第4話 目に留まったモンスターは殴打で。

 街へ帰ると、自動的にMPは元通りになる。

 そのため、黒の神殿のフィールドに来たアカリは、迷わずに【死者の王】を発動し、真っ直ぐ神殿へと向かう。

 白くなった髪を揺らして草木を枯らしていく姿は、まさに死神のようだ。


 「ん! なんか歩くの速くなった!」


 AGIが上がったことで、歩くスピードも上がったため、前回よりも早く神殿へと着くことができた。

 再び、門番に気づくこともなく倒した後、建物に入ったアカリは想定外を予想しながら慎重に進む。

 そして罠を躱しながら進んでいると、前回倒れてしまった場所へと辿り着いた。


 すると顔をパチンと叩いて、いざ、大きく一歩踏み出した。


 「ガタッ!」


 (来た!)


 岩が背後からドドドドと、大きな音を立てながら進んでくる。


 「ひぃー! こ、これなら間に合うかも!」


 そう思い、アカリは速度を上げようと床を思い切り蹴ろうとした、その時。


 ガッ、と何もない所でつまずいて、前方に倒れていく。


 アカリは悟ってしまった。やらかしたな、と。

 倒れた身体の背後からは「ドドドド!」と、けたたましい音が迫ってくる。


 しかし、アカリは諦めない。

 AGIが上がった今ならば……! と、彼女は一瞬で大岩から逃げようと決断して、立ち上がろうと敷石に手をついた。


 すると、手元から「カチッ」という小さな音が聞こえて、背後からは「ズズズ、ガチャン」と、何かが開く音がした。


 それと同時に、廊下に響きわたっていた轟音は止み、その場には嘘のような静寂が訪れる。


 手元の敷石は、明らかに他とは色が違っていた。また、振り向いたアカリの目には、大きな穴が映った。


 「……よし! 次!」


 プレイヤーを危険に陥れる仕掛けもあれば、その仕掛けから救う仕掛けもあるのだ。


 その後も落とし穴や毒矢が飛んできたが、AGIが上がったアカリは造作もなく躱し続けた。

 また、非正規ルートには、毒床などもあるのだが、アカリはそのリアルラックで回避していた。


 そして、正規ルートから外れることなく、一つの大きな部屋に入った。そこで、今まで気になっていなかった、モンスターが目に留まった。

 そのモンスターは、鱗や角を持つがヒトの形をしている。


 「いつぶりかな。ここに人間が来たのは」


 「え、えーと……あなたは?」


 「僕は竜人、ドラゴニュートだよ」


 そのドラゴニュートの頭の上には【レジスト】と出ている。

 【死者の王】は効かないようだ。


 「さて、これより先には行かせないよ」


 戦闘体勢になったドラゴニュートに、アカリも杖を構える。

 すると、それが戦闘開始の合図となった。


 ドラゴニュートは左脚で地を蹴ると、一瞬で距離を詰めてアカリに殴りかかる。

 それも、一撃だけではない。


 前から、下から、左から。


 「っ! 速い!」


 AGIが上がってなければ、一撃も躱すことができずに負けていただろう。

 攻撃をギリギリで躱しつつ、チャンスを伺う。


 アカリが攻撃を躱し続けていると、ドラゴニュートが左手を前に突き出しスキルを唱える。


 「【暗黒の突風ダーク・ブラスト】」


 すると、そこから黒い風が吹き出した。

 しかし、アカリは真横へと躱し、チャンスを見出すことに成功した。


 「魔法スキルを使うときは、少しだけ動きが止まるんだね!」


 そして一気に近寄っていき、片手で握った杖を振り下ろして頭を叩く。

 すると、ドラゴニュートの頭上に「5」という数値が出た。

 しかし、赤いバーは一ミリ程しか縮まってない。また、ドラゴニュートの動きや表情には何ら変化はなく、余裕がある顔だ。


 それでも……


 「え、すごい! 5もダメージが入った!」


 アカリにすれば、一ダメージしか入らなかった頃の五倍の数値に興奮してしまった。

 他の人間ならば「硬すぎる!」と文句たらたらだろうが、彼女は普通ではない。


 それから、相手が【暗黒の突風】を使うごとに五ダメージ与えていき、やっとのことで半分までHPを削る。


 その時だった。


 「なかなかやるじゃないか。ならば真の力を見よ!」


 ドラゴニュートがそういうと、鱗が全身を埋め尽くし、角はより一層大きくなった。また、腕は翼となり、大きく上へ広げた。

 それはヒト型ではなくなり、もはや小さな竜だと言えるだろう。


 「【闇の渦】」


 変身し終えた瞬間に、魔法スキルを仕掛けるドラゴニュート。

 不意を打たれたアカリは、口から放たれるその攻撃を直撃してしまい、壁に打ち付けられた。


 「不意打ちなんてずるいよ!」


 アカリのHPは残り一割になってしまった。

 次にもう一度当たったら死んでしまうだろう。


 「危ない危ない……」


 これまでの時間が無駄になってしまうため、それだけは避けたいと思っている。


 アカリはより一層注意深く、ドラゴニュートと対峙することに決めた。


 【闇の渦】は、【暗黒の突風】よりも攻撃範囲が広く、ギリギリで躱す形となってしまった。

 しかしヒト型の時と比べて、ドラゴニュートの動きが少し鈍くなっていると感じる。


 そのため戦術を変えて、通常攻撃の時に攻撃を狙うようにした。










 すでにアカリは三時間以上闘っている。


 ドラゴニュートはMPを使い切ったのか、スキルを使ってくることはなくなった。

 そのため、アカリの連続攻撃が当たることも多くなり、ついに戦闘の終わりが告げられる。


 「えい!」


 大きく振りかぶった渾身の一撃は、ドラゴニュートの頭にジャストミートし、HPを全て削りきった。

 文字通り、ボッコボコだ。

 するとドラゴニュートは膝をつく。


 「ふっ、僕が人間に負けるとは……先に進むが良い。あの御方の元で君は絶望するだろう……」


 そういうと、ドラゴニュートは光になって消えていった。










 「ふうー、なんとか勝てたよー!」


 アカリは軽くガッツポーズをすると、進み出す。

 しかし、アカリは違和感を感じて、立ち止まった。そして、自分の周りを舞っているはずの紫色の光がなかったことに、ようやく気づいた。


 「あ、そういえば! 【死者の王】の効果が切れちゃってるんだ!」


 MPの不安があったが、【死者の王】を使うことができた。恐らく、【ソウル・イーター】の効果が発揮されたのだろう。

 このループは、ほとんどの敵対する者からすれば、最悪の組み合わせでは無いだろうか?


 あのドラゴニュートを倒した後、一般モンスターが全てドラゴニュートになったが、【死者の王】で蹴散らすことができた。

 あの部屋のドラゴニュートが桁外れな性能だったようだ。


 これならばHPが残り少ないアカリでも、「あの御方」の存在を拝見することくらいはできるだろう。


 そして罠を躱しながら進み続け、ついに大きな鉄門の前までたどり着いた。


 ギギギと鉄門を開け、「おじゃましまーす」と言って入った先には【死者の王】をレジストする存在がいた。


 「ふっ、よくぞここまでたどり着いたな。我が力を持って歓迎しようぞ!」


 それは紛れもなく竜だった。

 真っ黒な鱗で覆われた、体長十メートルはあるではなかろうかという巨躯。


 【ダークドラゴン】


 その竜に向かって杖を構える。


 (よし、できるところまで削ってやる!)


 そして、竜が大きく口をあけ、咆哮を鳴り響かせたのが闘いの合図となった。

 アカリに巨大な拳が迫って来るが、その拳の速度はドラゴニュートよりも遅く、彼女はしっかりと躱せる。


 (さっきの竜人さんの方が強かったかも?)


 二発、三発と躱し、チャンスを見つけたら逆に攻撃する。

 いくら攻撃力が高くなっていても、当たらなければ意味はないのだ。


 地を両足で思い切り蹴り、高く跳躍してから竜の頭にしがみつく。

 そして、何度も何度も杖を叩きつけて竜の体力を削っていく。

 竜のHPは、杖で殴る度に三ずつ減っていっている。


 「意外と倒せたりして!」


 しかし、そんなことを口走ったのが最後、死亡フラグを立ててしまった。


 竜は首を大きくうねらせて、アカリを振り払った直後、その大きな口を開けて言葉を発する。


 「なかなかやるじゃあないか。ならばこれはどうかな! 【死の領域デス・ゾーン】!」


 竜が放ったそのスキルは、超広範囲攻撃だった。


 部屋全体を埋め尽くすほどの魔法陣が出現し、逃げ場がなくなってしまったのだ。


 しかしアカリは、


 「えー! 綺麗ー!」


 と、悔しがるどころか、感嘆の声を上げる。


 また、対策を練るために【死の領域】を知れて良かったとアカリは感じていた。

 そして魔法陣内には、無数の黒い稲妻が打ち付けており、呆気なく死んだ。












 何度見たか覚えていないその噴水の前で、アカリは思案する。

 【死の領域】の攻略法を。


 「そうだ! 街に行けば何かあるかも!」


 そしてアカリは、ようやく初めての街探索を始めるのであった。


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