおじさんがランサーと闘っている。相手には魔導師の援助もあったため、おじさんが明らかに押されていた。

 しかし、そこにアカリが現れたことで一気に形成逆転する。


 ランサーの攻撃をおじさんが弾き、よろけた彼をアカリが叩く。

 そこでついに、相手の魔導師が動き出す。再び杖が眩しいくらいの光を放ち、広範囲の魔法陣を発動したのだ。


 危険を察知した時には、もう遅かった。


 「くらえ! 【暴風の檻ストーム・ケージ】!」


 そして、それを直撃したアカリとおじさんを見て、中級者パーティは勝ちを確信し、笑みを漏らした。

 逆に、初心者たちは唇を強く噛んで視線を下に向ける。


 「はは……ざまあ見やがれ!」


 その声は暴風にかき消され、その後、場にいた皆がありえないと言うように目を見開く。


 砂煙が晴れていくにつれ、二つの影が見えたからだ。


 「HPが結構削られた!」


 「おいおい嬢ちゃん、俺なんか1しか残ってねえぜ?」


 初心者ならばこの一撃を耐えられる訳がなかった。

 しかしアカリはレベルMAXであったため、あまりダメージを喰らわなかったのだ。

 また、おじさんも何かしらスキルを持っているのだろうと予想できた。


 気を取り直した二人は、各々の形で武器を構える。


 「よし、次で決めるぞ!」


 「はい!」


 そして二人同時に駆け出し、おじさんが盾で押し倒したランサーに、アカリが杖で殴りかかる。

 すると、ランサーは光となって消えていく。


 残るは魔導師ただ一人。アイテム欄から何かを取り出そうとしているが、そうは問屋がおろさなかった。

 結局、杖で中級者パーティは皆叩かれて、あえなく街へ帰っていった。


 その瞬間、場には沈黙が訪れる。


 「「…………うぉーーーーーーーーー!!」」


 しかし、すぐに場は歓声で塗り潰された。


 「すげえ、すげえよ! 魔導師が杖で殴り殺すなんて見たことねー!」


 「魔導師の子もナイトのおっさんも半端ねえ!」


 そんな声と共に届いたのは、スキル獲得の言葉だった。


 【スキルを獲得しました】

 【殴打好き】

 効果:STRに元の数値の50%をプラスする。

 MP:――

 取得条件:魔導師が物理攻撃でとどめを10回さす。


 【クリティカル・ヒッター】

 効果:相手の急所に物理攻撃が当たった際にダメージが2倍になる。

 MP:――

 取得条件:急所に連続1000回攻撃を当てる。



 「おおーー!」


 驚きと嬉しさのあまり、アカリが大きな声を出してしまった。

 すると、何を勘違いしたのか周りの初心者の者たちも雄叫びを上げた。


 「「おおーーーー!!」」


 随分とごちゃごちゃになってきたので、アカリはその小さな体躯を活かしてサッと抜ける。

 その事に、未だ気付いた者はいなさそうだ。


 「はあ、勝った勝った!」


 とても満足そうな笑みを浮かべて、伸びをした。

 そして気付かれる前に、ささっと奥地まで行って、貝型のモンスター【パールシェル】を倒し、パールを手に入れたのだった。


 この出来事からわずか数時間で、アカリの噂は広まっていく。

 そして、アカリは初心者の憧れの的となったのだった。

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